入り口の扉を開けた途端に埃とカビの臭いが皆を直撃した。皆は一瞬、不安に襲われた。仁が一人、土間に入っていった。仁は胸の前で合掌し、直立のまま、しばらく、動かなかった。が、時間と共に、その家屋の中から、得体の知れない気が仁の回りに集まり、グルンと一周するとみなの前を旋回して、空に向かって解き放たれた。実際は臭いになれただけかもしれないが皆はその家の敷居が一気に下がったような気がした。
当時は不動産屋の説明責任も今ほど厳格ではなかった。その家は訳あり物件だった。六年前、相続をめぐって兄と弟がいがみ合い、殺傷事件が起きていた。七十八歳で他界した父親の土地と建物をめぐって、東京に住んでいた独り者の弟が相続権を主張し、一家惨殺という悲しい事件があった。もちろん、その張本人の弟も自殺してしまったのだが。
家主が他界したとき正妻はすでになくなっており、手伝いとして面倒を見ていた妾さんが九死に一生を得て、その後の整理をした。妾さんにも相続する権利はあったが、事件の悲惨さからそれを拒否し、家主の弟の息子が引き継いだ。とはいうもののそれなりの財産もある彼は、そこに住むこともなく、不動産屋に任せ、売るなり、貸すなり、してくれといって、放置した。地元の人はもちろん、その家も土地も、借りる人も、買う人も皆無だった。
ヒデオたちの到着を、そして、仁の到着を、その家は待っていた。
仁も清美も何かを感じていたかもしれない。が、その一瞬の違和感はその後、誰も感じることはなかった。造りの古い家だけあって、建具はぼろぼろでも、柱、梁はしっかりしていた。
改造に向けてのプロセスが始まった。
当時は不動産屋の説明責任も今ほど厳格ではなかった。その家は訳あり物件だった。六年前、相続をめぐって兄と弟がいがみ合い、殺傷事件が起きていた。七十八歳で他界した父親の土地と建物をめぐって、東京に住んでいた独り者の弟が相続権を主張し、一家惨殺という悲しい事件があった。もちろん、その張本人の弟も自殺してしまったのだが。
家主が他界したとき正妻はすでになくなっており、手伝いとして面倒を見ていた妾さんが九死に一生を得て、その後の整理をした。妾さんにも相続する権利はあったが、事件の悲惨さからそれを拒否し、家主の弟の息子が引き継いだ。とはいうもののそれなりの財産もある彼は、そこに住むこともなく、不動産屋に任せ、売るなり、貸すなり、してくれといって、放置した。地元の人はもちろん、その家も土地も、借りる人も、買う人も皆無だった。
ヒデオたちの到着を、そして、仁の到着を、その家は待っていた。
仁も清美も何かを感じていたかもしれない。が、その一瞬の違和感はその後、誰も感じることはなかった。造りの古い家だけあって、建具はぼろぼろでも、柱、梁はしっかりしていた。
改造に向けてのプロセスが始まった。