東京ってさあ、夜に首都高走ると
なんでか分かります?
深夜まで東京のビル街の勤め人たち
豆腐屋さんの笛 ラッパの音
とーふーtofu whistle
昭和の懐かしいもの
『新選組始末記』(1963年/大映)
監督:三隈研次
出演:市川雷蔵、城健三朗(若山富三郎)、
天地茂、他
原作:子母澤寛
世にある新選組に関する小説は
相当な作品数を読んでいるし、
作品によっては、保存用、普段
読み用等、同作品で数点保有し
ている。
普段読み用は何度も読んでボロ
ボロで英語辞書のように真っ黒だ。
司馬遼太郎『新選組血風録』は
まさにそれ。司馬遼太郎は司馬
史観で作品を描くので史実とは
大きく離れるが、彼の作品は小説
としての文体とプロットが素晴ら
しく、「文学作品」として極めて
秀逸だ。
間違いなく「日本文学」の雄だ。
とりわけ、『新選組血風録』に
収められた短編群の作品の文体と
世界観の表現手法が良い。
淡々と、切ない詩歌を詠むような
世界が『新選組血風録』では広が
る。藤沢周平の時代文学の前に
司馬遼太郎あり、だ。
世にある新選組関連の小説はかなり
読んでいるが(書棚を見たら気持ち
悪くなる位の作品の量がある)、
映画・ドラマ作品は私は全ては観て
いない。
この映画作品はうかつにも昨夜
初めて観た。
原作とは設定を多少変えてあるが、
かなり良作だ。
若き日の山崎丞(すすむ)の葛藤
と士魂を描いている。
若山富三郎の近藤勇も素晴らしく、
また、天地茂の土方歳三などは
史書としても価値のある子母澤寛
の書に出て来る実像の土方そっくり
だ。山南さんが切腹の際に姿を
見せた土方に対して「出たな九尾
の狐!」と罵倒したという実話の
土方の実像を天地茂は冷酷な土方
像として演じ切っている。
結構よくできた映画作品で楽しめた。
近藤役の若山富三郎の脇差は二尺
三寸ほどの大刀を脇差としており、
これは史実を基にした演出だろう。
池田屋事件で沖田総司が咳き込んで
吐血するシーンは無い。
1970年代初期に「新選組ファンタ
ジーブーム」が来てしまった。
まるで御花畑物語のような美化が
流行した。沖田総司を紅顔の美男子
のような虚像として勝手に妄想し
て虚構化することが女子をはじめ
男性の中にも流行した。
以降、それが現代までも続く。
「とうらぶ」のような虚構化が
すでに1970年代初期に新選組に
対して発生していた。
現実の沖田総司は、背が高くて
猫背ぎみで色は浅黒く、短気で
あり、ヒラメのような顔をして
いたとの目撃者の八木家の人の
証言がある。ただ、壬生の屯所
の近所の童には好かれていて、
大人なのによく童たちと遊んで
いたと伝わる。
道場に立つと師範としては極めて
短気で乱暴で、新選組隊士たち
は嫌がっていたと幹部が書き残し
ている。
本作は、生存者たちの証言を取材
して回った子母澤寛の小説を原作
としているだけあって、「ブラック
な新選組」の一面をはしょりながら
もよく描いている。
沖田総司は殺人者としての狡猾な
側面が描かれているし、土方歳三
なども美化せずに忠実に暗殺実行
者としての武士らしからぬ面を
史実に沿ってきちんと描いている。
「トシさま」「ソウジさま」(はあ
と)のような世迷言で虚構美化する
視点は一切存在しない。骨太な作
だ。
自分らで局長の芹沢を屯所内で
暗殺しておきながら大々的な葬儀
を執り行い、そこで涙まで流して
見せた近藤勇の事を屯所を貸与し
ていた大家の八木家の生存者は
「ようやりはりますわぁ」という
感じで伝えていたが、その場面の
描写も内実部分は克明に本作品で
は描かれている。芹沢鴨は借金
取りに来た大商人の妾を屯所で
手籠めにして愛人としており、
それと同衾しているところを
深夜愛人と共に複数人から滅多
刺しにされた。刺されてなお、
巨漢の北辰一刀流免許皆伝の
芹沢は刀を取ろうとしたが、
さらにナマスのように斬られて
絶命している。
これは史実と合致する描写として
映画では描かれている。
それを土方たち暗殺実行者は、
「賊が押し入って局長が殺害
された」とした。
そこで純朴な青年山崎丞=市川
雷蔵は葛藤する。
本作、良作なり。
三隈研次監督の時代劇に外れ無し。
原作は子母澤寛である。
新選組ファンや幕末研究者は
必ず読んでいる書。
未読で新選組ファンや研究者
を名乗っていたらモグリだ。
永遠の名作、角川映画が放つ
内容の無い化粧品PV映画の
決定版、である『汚れた英雄』
(1982)の最大の見せ場は、
やはりここでしょう。
え?違う?
こりゃ失礼しやした。
これを見る為に映画館に6回
私は行った(違)。
横浜の綱島の映画館だけでも
3回。あとは都内。
まだビデオはデッキは高額すぎ
て普及してはいなかった。
普及し始めるのは1983年の春
あたりから。
そしてまた、ビデオソフト1本
が嘘みたいに高かった。
真面目な事言うと、この作品に
よって角川春樹は世界で初めて
ブルーに感光する特殊フィルム
を使った。
この映画作品の映像美たるや
歴史的なものがある。
「キタノブルー」などというのは
完全に二番煎じなのだ。
本当は「カドカワブルー」なの
である。