万葉集による雄略天皇の歌が、この時の「赤猪子」かどうかは分からないのですが、要するに、この時の天皇の言葉を、80年もの長い間にひたすら信じて、待っておった一人の哀れなる女性がいたのです。
その人の名は「赤猪子」です。古事記には、その時の様子を、次のように書いております。
“ある時、天皇が三輪山の畔を流れている三輪河の辺りに遊んでおられた時です。その河原に衣を洗う大変美しい少女を見つけます。さっそく 、天皇はその乙女に言います。
「あなたは誰ですか???。もうお嫁に行く相手の人はおるのか。もし、なかったら何処へも行かないで、私のお嫁さんに来てほしいのですが。私は天皇です」
と。
その乙女も、その天皇からのお言葉「私は天皇です。」と言う言葉を、固く信じて、「明日返事が来るかしら???」と、ずっと待ち続けること八〇年です。しかし、それ以後、天皇かからは何の音なしの構えです。
それから、もう八〇年。その時の少女は、今は、もう九〇歳です。自分の命が、後いくばくもない事を悟った女性は、仕方なく、天皇に手紙を書きます。
「あなたが若い時におっしゃいました『待っておりなさい。私の奥方にして上げます』と言う言葉を信じて。ひたすら待ち続けましたが、とうとう、わたしは九〇歳近くなりました。あなたの言葉を信じた私がいけなかったのでしょうか???あなたは私のことなど、既に、とっくの昔にお忘れになっておいででしょうか・・・」
と、恨みのこもった手紙を天皇に差し上げます。