No.819での約束通り、No.818の治具を使った作品です。
木版(MDF)モノタイプ。
MDFについては、前回示した通りですが、モノタイプとは?
ですね。
この技法は、あまり知られていないし、またこの技法で制作している人も限られているので、きっと、はじめてこの言葉を目にする人も多いのではないでしょうか。
モノタイプは、『版画でありながら、まぎれもない一点の絵画として、絵筆を走らせるように版木を彫り、また摺ることを繰り返す。』(版画芸術 阿部出版より)という技法です。
韓国の版画家 Lee Minさんがこの技法で制作しています。
木版多色刷りの場合、普通、版木を刻してから刷ることを、色ごとに行います。
あるいは、一版でも、場所によって色を替えれば、多色刷りができます。
いずれにしても、一度刻した版は、そのまま使われます。
だから、また改めて刷ることもできるのです。
しかし、このモノタイプでは、版木を刻して刷り、その今刷った版木をまた刻します。
刻して色を換えて刷り、刻して色を換えて刷り、を何度も繰り返して、作者の「ここぞ!」という所でやめて完成に至る、正に、一点ものの版画です。
もう二度と同じものはできないのです。再版は許されないのです。
だいたい、普通の木版、いや手摺りの版画ならば、完璧に同じということは、余程の技術がなければ難しいことです。
(その点、浮世絵の技術はとてもすごいものです。)
刷りの技術が難しいのは、今さらという感じですが、どうしても全く同じものはできません。同じ様なものはできるのです。
それが、版画だと思うし、そこに個性や暖かみが、あるいは偶然の美が生まれるのだと思っています。
このモノタイプは、はじめから、スパッと気持ちのいいくらいに同じものを求めていません。
出来上がるものは、間違いなく一点ものです。
これは、「書」とよく似ています。
だから、この技法が目に留まったし、やってみようと思ったのです。
一応、もう一枚写真を載せておきます。
色や刷りの状態で、印象が随分違うことが分かります。
(木版モノタイプ・三刷三色、和紙、10×10㎝)