もやいマンション日記

マンション役員の体験を綴った「マンション日記」に、プライベート所感を綴った「nonnon日記」が混ざっています。

No.369「体のないハクの物語⑦」

2021-09-06 | 日記

             nonnon日記

 ずーっと夢にまで見ていた懐かしい「我が家」がなくなっていてー

ボクはその場にしばらくへたり込んでしまった。

やがてカールが目を覚ました。「ここはどこ?」

「着いたんだよ。ボクの故郷だよ」「待ってよ、どうなってんだい?」

二人でもめていると、ボクらの気配を感じたのか、そこの家の犬が急に

庭で吠え始めた。(人間は全く気付かないのに、どうも五感の鋭い動物は、

ボクらの存在に気付いてしまうらしい。)

追い立てられた感じで仕方なく、ボクはカールを背中に背負って、隣の

「オイちゃん」の家の庭に回ってみた。

(ご飯がなくて、お腹がペコペコの時、隣のオイちゃんの家に行ってご飯をもら

えてから、度々お邪魔した。思えば、この人がいたから、ボクは生き延びられた

んだ。とても、とても感謝している。)

勝手に出入りした網戸は・・・あれ、ボクの爪ひっかけで、ボロボロに破れて

穴が開いてたのに、綺麗な網戸に変わってる! 

網戸をスーッと抜けて、カールと一緒に家の中に入ってみるとー

いた、居た!オイちゃんがいた!・・・オイちゃんは、少しまた年を取った様子

ではあったけど、足を引きずりながら、部屋の中を歩いていた。

(あの頃のジイチャンみたいだ!)とボクは思った。

「オイちゃん、オイちゃん!」ボクは懐かしくて、跳びついて足元にスリスリ

したけれど、もちろん、オイちゃんは気付かない。

「会いたかったよ、オイちゃん!」

ところが、オイちゃんは、「おかしいな、ここにあった筈だけどな・・・」

とボソボソ言いながら、何か探している最中だった・・・。

「あ、オイちゃん、眼鏡探してるな。」ボクはすぐに解った。だってあの頃も、

しょっちゅう探してたから。見回すと・・・

新聞紙の下に眼鏡の黒い柄がチラッと見えた。

「何とか新聞紙めくれないだろうか?」ボクは傍にいるカールに相談した。

「うーん、それくらいなら、できなくもないな」とカールは意外なことを言った。

見ていたら、カールはフーと息を吐きながら、手を延ばしてコチョコチョと

器用に新聞紙の端を少しだけめくったー。「スゴーイ!」ボクは目を見張った!

「ああ、あった、あった!」オイちゃんがすぐに見つけた。

「ちょうど良い風が入ってきて、眼鏡を見つけられた!」オイちゃんはニッコリ

笑って喜んだ。ボクはちょっとオイちゃんに恩返しできた気がして嬉しかった。

そして「グズな猫」と思っていたカールをちょっと尊敬した。

「やったね!昔、コップを転がす技みがいて、手先は今でも器用さ」

カールは手をコチョコチョやって得意そうに自慢した。

ボク達は「イェーイ!」と手を合わせた。(肉球がパンと鳴った。)

ボク達にもできることがあるぞー。決して役立たずの透明猫じゃないぞー。

ボクは久しぶりに明るい気持ちになれて、体の底から、力が湧いてきた。

(体、ないけど・・・)

「そうだ、カール、ボク達が昔よく遊んだ、楽しい空き地に行かない?」

ボクが提案すると、カールは、うんうん、とうなずいた。

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする