仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

ひとりでいるよりいいかな。

2008年10月03日 16時00分15秒 | Weblog
 マサルのベンベーはその路地には入れなかった。マサルは淡島通りに車を止めて、歩いた。昔の長屋、と言っても見たわけではないのだが、そんな感じだな、とマサルは思った。ヒデオから教わった住所を頼りにヒカルの部屋を探していた。台所の窓があいていた。
「あれ・・・、お友達の・・・」
「マサルだよー。」
ミサキはヒカルを呼んだ。ヒカルがドアを開けた。
「どうしてるかなーって、思って・・・、ヒデオさんに住所を聞いたんだ。」
「うん、上がってよ。」
ヒカルが先にたって、マサルを奥の部屋に案内した。台所を通る時、ミサキの綺麗な笑顔を見た。無駄なものがほとんどない部屋にマサルは驚いた。部屋の狭さにも。
「ここで二人で棲んでるの。」
「うん。」
「狭くないか?。」
「ヒロムのところに比べたら、狭いけど。二人だからね。そんなに不便じゃないよ。」
「風呂はないの。」
「銭湯が近いんだ。」
マサルが理解するには時間が掛かりそうだった。白金のヒカルの部屋のことを思い出して、そうか、と納得はしたのだが。
「意外と近いよ。僕のところと」
「うん、解ってたけど、なかなか落ち着かなくて。」
ミサキが台所から声をかけた。
「マサルさん、食事、まだでしょう。二人分しか作ってないからちょっと少ないかもしれないけど。ご一緒しませんか。」
「うん、まだだけど。これから食事なの?。」
「帰ってきて、銭湯行って、フラフラしてたらこんな時間になっちゃうんだよ。」
「そーかー。」
ミサキがテービルを拭きにきた。ミサキはジーパンを切った短パンと長袖のティーシャツを着ていた。風呂上りらしく胸のふくらみにポツンと乳首が浮き出ていた。
相変わらず黒縁のメガネをしていた。
「まだ、そのメガネしてるんだ。」
「えっ。」
「いや・・・・。」
ミサキはすこし顔を赤らめ、台所に戻った。
「いけなかったかなー。」
「気にしなくていいよ。」
サラダとハンバーグとボイルしたジャガイモをお盆に載せてきた。テーブルに並べるとマサルに聞いた。
「車ですか。」
「えっ、あ、ハイ。」
「ビール、飲みますか?」
「あ、ハイ。」
変に緊張した。ミサキは不揃いなグラスを三つと大瓶の瓶ビールをのせてきた。メガネを外していた。マサルはさらに緊張した。メガネを外したミサキは綺麗だった。小さめの身体だけど、スタイルは抜群だー、とマサルは思った。
「ご飯、どうしようか?」
「後でいいよ。」
そういうと、グラスを並べた。ミサキがビールをつごうとしてマサルの方に差し出した。マサルはグラスも持たずに見とれていた。マサルは、ハッとしてグラスを持った。
「どうか、しましたか。」
「いえ。」
ミサキも緊張した。ヒカル以外の男性に見つめられることはそんなになった。特にヒロムとの一件以来。ビール注がれた。ヒカルがミサキにも注いだ。乾杯をした。
「ミサキー、箸はー。」
ヒカルがいたずらっぽく言った。
「あら、私ったら。」
ミサキは立ち上がり、台所に向かった。ガラス戸に躓き、こけた。
「いたーい。」
ヒカルはスッと立ち上がり、ミサキを抱きかかえた。
「大丈夫?」
「ごめんね。」
ヒカルは笑みを浮かべながら、テーブルに戻った。
「そそっかしいんだよ。」
「えっ、そうなの。」
ミサキが戻った。
「はい、どうぞ。」
マサルとヒカルに箸を渡した。ミサキがホークを持っているのを見てマサルが聞いた。
「お箸は・・・」
「二膳しかないの。」
「ヒカルさんの使ってね。」
「あっ、ハイ。」
改めて乾杯した。
「ヒデオさんと「ベース」であったの?」
「いや、最近「ベース」はいってないんだ、。」
「マサルも・・・」
「この前、目黒通りでヒデオさんの車を見かけて、お茶したんだ。」
「そうなんだ。」
会話をしながら、マサルの視線はミサキに向かってしまった。ビールを飲む姿やホークを使って口に運ぶ振る舞いが異常に可愛く見えた。フッと気付き、ヒカルに視線を向けた。マサルのミサキに向かう視線に気付いているようではなかった。
「ヒカル、ヒデオさんと仕事してるんだって。」
「うん。」
「大学は?。」
「しばらくいけないな。」
「しばらくって?。」
「休学届けを出したら、親に知れそうだし、今年は無理だけど、夜間部に転部しようかと思ってる。」
「えっ、。」
マサルはミサキを見ていた。
「夜間部にさ、転部しようかなって。」
さすがにヒカルもマサルがおかしいと気付いた。
「ミサキがどうかした?」
マサルは焦った。
「いや、あんまり可愛いから・・・」
「なに言っているんだよー。」
ヒカルは嬉しかった。ミサキは顔を赤らめた。それから、他愛もない話をした。この前、炊飯ジャーを買ったとか、マサルに教わった下北のロック居酒屋に行くとか、大学で声を掛けてくれたのが嬉しかったとか、などなど時間は直ぐに過ぎた。時間の観念があまりないマサルでもヒカルの眠たそうな顔に気付いた。下北で飲む約束をして、マサルは部屋を出た。