【モーツァルト「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」】
11日、大阪市のいずみホールで関西フィルハーモニーの公演を聴いた。お目当てはモーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲K.364」。ヴィオラの第一人者・今井信子が世界的なバイオリニストで同フィルの音楽監督、オーギュスタン・デュメイと共演する。以前、CDで今井の「バッハ無伴奏チェロ組曲全6曲」を聴いてヴィオラの魅力を教えられ、さらに今井の著書「憧れ―ヴィオラとともに」を読んで、今井の生の演奏を聴きたいとかねがね思っていた。
指揮の傍らヴァイオリンを独奏するデュメイの〝弾き振り〟は今や関西フィルの名物スタイル。この日も今井と共に期待に違わぬ名演奏を披露してくれた。とりわけ第1楽章後半のオケなしの2人の二重奏は、デュメイの明るく華麗なヴァイオリンと今井のヴィオラの深い響きが見事に融合し聴き応え十分だった。第2楽章のアンダンテも秀逸。映画「家族の肖像」(ヴィスコンティ監督)で使われるなど有名な楽曲だが、2人は哀切たっぷりの旋律を琴線に触れるような繊細さで奏でてみせた。
第3楽章のプレストは一転早いテンポになるが、2人の呼吸は最後までぴったり。それをオケが弦を中心にしっかり支えていた。この曲は変ホ長調で書かれているが、モーツァルトの指示でヴィオラだけは半音高いニ長調で演奏する。その分、ヴィオラの伸びやかな響きが印象的だった。30分余の演奏を通じて改めてヴィオラが雄弁な楽器であることを教えられ、独奏楽器としての魅力と存在感を再確認することができた。この後、休憩を挟んでモーツァルトの歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」序曲と交響曲第35番「ハフナー」が演奏された。ただ個人的には、35番と協奏交響曲の順番が逆になっていたら、協奏交響曲の余韻にもっと長く浸ることができたのではないかと思った。
【26日から今井提唱の第2回東京ヴィオラコンクール】
今井はこれまで武満徹のヴィオラとオーケストラのための「ア・ストリング・アラウンド・オータム」をはじめ世界初演のヴィオラ作品も多く演奏してきた。演奏家としての活動の傍ら、ジュネーヴ音楽院やアムステルダム音楽院の教授を務めるなど指導者としても精力的に活躍。ベルリンフィルの首席ヴィオラ奏者、清水直子ら今井の薫陶を受けた演奏家も多い。約20年前の1992年には東京でヴィオラ音楽の祭典「ヴィオラスペース」をスタート。その一環として優れたヴィオラ奏者の発掘のため2009年に「東京国際ヴィオラコンクール」を始めた。
3年に1回の開催で、第2回コンクールが今月26日(~6月3日)、東京・紀尾井ホールで開幕する。予備審査を通過したのは世界14カ国の36人(うち日本人9人)。第1回の1位はロシアのセルゲイ・マーロフ。優勝を機に世界の主要オーケストラと共演するなど活躍の場を広げている。2位はベルギー人、3位はドイツ人だった。今年こそ日本人が上位に入賞することを期待したい。コンクール後の6月4日には大阪の相愛大学南港ホールで「ヴィオラスペース 2012」と銘打って若手演奏家のための公開マスタークラスを開講、翌5日には大阪のザ・フェニックスホールでコンクール入賞記念ガラコンサートが開かれる予定だ。
【R.シュトラウスの「ドン・キホーテ」を聴いてヴィオラに転向】
ところでヴィオラ奏者にはヴァイオリンからの転向組が多いが、どんなきっかけで転向したのだろうか? 今井の場合、大学在学中に米タングルウッド音楽祭で小澤征爾指揮・ボストン交響楽団のリヒャルト・シュトラウス作曲「ドン・キホーテ」を聴いたのがきっかけという。この作品では独奏ヴィオラがドン・キホーテの従者サンチョ・パンサの主題をユーモラスに奏でる。大阪センチュリー交響楽団の森亜紀子はこの日の演奏曲、モーツァルトの協奏交響曲のヴィオラの音色に引き込まれ、ヴァイオリンからヴィオラに替えたそうだ。
ヴァイオリンには子ども用の「分数サイズ」があり、16分の1からフルサイズまで成長に応じて楽器の大きさが変わっていく。だがヴィオラにはそれがない。だから大学に入ったりオーケストラに入ったりして初めてヴァイオリンからヴィオラに持ち替える人も多い。ソリストとして評価の高い川本嘉子もオケ入団を機にヴィオラに転向している。