く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<ジュディ・オング倩玉> 今や版画界の第一人者 「日本家屋は無駄を削ぎ落とした最高傑作」

2012年11月07日 | ひと模様

【1983年から日展入選13回、2005年には特選にも!】

 大ヒット曲「魅せられて」で有名な台湾出身の歌手・女優のジュディ・オングには木版画家というもう1つの顔がある。雅号は「ジュディ・オング倩玉(せいぎょく)」。25歳の時、棟方志功門下の井上勝江の個展で版画に魅了されたのがこの世界にのめり込むきっかけとなった。これまでに日展入選回数は13回(うち特選1回)に上る。いま堺市立東文化会館文化ホールで開催中の「ジュディ・オング倩玉 木版画の世界展」(18日まで)はそんな彼女の画業の足跡を余すことなく堪能させてくれる。

      

 初めての日展入選作は1983年の「冬の陽」。モデルは飛騨高山の合掌造り。1979年の「魅せられて」のヒットの4年後で、「ジュディ・オング」と知られないように日本帰化名の「翁玉恵」で応募した。入選の知らせが届いた時には思わず万歳をしたそうだ。85年の入選作「揚屋」では京都の「角屋」の紅色の漆喰壁にヒントを得て、それまでの白黒の世界に臙脂(えんじ)色を持ち込んだ。以来、臙脂色を配した伝統的な日本家屋の作品が増える。

 そして2005年「紅楼依緑」(上の写真)でついに特選を受賞した。名古屋の老舗料亭をモチーフとしたもので、漆喰壁の臙脂色と木々の緑色のコントラストが際立つ。翌06年には日展無鑑査作品として「銀閣瑞雪」(下の写真㊧)を出品する。静かな佇まいの銀閣に降り積もった雪をめでたい瑞雪として描いた。

  

 日本の伝統家屋や建物の素晴らしさに目覚めたのは22歳から京都に時代劇の撮影に行くようになってからという。「日本家屋は日本の気候風土、食文化、生活文化の全てに適応し、無駄を全て削ぎ落とした最高傑作。魔除けの鬼瓦、夏涼しく冬暖かい茅葺き屋根、格子窓、障子、襖、縁側……どれも本当に美しい」。

 作品の中には京都ゆかりのものが目立つ。2003年日展入選の「鳳凰迎祥」では池面に映る宇治・平等院の鳳凰堂を切り取った。この作品はその後、平等院に奉納している。08年には南禅寺近くの豆腐屋の玄関口を描いた「涼庭忘夏」、10年には国の名勝・渉成閣の回棹廊を描いた「廊橋浅秋」で日展に入選した。昨年の入選作は長崎・丸山の料亭を題材にした「華燈翠園」(上の写真㊨)で、正面の大きな提灯が印象的。右側の緋毛氈の風合いもさすが。展示作品の中には珍しく奈良をテーマにしたものもあった。奈良公園の浮見堂を描いた「湖光亭影」(2010年白日会展出品、下の写真)。御堂の背後の紅葉が実に鮮やか。

   

 作品の大小に限らず、彫り始めるまでに最低3回は同じ絵を描くという。まず現地でスケッチ、次にそのスケッチや撮影した写真を参考に墨と水彩絵具で下絵を描き、最後に版木にトレースする。しかも白黒でなく色刷りの場合は使う色の枚数分だけ版木を彫ることになる。「私の部屋の壁に掛けたいという思いで作品づくりに取り組んできた。だが、回を重ねるほどに一層難しくなってくる。でも出来上がったときの喜びはなんとも言えない」。会場には「私の永遠のモチーフ」というツバキをはじめ多くの花の作品も彩りを添えていた。

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