マサルの部屋の電話が鳴った。
「私、私よ。」
「誰?」
「今、どこにいると思う。」
「誰?」
「今ね、MG大の公衆電話からかけてるの。」
「だから、誰?」
「あのね・・」
マサルは電話を切った。
直ぐに鳴った。
「なんで切るのよお。」
「だから、誰。」
「明菜よ。」
「エッ。」
昨日のことが頭の中によみがえった。昨日、クスリが効きすぎて、どこに行くのもいやになり、部屋に戻った。いつものようにアンプに電源を入れて、ビデオシステムをオンにし、ディープパープルを弾こうとした。シンクロするはずの演奏が、と言うより、マサルの指が勝手に動いた。聞いたことのないフレーズが「チャイルドインタイム」の上を走り出した。ユニゾンのフレーズはほとんどなく、狂気のような変拍子と不協和音がマサルの耳にフィードバックしてきた。それはなぜか、解らなかった。指が意思を持ち、フレットの隙間さえとらえているようだった。心地良さがあった。エロチックな臭いがいた。いつの間にか、マサルは勃起していた。
演奏は延々と続き、ビデオテープは既に終わっていた。マサルの中では聞いたことのないメンバーの音が聞こえていた。ドラムス、ベース、ボーカルは仁だった。
弦が切れた。
マサルはギターを外し、勃起した自身を握った。そのとたん、ミサキの顔が浮かんできた。既にミサキの身体は想像できるのだが、身体は昼の情事の明菜だった。昼の感覚をマサル自身が覚えているかのように、握り締めた右手が感覚を模倣するかのように、激しい締め付けと腰の震動がマサル自身を襲った。やはり、右手はマサル意思の届かない生き物のように動いた。そして、マサルは力尽きた。
いま、その明菜が受話器の向こうにいた。
「あなたの家、大きいのね。びっくりしちゃった。」
「エッ。」
「ねえ、もう一度、あなたの家の前に行くから、窓から顔出してよ。」
マサルは気付いた。
「白金の家に行ったの。」
「ええ、」
「そこにはいないよ。」
「何で、学生証に書いてあったじゃない。」
「学生証見たの?」
「・・・・・・・」
「ねえ。」
「あなたのこと、気に入ったし、変な人だったら困るし・・・・」
「いつ?」
「あなたがシャワーしている時・・・・」
「何で?」
「だから、気に入っちゃったんだってばー。突然押しかけてびっくりさせようと思ったの。」
「ふーん。」
「今どこにいるのよー。」
段々、荒っぽい言葉になってきた。
「どこでもいいだろー。」
「なによー。そんな言い方、ないじゃない。」
マサルの頭の中で昨日の事がフーという感じで浮かんできた。マサル自身が火照った。マサルは電話を切った。直ぐに鳴った。
「ごめんなさい。怒ったー。」
「そんなことないけど。」
「ほんとはお願いがあるの。」
「なに。」
「今日ね、同伴指定日なのよ。」
「なにそれ。」
「だからー。同伴しないとペナルティー取られちゃうの。」
「何の。」
「お店よ。同伴すれば、ボーナスが付くの。ね、ね、お願い。これから会って。」
「うーん。」
「最初の一時間だけでいいの。そうすれば、ポッキリ料金だけだから。私が出すから。それなら、ボーナスより安いし。」
勃起してきた。
「いいよ。」
「どこに行けばいいの。」
「新宿でいいじゃん。」
「今どこにいるのよ。」
「下北。」
「下北に着いたら、電話するわね。」
電話が切れた。マサルは受話器を耳に当てたままだった。切断音が鳴っていた。しまった、と思った。テンポにのせられた。
マサルは出かけようかと思った。時計を見た。昨日、ミサキを追いかけている時間だった。道路に面した寝室の窓に向かった。同じ時間に同じように行動するとは限らない。窓から道路を見下ろした。犬を連れたご婦人が散歩していた。窓を開けて、見渡した。ミサキはいなかった。
マサルはリビングに戻り、財布を確かめた。カード類はあった。学生証も、保険証もあった。マサルはもしもの時のために、学生証と保険証は持ち歩いていた。なぜか、可笑しくなった。一人で笑った。
ビデオシステムに「ウッドストック」のビデオを入れて、ソファーに寝そべった。「ジミーヘンドリックス」がソロを弾いていた。ハッとした。昨日の音が共鳴しているようだった。
「私、私よ。」
「誰?」
「今、どこにいると思う。」
「誰?」
「今ね、MG大の公衆電話からかけてるの。」
「だから、誰?」
「あのね・・」
マサルは電話を切った。
直ぐに鳴った。
「なんで切るのよお。」
「だから、誰。」
「明菜よ。」
「エッ。」
昨日のことが頭の中によみがえった。昨日、クスリが効きすぎて、どこに行くのもいやになり、部屋に戻った。いつものようにアンプに電源を入れて、ビデオシステムをオンにし、ディープパープルを弾こうとした。シンクロするはずの演奏が、と言うより、マサルの指が勝手に動いた。聞いたことのないフレーズが「チャイルドインタイム」の上を走り出した。ユニゾンのフレーズはほとんどなく、狂気のような変拍子と不協和音がマサルの耳にフィードバックしてきた。それはなぜか、解らなかった。指が意思を持ち、フレットの隙間さえとらえているようだった。心地良さがあった。エロチックな臭いがいた。いつの間にか、マサルは勃起していた。
演奏は延々と続き、ビデオテープは既に終わっていた。マサルの中では聞いたことのないメンバーの音が聞こえていた。ドラムス、ベース、ボーカルは仁だった。
弦が切れた。
マサルはギターを外し、勃起した自身を握った。そのとたん、ミサキの顔が浮かんできた。既にミサキの身体は想像できるのだが、身体は昼の情事の明菜だった。昼の感覚をマサル自身が覚えているかのように、握り締めた右手が感覚を模倣するかのように、激しい締め付けと腰の震動がマサル自身を襲った。やはり、右手はマサル意思の届かない生き物のように動いた。そして、マサルは力尽きた。
いま、その明菜が受話器の向こうにいた。
「あなたの家、大きいのね。びっくりしちゃった。」
「エッ。」
「ねえ、もう一度、あなたの家の前に行くから、窓から顔出してよ。」
マサルは気付いた。
「白金の家に行ったの。」
「ええ、」
「そこにはいないよ。」
「何で、学生証に書いてあったじゃない。」
「学生証見たの?」
「・・・・・・・」
「ねえ。」
「あなたのこと、気に入ったし、変な人だったら困るし・・・・」
「いつ?」
「あなたがシャワーしている時・・・・」
「何で?」
「だから、気に入っちゃったんだってばー。突然押しかけてびっくりさせようと思ったの。」
「ふーん。」
「今どこにいるのよー。」
段々、荒っぽい言葉になってきた。
「どこでもいいだろー。」
「なによー。そんな言い方、ないじゃない。」
マサルの頭の中で昨日の事がフーという感じで浮かんできた。マサル自身が火照った。マサルは電話を切った。直ぐに鳴った。
「ごめんなさい。怒ったー。」
「そんなことないけど。」
「ほんとはお願いがあるの。」
「なに。」
「今日ね、同伴指定日なのよ。」
「なにそれ。」
「だからー。同伴しないとペナルティー取られちゃうの。」
「何の。」
「お店よ。同伴すれば、ボーナスが付くの。ね、ね、お願い。これから会って。」
「うーん。」
「最初の一時間だけでいいの。そうすれば、ポッキリ料金だけだから。私が出すから。それなら、ボーナスより安いし。」
勃起してきた。
「いいよ。」
「どこに行けばいいの。」
「新宿でいいじゃん。」
「今どこにいるのよ。」
「下北。」
「下北に着いたら、電話するわね。」
電話が切れた。マサルは受話器を耳に当てたままだった。切断音が鳴っていた。しまった、と思った。テンポにのせられた。
マサルは出かけようかと思った。時計を見た。昨日、ミサキを追いかけている時間だった。道路に面した寝室の窓に向かった。同じ時間に同じように行動するとは限らない。窓から道路を見下ろした。犬を連れたご婦人が散歩していた。窓を開けて、見渡した。ミサキはいなかった。
マサルはリビングに戻り、財布を確かめた。カード類はあった。学生証も、保険証もあった。マサルはもしもの時のために、学生証と保険証は持ち歩いていた。なぜか、可笑しくなった。一人で笑った。
ビデオシステムに「ウッドストック」のビデオを入れて、ソファーに寝そべった。「ジミーヘンドリックス」がソロを弾いていた。ハッとした。昨日の音が共鳴しているようだった。