せっかく遊びにきてもらったのに、すみません。今日はちょっとね、明るいお話ではないんですが、お付き合いいただけますでしょうか。
「ピアノって、弾けたら楽しそうだなー、とは思うんだけど。なんだかやっぱり難しそうで。」
こんな言葉、良く耳にするんです。好きな曲を弾いてみたい、そして弾きながら歌えたりしたらな、って。僕は毎回、
「出来るよ。ピアノはギターや管楽器と違って、『ネコが踏んでも音が出る』楽器だからね。」
そう答えて、「じゃあ、ちょっと簡単なの教えてあげるよ。」と言って、ピアノの前に座ってもらいます。
「まず、指でピースサインを作ってみて。はい、そう。で、白い鍵盤は、ドレミファソラシドって並んでるんだけど、じゃ、そのピースサインを作った二本の指で、この真ん中の『ド』と『ミ』の二つの鍵盤を同時に押してみて。」
まったく楽器をやらない方でも、これらいは、すぐにわかっていただけます。
「そしたら、ピースサインの指の形のまま、白い鍵盤だけを、それぞれいっこずつ左へ(音の低いほうへ)、ゆっくり下がっていってみて。」
ここで一瞬手こずる方もいますが、一度目の前で弾いて見せてあげれば「あぁ、それくらいなら。」と、すぐにできるようになります。指を横にずらしていけばいいだけですから。
順番に7つ下がったところで、一旦ストップ。そして、4番目に押さえた2つの所に戻ります。
順番に、1(『ド』と『ミ』)、2(『シ』と『レ』)3(『ラ』と『ド』)、4(『ソ』と『シ』)、5(『ファ』と『ラ』)、6(『ミ』と『ソ』)、7(『レ』と『ファ』)、そして4(『ソ』と『シ』)に戻ります。そしてまた1から、繰り返すだけ。
なんかこう字で書くとちょっと難しそうですが、鍵盤が見えてたら、なんてことはありません。小さな子供でもすぐに出来ると思います。
そして、ゆっくりでも弾けるようになったら、僕はこう言います。「あのね、それでもう、あなたの知ってる曲を弾いてるんだよ」。
そう言うと皆んな「えー?そうなの?」って言いますが、僕がそのピアノに合わせて、ある曲のサビを歌ってみせますと、「あ!ホントだ!すごいすごい!」と言って、「その曲」の歌詞を歌いながら、嬉しそうに何度も弾いてくれます。
それから「このコード進行はね、『カノン進行』って言うんだよ。300年も前のバロック音楽の『カノン』って曲で使われて有名になったんだけど、今でもみんな大好きで使うんだ。日本だけでも、何千曲も、もしかしたら何万曲も、これで作られててね。例えば、他に有名なヒット曲では・・・」と、「簡単なんちゃって講座」は続きます。本筋からそれるので、今日はここで割愛しますが。
ほんのきっかけですが、きっかけがあるのと無いのとでは、雲泥の差ですから、こうして「初めてピアノ弾きながら歌えた!」という思いは、ずっと残ると思うんです。「楽器が出来るとさらに楽しいじゃん。簡単じゃん。よし、じゃもう少し色々やってみよう。」って思ってもらえたら、僕もとっても嬉しいですからね。
今まで、初めてのピアノに合わせて僕が歌ってみせたときに、「なに?その曲?知らない。」って言った人は一人もいませんでした。皆、間違いなく、一緒になって歌詞を口ずさみました。
「ピアノを弾いてみたい」と言った人に、今までずっと僕が、ピースサインで最初に弾いて、歌ってもらってきた誰でも知ってる曲。それが、
『負けないで』
でした。
織田さんが作った、シンプルで憶えやすいメロディーは勿論素晴らしいです。でも、そこに彼女が書いた、前向きで優しい歌詞が乗り、あの柔らかな歌声で歌われたからこそ、あんな大ヒットソングになったんだと思っています。沢山の『カノン進行』で作られた曲の中の一曲を、あんなにも多くの人に愛される特別な一曲にしたのは、彼女の力、その存在だった、と僕は思うんです。
僕はCDを買って持っているような熱心なファンではありません。お会いしたことも、ありません。でも、たぶん多くの皆さんと同じように、彼女の歌声は、生活の中で、本当に良く耳にしてました。優しさと、独特の切なさをあわせ持った歌声でした。そして、耳が安心する声でした。
今日は少々センチになりすぎているのかもしれません。でも、
つい先日、数人のミュージシャン仲間と、たまたまZARDさんの話をしたばっかりなんです。だから、というわけではないんですが、もう、とてもビックリしてしまって。
それから、これは余談になりますが、彼女が闘病生活を送っていたというあの病院は、僕も子供頃に何度かお世話になったことのある病院なんです。建物、入り口、受付、院内の感じなんかを少々知っているので、妙に生々しく感じる、というのもあるのかもしれません。
僕とほんの2つ違い。少しだけ先輩とはいえ、ほぼ同年代。人を失う悲しみに、歳の若いも年輩も関係ないとは思いますが、それにしても・・・。
時間の不規則なミュージシャン達は、朝でも昼でも夜でも、会った時には「おはようございます」と言います。そして、別れの時には、「さよなら」「またね」ではなくて、こう言います。「お疲れ様でした」、と。
とにかく人の流れの速い業界と言うのもあるかも知れません。またすぐ会えるかも知れない、でももしかしたら、もう二度と会うことは無いのかもしれない。でも「さよなら」じゃ、寂しすぎる。なので、やっぱり。
坂井さん、お疲れ様でした。どうか、安らかにお眠り下さいね。
写真は、ビオラです。花言葉は、「私を想って」。
何だか、うまく想いを言葉にできません。ただただ、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
では。