この女性の名前は「赤猪子」<アカヰこ>です。待つこと久し、もう80歳になります。その時、既に、昔の面影はひとかけらも残ってはいません。多年、「今か今かと」待ち望んでいたのですがどう仕様もありません。そのような私の心を天皇はご存じないはずです。情けない話ですが、それが現実なのです。せめて、このような私の思いを雄略天皇に知ってもらいたいものだと思って、貢物を持って宮殿に参上します。
この時、赤猪子が献上した品物を、古事記には“百取之机代物”と書いてあります。一つや二つではない夥しい沢山の机代、そうです「献上品」を携えて宮中へ行ったのです。この老女は、そこら辺りの豪族の出で、相当裕福な家庭の子女だったことが分かります。
天皇はそのような約束事をしたことを完全に忘れでいました。
「せっかくの花の盛りをあらた過させたとは、何といってお詫びしてよいか分からない。今更取り返しがつかない。」
と言って、歌を歌います。
“引田の若栗栖原、若くへに率寝てましもの 老いにけるかも”
と