く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「かたよらない こだわらない とらわれない 般若心経の力」

2012年05月13日 | BOOK

【村上太胤著、講談社発行】

 古都奈良の世界遺産・薬師寺。「名物管長」といわれた高田後胤(1924~98年)の発願で、写経勧進による白鳳伽藍の復興事業に取り組み、金堂や西塔、回廊、大講堂などが再建されてきた。2010年からは〝凍れるシンフォニー〟と形容される東塔の解体修理(~2018年)が進められている。納められた「般若心経」の写経はこの約40年間におよそ750万巻。本書はその般若心経の「空」の教えなどについて分かりやすく解説している。

    

 著者は1947年、岐阜県各務原市生まれ。9歳のとき薬師寺に入山し、龍谷大学を卒業。2003年に執事長に就任し、法相宗宗務長、薬師寺岐阜別院住職も兼務する。本書は2部構成で、第1部では薬師寺東京別院での法話を中心にまとめ、第2部は著作「仏教のエッセンス 般若心経」(四季社刊)に修筆・加筆したもの。仏教の教えの神髄が詰まるという般若心経の歴史や語句について簡潔に説明している。

 文字数260余りの般若心経の中で最も有名なのが「色即是空 空即是色」。お金や物や地位や名誉など目に見える世界は常に移り変わって最後は「空」である――。それらに執着するからこそ煩悩や苦しみが生じる。煩悩とは貪り、怒り、愚痴の3つ。般若心経は「色」の世界に生きる私たちに反省や気づきの心を与えてくれ、とらわれない心で生きていく「空」の生き方の大切さを説く。全てが実体のない「空」なら、何をやっても無駄で虚しいのではないか? 「全てが変化し常なるものがないからこそ、今この場所この空間を謙虚に受け止め、今こそかけがえのないときなのだと受け止めていく実践的態度が正しい『空』の世界なのです」

 「般若波羅蜜多」は「最高の智慧の完成」を意味する。「智慧」とは知ることと行うことが一体になっていること。知っていても実践しないのはただの「知恵」にすぎない。智慧の完成のために「行じ続ける、悟り続ける、願い続ける」。願うのはみんなが幸せになってほしいという慈悲の願い。これを「利他行(りたぎょう)」と呼ぶ。筆者によると「般若心経は60歳からの教え」。人生が一段落する60歳を過ぎてくると、不思議と欲がなくなり執着する心がなくなって般若心経の教え「色即是空」が「なるほど」と理解できる。それが理解できれば、生きているのが当たり前ではなく、多くの因縁によって「生かされている」「もったいない」「ありがたい」世界なのだと受け止めることができるようになるそうだ。

 般若心経の最後の言葉は「羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆呵」。意訳すると「行こう行こう、彼岸へ行こう、彼岸へみんなで行こう、悟りよ幸いあれ」。般若心経は短いお経だが、時間のないときはこの部分を唱えるだけでもいいそうだ。玄奘三蔵も砂漠の旅の途中で、この呪文を唱えながら苦難を乗り越えたという。そう言えば、以前読んだ本の中に高田好胤の書があったはず。「心の添え木 父―高田好胤の書とことば」(高田都耶子著、講談社)をめくると、やっぱりあった。高田好胤は「空」の書の横に「かたよらない心 こだわらない心 とらわれない心 広く広く もっと広く これが『般若心経』空の心なり」と書き添えていた。

    

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