『東北6つの物語』5巻目、『東北こわい物語』をご紹介します。
(宮城)仙台の縛り地蔵『縛り地蔵』佐々木ひとみ
6年生の拓斗は、東京に住むイトコの奏が苦手だ。
ところが腰痛のおばあちゃんのお願いで、おばあちゃんの代わりに、るーぶる仙台で仙台の町を案内することに。
仙台城跡に行ったのち、奏は市内の怪スポットに行きたいとわがままを言う。
扇坂・行人坂をめぐったあと、腰痛快癒にとおばあちゃんがお参りしていた、家の近所の縛り地蔵を訪れる。
縄で縛られ「我代わりて苦を受けん」という縛り地蔵の新しい縄を、奏はほどいて自分のものにしてしまう。
歩き出した奏は「急に腰が痛くなってきた」と。
縄を縛り地蔵に返すと奏の腰痛は消えたが、拓斗は藁くずをそっと奏のバッグにしのばせた。
仙台の町の描写がいいし、縛り地蔵はやっぱりインパクト抜群。
おばあちゃんが結わえた縄を、孫が盗んでしまうなんて、面白すぎ。
そして最後の藁くず……こわいです。
(岩手)遠野のマヨイガ『マヨイガの贈り物』ちばるりこ
百メートル走の記録が伸び悩んでいた、遠野市に住む5年生の紫。
けがをして大会に出られなくなった百合恵が、坂道を登る練習をしたらと言ってくれる。
裏山の坂道を走ってのぼると、家があって、小柄なおばあちゃんが「おらが家で水飲んでけ」と言う。
家の玄関には紫のものと同じようなオレンジ色のランニングシューズがあり、
さっきまでだれかがいたような部屋の白い花が一気に赤くなり、こわくて走って逃げ帰る。
その後どんどん記録が伸びたが、ふとシューズを見ると自分の名前はなく、あの家のシューズを間違えてはいてきたことに気づく。
百合恵に話すと、その家のものを持ち帰ると幸運なことがある「マヨイガ」ではないかと。
大会が終わったら帰そうとも思ったが、山を登って自分のシューズをみつけ、交換してくる。
紫は大会で二位だったが、一位だった百合恵の足元には、マヨイガのシューズがあった。
マヨイガのふしぎな感じがいいし、記録をのばしたくてがんばる紫に共感できる。
一度はこっそりマヨイガのシューズで大会に出ようとしたのに、ずるをしなかった紫に拍手。
そしてそのシューズを盗んで優勝した百合恵の心の闇に、ぞっとした。
(青森)恐山の地獄めぐり『あの世とこの世』もえぎ桃
霊感が強い5年生の怜は、何度も幽霊を見たことがある。
十和田湖でびしょぬれの幽霊、城ヶ倉大橋の谷底から「オーイ」という声、八甲田山では兵隊の行軍の音を聞いた。
家族で恐山に行くと、お父さんは「地獄をめぐって最後は極楽に行ける」という。
骨みたいな大きな岩がある灰色の空間に、カラフルな色の風車が回っていた。
賽の河原では、ゾワッと背筋に冷たいものが走った。
風車を抜き取って写真を撮っている外国人のカップルに英語で注意した怜。
極楽浜では、家族で手を合わせた。
怜には、外国人カップルを囲み写真を撮るたびに彼らに近づき、風車を取りもどそうとしていた子どもたちが見えていたのだった。
「カップルは風車を元の場所に戻したのだろうか?……
賽の河原の子どもたちは、許してくれたのだろうか……?」
幽霊が見える怜の優しさが、胸に迫ってきた。
(福島)安達ヶ原の鬼婆『ゆがんだ愛の、その先』吉田桃子
6年生の春陽たちは去年の遠足で「安達ヶ原の鬼婆」の伝説の舞台を訪れていた。
遠足のあと、「図書室の『安達ヶ原の鬼婆』という本を手にしたものは鬼婆の呪いを引き受けなければならない」というウワサ話が。
ロッカーや靴箱にその本を入れられると、忘れ物や遅刻ばかりか、交通事故の骨折も。
靴箱にその本を見つけた春陽は思わずバッグに本を入れる。
すると、お父さんが工場の機械でけがをしてしまう。
体調を崩していた15歳のレトリバー、アリーが死ぬ寸前と言われる。
隣家の野々花の飼犬、チョコの心臓を食べるとアリーが助かるという夢を見て、チョコに手をかけようとしたとき、アリーの幽霊を見て未遂に終わる。
「安達ヶ原の鬼婆」は、仕えている姫の病気を治す生き肝を手にいれようと、
鬼婆が襲ったその人間が、成長した実の娘だったという悲しい物語だったことを、野々花が教えてくれる。
「気づくと、春陽はチョコをつかむ手に力を入れていた」
この気持ちを反省する終章の文章、
「行きすぎた愛が暴走してしまったそのとき……。
それは愛情などという暖かいものではなく凶器という形になって」
これ、いちばん「こわい」ものだなあと思った。
(山形)蔵王の樹氷『スノーモンスター』野泉マヤ
フォトコンテストで入賞した埼玉に住む6年生の健人は、山形の大学に通う姉からスノーモンスターを見に行こうと誘われる。
雪山はこわいとママに言われるが、蔵王スキー場は晴れていた。
集合したツアー客の中に、健人と同い年ほどのストレートの黒髪の女の子をみつける。
濃い青色の空の下に、スノーモンスター = 樹氷が並んでいた。
レンズの中に女の子の姿が見えて、シャッターを切る。
雪女の話をきいたあと、女の子にココアを勧めるが「熱いのは飲めない」と。
写真を撮っているうちに天候が急変し、健人は吹雪の中で迷ってしまう。
絶体絶命の時「そっちへ行っては、だめ」と女の子の声がした。
声を無視して進もうとしたら、白いかたまりが、ドンっと体当りしてきて意識を失う。
気づいて助けられたら、行こうとした方向は崖だった。
写真の中に、あの女の子はいなかった。
とにかく、雪の中で遭難した時の描写がすごい。
ほんとうにこわかった。
助けてくれる雪女、いいなあと思った。
(秋田)田沢湖の辰子姫伝説『黒い石』みどりネコ
家ではダサい格好でぐうたらしているのにきれいで人気者の中二の姉が、佑香は疎ましい。
自分もかわいいと言われることがあるが、もっときれいになりたい。
美のパワースポットで検索し、辰子姫伝説にたどりつく。
母と姉と田沢湖に行き、辰子姫像を見て、御座石神社で水みくじをひく。
願い橋に「きれいになりたい」と書きこみ、鏡石からの帰り道で黒い丸い石をみつける。
石に映る佑香の姿は、日に日にきれいになっていき、ついに理想の姿を手に入れた。
姉の長い髪も欲しいと思ったら、黒い石の中の佑香は長髪。
櫛でとかしていたら、髪がじっとり塗れてきた。
佑香の腕には、櫛でついた傷がたくさんついていた。
黒い石を叩きつけると龍の顔と逆鱗が目に入り、佑香は辰子の声で話す。
佑香は石を田沢湖に返すことを決める。
黒い石に映る自分の姿を、もっともっときれいにと願う佑香。
ついには、腕に傷までつけてしまう。
この気持ちが、描写が、とにかくこわい。
みどりネコさま、こんな物語を考えつくなんて、すごいです。
こわい話だけれど、どれもみな、ヒトの心の弱さ怖さを伝える作品たち。
みちのく童話会のお仲間、誇らしいです。
今日はABSラジオ9時頃から「戦うキリタンポ鍋」の朗読前編。
ABSテレビ午後9時54分頃からの「フロンティア」、2分半ほどの番組に出ます。
今夜はみちのく童話賞スタッフミーティング。
今日もびよよよ〜〜ん (*^ __ ^*)