仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

さて、その家のドアを開けるのはⅧ

2009年06月05日 16時51分39秒 | Weblog
 マサルの車の中は静かだった。
 ヒデオが来て、清美さんが食事したかと聞き、ミサキの作った朝食を取ったと返事があり、六人は急いで食事を取り、車に乗り込んだ。仁とマサミはヒデオの車に乗った。ヒデオのハイエースは改造してあり、後部座席が二つついていた。一番後ろの席に二人は乗った。その前にミサキとアキコ、助手席にヒカルがのった。マサルの車の助手席には清美さんが乗った。ハルとマーは後部座席に乗った。清美さんはうつむき加減で窓の外を見ていた。ハルもマーも窓の外を見ていた。
 何があったのか、何もなかったのか。
 目に入ったごみがなかなか取れないような苛立たしさをマサルも、ハルも、マーも持っていた。靖国通りから京葉道路に入ったヒデオの車をマサルは追いかけた。
「清美さん、仁のこと知っていたの。」
マサルが耐え切れずに聞いた。
「いえ、なんていっていいか。お会いしたのは初めてです。」
「えっ、どういうこと。」
「お話しするのは・・・・・時間がかかりますから・・・・」
そこで会話が止まった。

不動産屋で鍵を借りて、車は江戸川沿いを走った。そのころの市川は工場が立ち並ぶかと思うと農地が広がり、また、工場があるという感じだった。当時、ナビなどなかった。ヒカルが不動産屋からもらった住宅地図と地図帳を見比べ、目的地に向かった。そこは農地というよりも、森、雑木林、いや、荒地というほうが相応しかった。家にたどり着くまでに、高く伸びた雑草を掻き分けなければならなかった。確かに土地も、家も、広く、大きかった。茅葺をトタン屋根で囲ったその当時でも残っているのが珍しいと思える物件だった。鍵も簡単な南京錠が掛かっているだけだった。
 扉の前で仁が立ち止まった。鍵を差し込もうとするヒカルの腕を止めた。清美さんが仁の横にスッと立った。上向きの矢印のような格好になり、手を繋いだ。二人は同時に振り向き、皆を見た。仁の空いている左手にヒデオが、続いてアキコ、マサミ、ミサキが手を繋いだ。清美さんの右手にはマサル、ハル、マーが手を繋いだ。仁の目が開き、ヒカルとあった。ヒカルは走って、マーの手を取った。仁の目が閉じるのを全員が感じた。目を閉じた。

 閉じた瞳の中に同じイメージが広がった。その建物は綺麗に修復されていた。庭もあり、畑も会った。一つ不思議なことは、皆のイメージは一緒でも、その中心にいるのはそれぞれの自分の姿だった。空気が優しかった。太陽が綺麗だった。
 皆が同時に目を開け、仁の手を離れるとヒカルが手際よく鍵を開けた。