仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

誰のためとは言わないがⅢ

2009年06月18日 15時32分36秒 | Weblog
 料理の才能でいうとアキコも、マサミも、ハルもあるとはいえなかった。ミサキはヒカルとの生活の中でその才能を伸ばした。その日はミサキが中心をとなってパーティーの準備が進められた。朽ち果てそうなガス台を撤去して、アキコのところの魚焼きの付いたのとヒデオの一口のガス台、同じくヒカルのところのガス台、三機のガス台がキッチンというよりも炊き出し場と言いたいような台所に設置された。ミサキはカレーにスパゲティ、普段はあまりできない揚げ物、サラダと手際よく準備し、三人の力量に合わせて、作業を指示した。三人は感心するのと同時に料理というマジックを見ているような感覚になった。ミサキはほんとうに楽しそうに料理をした。仕上げ、盛り付けの時にはヒデオも参加した。三人は二人のマジシャンに思わず拍手を送った。
 そうした料理が奥座敷の前のスペースのヒカルとヒデオの作ったテーブルの上にのせられた。
 一階の家具はほとんどが手作りだった。切り出したままの松や杉板を使って作られたそれらに、マサミとハルが丁寧にサンドペーパーをかけ、オイルステンを染込ませ、ニスを塗って仕上げた。敷かれていた畳は撤去され、かさ上げをし、杉板のフローリング、そういう言い方はしなかったような気もするが、で仕上げられた。
そこも同じようにマサミとハルが削りと塗りを担当した。床を張った当初は臭いがきつく、全ての窓と扉を開け放たなければならなかった。そのときも臭いは少ししていた。天井こそ低いが、そう、やはり、アーリーアメリカンの開拓地の家、という感じだった。
 冷蔵庫も小型のものが三台。一台は飲み物専用になった。ビールも、ターキーも、ウォッカも、ジンも、ホワイトも全てがテーブルの上にのった。ミサキとハルがビールを配った。
「ヒデオ、準備できたよ。」
「あっ、そっ、そうか。」
「何か言いなさいよ。」
「はは。」
「もう。」
「何か、うー。マサルも回復したし、「ベース」もできた。乾杯。」
拍子抜けするような乾杯に皆が笑った。それぞれがそれぞれに自分の場所を決め、飲んで食べた。
 マサルは空っぽになったリビングを森口さんにどんなふうに説明しようか、などと考えていた。そんなマサルの肩をポンとマサミが叩いた。その日はミサキが最初に音を出した。