中学校のころから洋楽に興味を持ち出したマサルは高校に入るとギターを手にした。病弱なことと両親の過保護の影響もあって、マサルは友達がいなかった。ラジオから流れる曲をレコード店で探し、大音響でステレオを鳴らした。白金には似合わない音響に父親は腹を立てたが、防音室をつくり、そこの閉じ込めた。
大学に入るとき、一人暮らしがしたいと言うと、下北のこの部屋を与えられた。マサルには決まった仕送りのようなものはなかったが、母親からカードを渡され、買い物はほとんどそれでした。現金も銀行のカードを渡されていた。口座に金が入っていないこともあったが、翌月には精算できた。
マサルはディープパープルをこよなく愛した。特にライブインジャパンが好きだった。御茶ノ水の楽器屋でギターを買った。ドレムスも買った。アンプも買った。
ミキサーも買った。8トラックのオープンリールも買った。家にいたときより出力のあるステレオもセットした。さらにビデオシステムもそろえた。リビングは最初から防音設備を完備しており、そこが下北ということもあって、マサルの満足できる音量で楽しむことができた。マサルは楽譜が読めるわけではなかった。しかし、ギターで音を探し、ビデオで指使いを研究してディープパープルの楽曲を演奏できるようになった。誰かとバンドを組むと言うわけでもなかった。マサルはレコードの音と自分のアンプからのギターの音をミキサーを使ってミックスし、同時に演奏するようになった。それはさながら、自分がディープパープルのメンバーにでもなったような感覚をマサルに与えた。確かに他の人が聞いたら、リッチーブラックモアが演奏しているのか、マサルが演奏しているのか区別は付かなかっただろう。
その日もマサルはリビングに入ると壁際に並んだ五、六本はあるギターの中から、アンプにつながっているフェンダーのストラトタイプのギターを手にした。ヘッドホーンをするとディープパールのライブインジャパンのビデオをかけた。「ハイウエイスター」を同時演奏しながら、マサルは集中していった。マサルはこの時間が好きだった。すべての煩わしいものから開放されるような気がした。すべての思考がなくなり、音だけがマサルを包んでくれた。夢想の中でマサルはステージに立っていた。
弦が切れた。
高音部のソロパートを演奏している時だった。マサルの音は消え、リッチーブラックモアのギターの音だけになった。重なった音は共鳴しあいギターの音が際立つのだが、その音は薄っぺらく感じられた。マサルは電源を落とし、叔母のニューヨーク土産でもらった当時で四、五十万はしたギターを投げつけた。ギターはボディーとネックの部分で綺麗に割れた。
マサルはヘッドホーンを外し、ソファーに寝そべった。煙草に火をつけた。煙の向こうに、いや、頭の隅から、ミサキの顔が浮かんできた。
大学に入るとき、一人暮らしがしたいと言うと、下北のこの部屋を与えられた。マサルには決まった仕送りのようなものはなかったが、母親からカードを渡され、買い物はほとんどそれでした。現金も銀行のカードを渡されていた。口座に金が入っていないこともあったが、翌月には精算できた。
マサルはディープパープルをこよなく愛した。特にライブインジャパンが好きだった。御茶ノ水の楽器屋でギターを買った。ドレムスも買った。アンプも買った。
ミキサーも買った。8トラックのオープンリールも買った。家にいたときより出力のあるステレオもセットした。さらにビデオシステムもそろえた。リビングは最初から防音設備を完備しており、そこが下北ということもあって、マサルの満足できる音量で楽しむことができた。マサルは楽譜が読めるわけではなかった。しかし、ギターで音を探し、ビデオで指使いを研究してディープパープルの楽曲を演奏できるようになった。誰かとバンドを組むと言うわけでもなかった。マサルはレコードの音と自分のアンプからのギターの音をミキサーを使ってミックスし、同時に演奏するようになった。それはさながら、自分がディープパープルのメンバーにでもなったような感覚をマサルに与えた。確かに他の人が聞いたら、リッチーブラックモアが演奏しているのか、マサルが演奏しているのか区別は付かなかっただろう。
その日もマサルはリビングに入ると壁際に並んだ五、六本はあるギターの中から、アンプにつながっているフェンダーのストラトタイプのギターを手にした。ヘッドホーンをするとディープパールのライブインジャパンのビデオをかけた。「ハイウエイスター」を同時演奏しながら、マサルは集中していった。マサルはこの時間が好きだった。すべての煩わしいものから開放されるような気がした。すべての思考がなくなり、音だけがマサルを包んでくれた。夢想の中でマサルはステージに立っていた。
弦が切れた。
高音部のソロパートを演奏している時だった。マサルの音は消え、リッチーブラックモアのギターの音だけになった。重なった音は共鳴しあいギターの音が際立つのだが、その音は薄っぺらく感じられた。マサルは電源を落とし、叔母のニューヨーク土産でもらった当時で四、五十万はしたギターを投げつけた。ギターはボディーとネックの部分で綺麗に割れた。
マサルはヘッドホーンを外し、ソファーに寝そべった。煙草に火をつけた。煙の向こうに、いや、頭の隅から、ミサキの顔が浮かんできた。