【地下茎は生薬の原料や七宝細工の糊剤に】
ラン科シラン属で、原産地は日本や中国、台湾など。ランといえば高級花という印象が強いが、このシランは庭花としてポピュラーな存在。寒さに強くて半日陰でも育ち、病気にもかかりにくい。名前通り、茎の先に数個の紫色の花を付ける。花の色が白いシロバナシランや薄いピンクの紅をさしたようなクチベニシラン、葉に白い縁どりが入るフクリンシランなどもある。
地中近くの球茎は古くから「白及(びゃくきゅう)」として生薬の原料に利用されており、2000年近く前の中国・後漢~三国時代に書かれた「神農本草経」という薬物の本の中にも取り上げられているという。止血や切り傷、やけど、あかぎれなどに効くそうだ。高浜虚子も「君知るや 薬草園に 紫蘭あり」と詠んでいる。
万葉集の中に大伴池主が家持に贈る歌の序文の中に「蘭(らんけい)くさむらを隔て……」という表現が出てくる。この「蘭」はシュンラン、「」はシランを指すともいう。「蘭」で学問上の友や親しい交友関係を指し、家持が病に伏せていて、なかなか会えない残念な心情を表わしているそうだ。
球茎は粘着性に富み、七宝細工の糊剤として使われる。「白及糊(しらおいのり)」と呼ばれ、金属の素地に銀線などを張り付けて輪郭線を作る時に、この糊で接着する。これにガラス釉を施して高熱で焼く。七宝焼の技法は中近東で生まれシルクロードを通って日本に伝わった。日本最古の七宝細工は奈良の藤ノ木古墳から出土した馬具の鞍金具らしい。これにもシランの地下茎から取った糊が使われているのだろうか?。