仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

ひとりでいるよりいいかな。Ⅸ

2008年10月16日 14時33分10秒 | Weblog
明菜は手を伸ばしティッシュを取った。マサル自身の下にティッシュをおいて、こぼれないようにコンドームを外した。先をキュッと結び、弱々しいマサル自身をティッシュでくるんだ。ベッドを降りて、ベッドの横にあるボックスにコンドームを投げ入れた。薄く笑みを浮かべながら。
「シャワー浴びてくるね。」
そういうとバスルームに消えた。マサルは軽い貧血の中で何が起こったのか、考えていた。何かを失ったような感覚が頭の中に拡がった。クスリの作用を待ちたかった。夢想が、というよりも無理やりミサキを想像した。けれども、激しいだるさと失われた感覚がミサキを思い浮かべることも難しくした。
 髪にタオルを巻いて、バスタオルにくるまった明菜が出てきた。
「フー、気持ちよかった。」
そういうと、マサルの横に座った。
「あなたもシャワーしてきなよ。」
明菜はマサルの腹を擦り、弱々しいマサル自身に時々触れた。
「ティッシュ、シャワーしないと取れないわよ。」
まだ、フラフラしそうだった。目を合わせないで上体を起こした。明菜はマサルの肩に手をかけ、背中に耳を当て、囁いた。
「あなた、意外と大きいのね。私のにぴったりよ。こんなに感じたのって、凄く久しぶりよ。」
マサルは返事をすることもなく、頭を振りながら、バスルームに向かった。確かに自身にティッシュが張り付いていた。自身にシャワーをかけ、洗い落とし、液体石鹸を身体中に塗りたくり、シャワーを一番強くして、痛いほどシャワーを浴びた。バスタオルで身体を拭き、部屋に戻ると、明菜はもう服を着ていた。その微笑みは、関係が成立しているような、勝ち誇ったような感じさえした。明菜はビトンのポーチから、ルージュを出した。マサルはベッドの上のトランクスとジーンズをはき、ティーシャツを着た。
「ねえ、新宿まで送ってよ。」
甘えるような、けれど逆らうことはできない声がマサルに届いた。マサルはビクンとした。返事ができなかった。
「ねえ、送ってー。」
マサルは肯いた。精算を済ませ、ベンベーに戻った。中央道を走る間、会話はほとんどなかった。幡ヶ谷を過ぎたあたりで明菜が言った。
「こんな凄い車乗ってるから・・・・・・・学生さんなんだね。」
「何、」
「電話番号教えて。」
マサルは突然の問いかけに焦った。でたらめを言ってもよかったのだが。
「四一五の二・・・・・」
クスリのせいか、それとも、明菜の威圧感がそうさせたのか、素直に答えてしまった。明菜は空で繰り返すと、メモ帳を取り出し、書きとめた。
「新宿で降りたら、靖国通りね。」
ベンベーは歌舞伎町に抜ける道のところで止まった。車を降りると明菜は運転席のほうに回り、名刺を差し出した。
「パラダイスビュー フロアーレディー 明菜」
店の名前と明菜の名前があった。
「今度、お店にも来てね。今日、同伴してくれてもいいけど、車だしね。私、キスはしないのよ。でも、あなたは特別、好きなっちゃったみたい。今度、電話するね。楽しかったよ。」
と言うと、マサルの首に手を回し、顔を引き寄せ、キスをした。強烈に吸い、舌を入れ、強烈に舌を吸い、音を立てながら離した。周りにいた人たちが笑いながら、二人のほうを見ているのをマサルは見た。
「じゃあね。」
頬を擦り付けて、手を取り、マサルの腕が伸びきるまで握り締め、引っ張った。力がフッと抜けた。後ろ向きで手を振りながら、明菜は人ごみの中に消えた。
 マサルは何かわからないが、ものすごく悲しい気分になった。アクセルをいっぱいに踏み込んだ。ホイルスピンをしながら、ベンベーは発進した。