【開催中の「清雅なる仏画」展、国宝含む67点】
平安時代半ば以降、仏様の姿・形を墨で巧みに描く僧侶たちが次々に登場した。玄証・定智・信海ら能筆の画僧が描いた「白描画像」の中には単なる転写に留まらず、観賞性の高いものも多い。奈良市の大和文華館で開催中の「清雅なる仏画―白描画像が生み出す美の世界」展(11日まで)では、これらの画僧が線描で描いた御仏の逸品を展示している。
国宝「善女龍王像」(上の写真㊧)は1145年定智筆で金剛峯寺所蔵。空海が824年、京都の神泉苑で行った「請雨経法」の際に愛宕山に現れたとされる龍王を描いたもの。縦約1.6m、横約1.1mの絹本著色の大作だが、画像全体が暗く色が褪めているのが少し残念。この仏画を写し取った白描(1201年深賢筆)が京都の醍醐寺に伝わるという。
大和文華館所蔵の「金胎仏画帖断簡」12面(上の写真㊨はそのうち1面)は宅間為遠筆といわれ、彩色鮮やかな仏様の下に蓮台などが描かれている。伝為遠筆の金胎仏画帖断簡は奈良国立博物館やMIHO MUSEUMの所蔵品も出展されている。重要文化財「戒壇院厨子扉絵図像」は東大寺戒壇院に安置されていた華厳経厨子の扉に描かれていた絵画を写し取った巻物で、長さが11m余もある。この厨子は治承4年(1180年)の平重衡の兵火で焼失し現存しない。このため往時の厨子扉絵を今に伝えるものとして大変貴重なものといえる。
展示図像の中で多いのが画僧玄証の作品。玄証は平安末期から鎌倉時代にかけ高野山を中心に密教図像の収集と書写に努めた。「阿弥陀鉤召図(こうしょうず)」はその玄証筆で、盲目の僧の首にかけた縄を阿弥陀如来が引っ張り、そばで勢至、観音両菩薩がはやし立てるユニークな画像。来迎した阿弥陀仏が衆生を極楽へ往生させる様を象徴的に描いたもので、別に僧をいじめているわけではない。動きがない仏様を描いた画像が大半だけに、その大胆な構図が印象に残った。
重文「薬師十二神将像」(上の写真)は薬師如来像の周りに日光・月光菩薩と十二神将を配置した大きな画像で彩色も鮮やか。「日光・月光十二神将図扉絵」も色鮮やかな一対の厨子扉絵で、繊細な筆致に見とれてしまった。最後に釈迦入滅時の様子を描いた涅槃図が3幅展示されていたが、そのうち南北朝時代の個人蔵2幅は初公開。そのうち1幅は裏書から「あじさい寺」として有名な矢田寺(金剛山寺)伝来の涅槃図と判明した。