ハモンドオルガンの音を聴いて、もう、どうしようもなくて、身体が反応してしまって、むずむずして、モゾモゾしてしまうなんて気持ち、お分かりになられ・・・ませんよね(笑)。
高校に入った頃、それまでも聴いていたのは間違いないのですが、ハモンドの音をちゃんと意識して聴けるようになって、すぐに、僕はすっかりこの音の虜になりました。
授業の合間にも、何度も何度も、ジョンロード(DEEP PURPLEのキーボーディスト、世界三大ロック・キーボーディストの一人にして、ロック・ハモンドの第一人者)のグリスを繰りかえし、繰り返し聴いていました。グリスを、というところが自分で思い出しても相当可笑しいんですが・・・(笑)。
あ、グリスってのは、“グリッサンド”の略なんですが、特にオルガンでは鍵盤を手のひらで擦るようにするパーム・グリス=手のひら・グリスが、ピアノのグリスには無い奏法で(雑巾がけをしているような感じに見えるかも(笑))、これが独特の歪んだグギャアァァァンッ!って音が出せるんですが、僕は、これが好きでしてねぇ(笑)。勿論、今回の安全ツアーでもそこかしこで多用しています。
で、僕がそんなオルガン独特のグリスの虜になって(いや、グリス以外の音も大好きなんですが、なんだか、初期の強烈な思い出としてはあのジョンのグリス・・・なんです。グリス聴いて、「かっこいいよー」って、泣いてたんですから(笑))、27年くらいとなりますでしょうか。その後、師匠、厚見玲衣さんのオルガンにもこれまた強烈な刺激を受けまして(・・・ちなみに、厚見さんのプレイもジョンの影響を沢山受けておられると思います。GWのライブをご覧になった方には一目瞭然だと思いますが)、いよいよ、20歳の時にレスリー・スピーカーは手に入れるも、最初はシンセ、ヤマハDX9(!)をオルガン専用にしておりました。
しかし、ドローバーが欲しくて欲しくて、欲しくて欲しくて欲しくて・・・(笑)、ほどなくキーボード・マガジンの「売ります買います」コーナーに出品されたコルグの初代CX-3を、千葉にお住まいのとある方に、「ドローバーの付いたオルガンが欲しいんです」と、僕の思いのたけを綴った物凄い長い手紙を書いて(後日、お会いしたときに「熱意が伝わりましたので川村さんに決めました」と、仰っていただきましたが・・・、僕の汚い字をよく読んで下さったものだと(笑))、僕のドローバー付きオルガンとレスリーの初代セットが出来上がったんです。
ちなみに、この時のレスリーは、今もいつも使っている、あの赤いロゴ入りのレスリーです。初代CX-3は倉庫に保管してあります。
そして、その後のSHADY DOLLS時代も、このセットでした。
とあるレコーディングの日、僕はアメリカ人のアレン・アイザックスというレコーディング・エンジニアに、厚見さんとジョンロードのオルガンを聴かせて、「今日の録音は、この音にして欲しい」って頼んだんです。そしたら、「OK!じゃあプレイしてみて」って言われたので、僕は「よしよし、これで今日のオルガンはきっと最高に」なんて思いながらブースに入ってオルガンを弾きました。
プレイバックを聴くと、・・・全然違う(笑)。「ねえ、アレン、全然音が違うんだけど」って言うと、アレンは「・・・うーん。はっきり言うけど、ケンのオルガンは、このアツミやジョンのようにはならないよ」「えっ!なんでさ!レスリー、回ってるのに!」って言ったら、「無理だよ。だって、・・・オルガンが違うもの。この音・・・彼らは、たぶんハモンドC3を使ってるよ」
・・・がびーん!ですよ(笑)。
それまでの僕の音楽的積み重ねの中では、レスリーが回ってて、ドローバーの付いたオルガンがあれば、もう、いわゆる「オルガンの音」になるんだと思ってたんですから(笑)。いや、勿論、素人さんが聴いたら、すぐには判別できないかもしれません。当時の僕自身、もうプロになっていたというのに、全然良くわかってなかったんですから(笑)。
そもそも、このレスリーと初代CX-3を手に入れるまでだって、大変だったんですから。夢にまで見ちゃって。街角で粗大ゴミのタンスを見ると、どうもレスリーに見えてしまって、「もしやあれは本物が捨ててあるのでは」って、クルマから降りて確かめずにいられない、ってくらいだったんですから(←実話です(笑))。
しかし、手に入れるには、当時の僕には、C3はあまりにも高価すぎました。そして、大きすぎました。重すぎました。どう考えても、現実的ではなかったんです。
その後、ZIGGYさんのツアーの時に、初めてハモンドのクローン(C3やB3を電子的に真似て作ったオルガン)のXB-2といういうモデルを使いました。初期CX-3は鍵盤がヤワで、僕はツアー中に何度も折ってしまって困っていたというのもありましたし、あの“ハモンド”ブランドを使えるという嬉しさで、狂喜乱舞したのを覚えています。・・・最初は(笑)。というのも、このXB-2は12音ポリフォニックといって、同時に12音しか発音できなかったんです。となると、両手を使った派手なパームグリスをしても、音が全部鳴らない、派手じゃない、しかも発音が遅く、グリスの後、に音が途切れることが多かったんです(よっぽど気をつければ大丈夫なんですが、気をつけてプレイするのも、ねえ(笑))。しかし、それでも他に選択肢はなく、その後、高橋克典くんのツアーなどでも、ずっとこのXB-2でした(レコーディングでは初代CX-3を使ったかも)。
その後、2000年代に入り、コルグが初代CX-3の後継機、newCX-3を発売しました。鍵盤のレスポンスも良い、ポリフォニック問題も無し。音も、ガッツがあって良い。ということで、これは今でも椎名へきるちゃんの現場では使っています。安室 奈美恵ちゃんのツアーではこれの二段鍵盤モデルのnewBX-3をメーカーさんから借りて使っていました。また、この同じ時期、長く参加させてもらっていたゆずのツアーでは、僕はピアノ担当だったため、こちらではオルガンは弾かずでしたが、バンマス(伊藤氏)のオルガンも最高だったなぁ。彼はコルグnewBX-3、ローランドVK-77、その後、本物のハモンドB3を使ってました。バンマスは、エレクトーン出身ということもあってか、オルガンがとっても上手なんです。僕は弾きはしませんでしたが、毎日最高のオルガンを聴ける現場に居れたことは、今思い返してもとっても幸せなことでした。そして、バンマスからもオルガンに関して沢山の刺激を受けましたし、学んだことが沢山ありました。感謝、感謝です。
そして、清木場俊介くんのプロジェクトに参加するにあたって、ハモンドから新しく発売になったXK-3cを導入したんです(スタジオ・レコーディングではB3を使ったりもしましたが)。XK-3cは特にバラードなどでの音色や表現力がコルグよりも優れていると感じまして、とても気に入りました。その後、KinKiKidsさんのツアーやトミちゃん(TOMIYA)のライブ、そして、今の安全地帯さんのツアーでも、XK-3c+僕のレスリーの組み合わせで使っています(なぜかへきちゃんの所では今もnewCX-3なんです。なんか、あそこのヘヴィーサウンドには、コルグの音が合うんです)。
その後、ノード・エレクトロの発売で、「もうレスリーすらいらないか」という感じに一瞬なったんですが、そんなはずはなく(笑)。やっぱりお手軽なものは、それなりの音なんだ、と気付かされます。楽してはいけないようです。
・・・と、ここまで一気に書いてきましたが、まだ、まるで本題に入っていないという(笑)。そもそも、読んでくださっている方は、いったいいかほどいらっしゃるのか、というね。
そんなこんなで(←もう、とにかくまとめる(笑))、昨年末のVOWWOWの事実上の再結成ライブや、GWライブのリハーサルを進める中、またもや師匠・厚見さんのオルガンを目の当たりにして、「これは、もうクローンでは無理だ」と、気付きまして、
厚見さんからも「もしも本物、買うんだったら、協力してあげるよ」なんて、そそのか・・・いや、薦められちゃったりもして(笑)、そしていよいよ、今回のこのC3購入劇に至るわけです。
さあ、語りたいことはまだまだいくらでもあるものの、夜も更けてまいりましたし(いつもだろ(笑))、そろそろ皆さんに、“僕の”C3(←照れる!)をご覧になっていただきましょう。
この状態を見るだけでも、ピカピカなのがお分かりいただけるかと思います。スペインの業者からも購入希望のオファーが入っていたのですが、「ちょっとまったぁ!」と、押さえてもらったのです。まだ正確にはわかりませんが、約55年ほど昔のものです。昭和30年頃のものなんですよ。綺麗でしょー。
では、蓋を開けてみましょう。
譜面台がまだちゃんと付いていることからも、ロックの現場で使われたりしたものでは当然なく、おそらく、新品で買われて、そのままアメリカのどこかのご家庭にずっとあったものだと思われます。
はい、これが、僕のC3(笑)の鍵盤です。皆さん、はじめましてー。
ハモンドのロゴも、勿論初期のタイプです。美しいまま、綺麗に残っておりました。
スタートスイッチと、ランスイッチ付近です。本物のハモンドは、昔のクルマのエンジンをかけるような感じで、ちょっと手順が必要なんです。スタートスイッチ(いわばセルモーター)を回して、10~15秒ほどして回転が安定したら、それから右のランスイッチをオン。そして、そっとスタートスイッチから手を離して、これで電源が入ります。ハモンドは、初めての方は勿論、雑にやったりしたら、スイッチすら入らないんですよ(笑)。
鍵盤左サイドです。音色の切り替えスイッチである黒白反転鍵盤は勿論、ビブラートスイッチにまで「UPPER」「LOWER」というステッカーまで貼ってあります。本当に買った時のまま大切に使われていた(・・・あるいは、使われていなかった(笑))、という感じがします。
背面には、このようにパネルが装備されます。これは、女性が弾いても、スカートの中が見えたりしないように、ということでこうなったのだそうです。この背面パネルがあるものをC3(ちょっと教会っぽいイメージ)、そして、このパネルの無い四本足のものをB3と言います。ちなみに、中身はまったく一緒です。
パネル中、左下にはシリアル番号が。僕のC3のシリアルは、No.77617、です。
シリアルの上には、このようにプリセットの為の結線が。お守り袋のようなものには、このプリセット結線用のネジが入れられています。ドローバーのセッティングを、こうして背面内部で、自分好みにもプリセットできるのです。そしてこれらを、黒白反転鍵盤でスイッチ切り替えするんですね。ロック系のオルガン奏者はあまり使いませんのですが。
背面中央にドンと位置する、真空管プリアンプです。ハモンドの真空管が入っていますね。いわば、ハモンドの心臓部とも言えます。
ハモンドC3は“電気”オルガンです。全て電気仕掛けで動いています。
ひとつも電子部品、たとえばIC(集積回路)などは使っておりませんので、“電子”オルガン(国産のエレクトーンやドリマトーンなど)ではないのです。勿論、前述のCX-3やXB-2、XK-3cなどのクローンたちは電子オルガンということになります。
本物のハモンドは、電気は使いますが、・・・ギターなどに近い、“生楽器”だと思っていただいていいと思います。
全景はこんな感じになります。ロックではまず外されてしまう、足鍵盤も装着してみます。・・・本当に、美しいです。そしていよいよ、
オーナーとの2ショット、です(・・・書いてて、はずかしい(笑))。
さて、このC3ですが、この姿をご覧いただくのは、今日が最初で、・・・最後になります。僕にとっても、昨日が、そうでした。
といいますのも、このC3、これから数ヶ月かけて、改造することがきまっているからなんです。これは、購入時からの決定事項でした。ですから、本当はもっと使い込まれた外観のものでもよかったんです。同じ内部機構を持つ、B3や、A-100というスピーカー内臓モデルでも、良かったんです。
なぜなら、鍵盤部分と、内部を除いた、外側の木目の部分は、全て新しく作り直すからなんです。分り易く言いますと、ボディを新たにデザインして作って、そこに、このC3の鍵盤部分をスポン、と入れてしまう計画なんです。
だから、本当に見た目には拘らずに探していたんです。
でも、C3が出てきた。それもこんなにも、極上の状態のものが。
正直、惜しい気持ちはあります。このまま、これは持っていたい気持ちもあります。あんなにも憧れだった、C3ですから。
でも、これから、こちらの工房で、この側(がわ)は全て取り外され、新たにデザインされるボディに納められることになるのです。勿論、これは僕の最初からの希望でした。
なぜか。なぜ、そんなことをするのか。もったいない・・・とお思いになる方もいらっしゃるでしょう。
なぜなら、
ジョンロードがそうしていたから、なんです。
僕が最初に憧れた、彼の改造ハモンドC3を目指そうと思っているんです。でもね、それだけじゃつまらないので(笑)、せっかくですから絶対に世界に一台だけにする、計画があります。ちょっと前代未聞といいますか、まだ誰もやっていない、はずです。
でも、僕にはそれを実現する技術がありません。経験もありません。そこで、この方を口説き落としまして、実は購入から輸入、そして、今回の改造の全てお願いすることにしたのです。
写真左、Voyagerさん。そう、あの日本刀でハモンドを切りつける、あの方です。超ご多忙の毎日の中、快く引き受けてくださいました。今、僕と僕のC3にとって、一番大切なキーマンは、このVoyagerさんなんです。
写真右は、キーボードマガジン編集部のK氏こと、河合さん(一児のパパ)。僕のコラムの担当でもあり、次号のハモンド特集にも関わられていて、昨日、本当に愛知のVoyagerさんの工房まで、このC3の写真を撮りに来てくださいました。さあ、ここで、文字数が限界です(笑)。
味噌煮込みうでんを頂いて、帰るとしましょう。またね、C3。次に会うときは・・・あの姿なんだね。
ではー。