じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

芥川龍之介「袈裟と盛遠」

2019-09-21 17:38:59 | Weblog
☆ 芥川龍之介「羅生門・鼻」(新潮文庫)から「袈裟と盛遠」を読んだ。

☆ 盛遠は袈裟と言う少女に恋焦がれるが、その気持ちは受け入れてもらえず、袈裟は渡と言う侍のもとに嫁いだ。3年ぶりに盛遠は袈裟を見かけ、自分のものにしたいという情念が燃え上がってくる。いろいろあって強引にも一夜を過ごした盛遠。袈裟に夫殺しをもちかける。盛遠の計略に乗ったかに見せかけた袈裟だったが・・・という話。

☆ 原典は「源平盛衰記」の「文覚発心」。後に源頼朝をサポートした文覚という僧がいた。元は北面の武士で遠藤盛遠といった。従妹でもある袈裟という人妻に横恋慕し、強引に体を奪う。ことが終わった後で袈裟は盛遠に夫殺しをもちかける。その気になった盛遠。袈裟の夫、渡の首を断ち切って、これで袈裟は我がモノと家に帰ったのだが、その首は渡のものではなく袈裟のものであった。理不尽にも不倫したことを夫に詫びる覚悟の末のことであったのだろう。さすがに盛遠はショックを受け、出家したという。

☆ この作品は芥川作品よりも原典の方が面白く感じた。多分、芥川は「藪の中」のように一つの事実を2つの視点から捉えたかったのであろう。それが、盛遠と袈裟それぞれの独白で記されている。意図は判るが、話を複雑にしているように感じた。
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藤堂志津子「熟れてゆく夏」

2019-09-21 15:15:34 | Weblog
☆ 藤堂志津子さんの「熟れてゆく夏」(文春文庫)から表題作を読んだ。

☆ 律子は女子学生。叔母が経営する美容室を手伝っているとき、松木夫人と出会った。夫に先立たれたあとひたすら働いて財を成した女性だ。彼女には粗暴だが性的魅力だけは豊富な若い愛人、紀夫がいた。その夫人が律子に紀夫と旅で出ることを勧める。何か魂胆があるようだが、律子はこの提案を受け入れる。夫人が合流するまで3日間我慢すれば良いと思って。

☆ 中盤はなかなかエロい。暗喩で表現される濃密な性体験が刺激的だ。

☆ エロいが下品ではない。それは作者の綿密な言葉選びと文章力の効果であろう。直接的な表現でない分、読者のイマジネーションを挑発する。

☆ 荒々しい紀夫に嫌気がしたり、「嗜虐性」のゆえか高慢な律子に不快感を感じたりするが、それもまた人間の一面なのかも知れない。生きることは善悪で割り切れないものがある。

☆ さてエンディング、律子は夫人の策略に反旗を翻すが、果たして一皮むけるのか。
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稲見一良「焚火」

2019-09-21 01:24:19 | Weblog
☆ 稲見一良さんの「セント・メリーのリボン」(光文社文庫)から「焚火」を読んだ。

☆ 短い文を積み重ねハードボイルドな物語を紡いでいた。情景がよく見え、好きな文体だ。この作家のことはよく知らない。本の帯に「復刊」の文字があるから、しばらく絶版だったのだろう。

☆ 惚れてはいけない女と恋に落ち、追手に追われる。逃避行、遂に行き詰まり女は追手のライフルで絶命。「逃げて」と言い残して。男はずぶぬれになりながら、疲れた体を引きずるように歩く。その時、煙の臭いを感じる。少し先に焚火を見る。老人が誰かと話しているようだ。しかし、老人の他に人影はない。という感じで話が進んでいく。

☆ 何者か正体不明だが、この老人がカッコいい。
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村上春樹「女のいない男たち」

2019-09-21 00:34:36 | Weblog
☆ 村上春樹さんの「女のいない男たち」(文春文庫)から表題作を読んだ。

☆ 「まえがき」に書かれていたが、この作品はこの短編集の「しめ」だ。和食のコース料理だと仲居さんが「そろそろお食事を」と軽いご飯と香の物などを運んできてくれるが、そういうものなのだろう。「しめ」から食べるのは無粋ではあるが、短いというそれだけの理由でこの作品から読んでしまった。

☆ 深夜1時の電話。それはかつて2年ほど付き合った女性の死を報告するものだった。そう報告。夫と名乗る男性は、極めて事務的にそれを伝えて電話を切った。夫と名乗る男性は意図して事務的に語ったのだろうか。なぜ今は亡き妻の遥か昔の彼氏になぜ報告の電話をそれも深夜の1時に鳴らしたのだろうか。

☆ 散文詩のように文が並ぶ。喪失感が蘇る。喪失感を文字で埋め合わせているようだ。

☆ これは弔辞だ。

☆ 女のいない男たちに、女のいない男たちが送る弔辞だ。弔辞は先逝く人へのはなむけだが、同時に喪失感を癒すヒーリング・ミュージックなのかも知れない。
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道尾秀介「鈴虫」

2019-09-20 21:31:14 | Weblog
☆ 道尾秀介さんの「鬼の跫音」(角川文庫)から「鈴虫」を読んだ。

☆ 私たちは刑事のように、「事実がどうなのか」「犯人は誰なのか」「動機は何で、凶器は何で」と考えてしまう。それで事件が解決すると何かホッとする。

☆ ところがこの作品は読後感が悪い。事実がどうなのか結局わからないし、それはむしろどうでもよいことなのかも知れない。文字通りに読んでも良いし、もっと深読みしてもよい。鈴虫に何らかの意味を求めてもいいし、単なる小道具として読み進めてもよい。すべては読者に委ねられている気がした。

☆ 展望広場の崖の下、堆積した腐葉土の中から死体が見つかった。その件である男が取り調べられる。男は11年前の殺人と死体遺棄を告白するのだが・・・。

☆ 事実などと言うものは、所詮は個人の認識に過ぎないのかも知れない。
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ドキュメンタリー「連合赤軍の崩壊」

2019-09-19 23:17:17 | Weblog
☆ 「ニュードキュメンタリードラマ昭和 松本清張事件にせまる」(1984年)から「連合赤軍の崩壊」を観た。制作はテレビ朝日。

☆ この時代のドキュメンタリーは面白い。「あさま山荘」「リンチ殺人事件」が1972年だから、それからおよそ10年後に事件を総括した作品。当時は民放でもこうした作品ができたんだね。制作サイドのジャーナリストとしての気骨を感じる。

☆ 安田講堂が落城し、急速に学生運動が冷めていく時代。先鋭化していった一部のセクトは武力闘争をめざしていく。首相官邸への攻撃を目論んだ赤軍派が大量検挙された背景には公安の内定があったんだろうね。

☆ それにより有力な指導者を失った赤軍派と革命左派(京浜安保共闘だったかな)。集団リンチの背景には、セクトの合同による文化の違いもあったんだろうね。結局は、少数化し「あさま山荘」へと進んでいく。番組が「連合赤軍の崩壊」と根付けた意味合いがよくわかる。

☆ 松本清張さんは、当局が一連の動きを知っていたうえで「放置していた」と指摘されていたが、鋭い見方だと思う。国家権力(当時の政権、あるいは警察機構)のしたたかさ、強さを感じた。彼らに言わせれば学生運動など幼稚な革命ごっこだったのだろうね。

☆ それでも1995年の「サリン事件」はさすがに肝を冷やしたのではなかろうか。2001年の「同時多発テロ」、テロではないが「阪神・淡路大震災」「東日本大震災」など、振り返ってみればわずか数十年のうちにいろんなことがあったなぁ。

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松本清張「火の記憶」

2019-09-19 17:39:44 | Weblog
☆ 「松本清張傑作短篇コレクション下」(宮部みゆき責任編集、文春文庫)から「火の記憶」を読んだ。

☆ 以前に別の短編集で一度読んでいるから再読になる。短くても松本清張の作品はワクワクする。

☆ ある女性が結婚を決意する。相手の戸籍を見て兄が渋い顔。相手の父親が失踪したことになっている。そうネタ振りをしておいて、次にその結婚相手の男の物語へと続く。

☆ 男には父親の記憶がない。ただ何か見知らぬ男の記憶が残っている。彼は謎をめぐってかつて居住した九州まで赴く。すでに多くの時間が経過しているので、関係者は亡くなり、生存していても詳しいことはわからない。無駄足だったと落胆、ところが帰路の車窓から見たぼた山の風景、赤く染まるその風景を見て、彼は自分なりの結論を得る。

☆ 男がたどり着いた結論が正しいのかそれは判らない。一つの推論に過ぎない。

☆ 妹の結婚に渋い顔をしていた兄も、事情を推察し、結婚を快諾。妹に手紙を送る。そこには兄なりの推理が描かれていた。その手紙の末尾に記された「女の気持ちはそんなものであろう」という一言がいい。森鷗外の「最期の一句」のようだ。

☆ その言葉を受けて、その手紙を細かく裂くところ。「泰雄がどんな人の子であろうが、も早、私には問題ではないのだ」(456頁)。この言葉が力強い。

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伊集院静「苺の葉」

2019-09-18 23:49:58 | Weblog
☆ 伊集院静さんの「受け月」(文春文庫)から「苺の葉」を読んだ。

☆ 映画館、スクリーンにはひまわり畑を女性が歩いているシーン。これだけであの名曲が脳裏に響く。ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニ。戦争が二人の男女の運命を大きく変えた物語だ。

☆ 伸子がこの映画を観ているとき、一人の長身の男が入ってきた。伸子は20年前の日々を思い出す。

☆ 今や49歳。後輩からは「独身主義ですか」とさえ言われる。そんな伸子にも小さな恋愛物語があった。

☆ この恋物語は敢えて書かないでおこう。

☆ そして、思い出に浸りつつ映画はエンディングを迎える。
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夏樹静子「花を捨てる女」

2019-09-18 21:01:39 | Weblog
☆ 夏樹静子さんの「花を捨てる女」(新潮文庫)から表題作を読んだ。

☆ 都会のアパートで33歳のOLが刺殺された。就寝中の犯行のようで、被害者に抵抗した跡がなく、また苦痛も感じなかったようだた。被害者にとっては予想外の最期だったのだろう。ドアが施錠されていなかったことから、当初から顔見知りの犯行が疑われた。

☆ 非常にオーソドックスな展開。最後にピリッと味わいがある。切なくもしたたかな女心に男としてはとまどってしまう。

☆ 花を小道具に使うあたりは女性作家ならではか。花の美しさに込められた想いを考えながら読みたい。 
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東野圭吾「犯人のいない殺人の夜」

2019-09-18 18:23:44 | Weblog
☆ 東野圭吾さんの「犯人のいない殺人の夜」(光文社文庫)から表題作を読んだ。

☆ 有名な建築家の家で、ある女性が死んだ。胸にはナイフが刺さっていた。その家に家庭教師として出入りしていた男は脈をとって手遅れだと言った。建築家は警察に知らせることを嫌い、死体を隠蔽することになった。数日して、女性の兄と名乗る男がやって来るようになった。妹がこの家を訪れるとメモを残していたというのだ。

☆ 殺人の夜と後日談が交互に進む。前半は戯曲のような感じがした。何か舞台を見ているようだった。

☆ 終盤、なぜ女性が殺されたのか、そして殺人の裏の複雑な事情が紹介される。話者がちょくちょく変わるので混乱するが、それもトリックの装置なのだろうか。
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