いつもの音とは違っていた。誰かが始めればそれを受け入れる形で次の演奏者が参加し、アンサンブルができた。そのフレーズと、そのトーンを強調するように進んだ。が、その日の演奏は強調するというよりも、反発し、ぶつかり合い、今で言うバトルを繰り返すようにも聞こえた。
特にヒカルのベースの音が違った。ヒカルの音は常に皆の音を包み込むようなポジションにいた。が、その日のヒカルのフレーズは激しく、マサルを、マーを、マサミを挑発するかのようにも聞こえた。演奏は嵐が来て、静まり、また、嵐が来る、その大きな波が、増幅し弾け、再び、再生していく、そんな感じだった。
マサルとマーはミサキが何処をチョイスするのか、楽しみだった。
「ここがいいです。マサルさんのフレーズから全体が方向転換する雰囲気が凄いです。」
「ここも、マサミさんが一人になる感じが凄くいい。」
「待って、もう一度、もう一度、聞きたくなります。ユニゾンのような、アンサンブル。」
マサルのデッキのメモリーは今ほど、多彩ではなかった。マサルが鉛筆を取って、カウンターの数字をメモ、そこにあったノートの表紙に殴り書きしなければならなくなった。
「フー。」
三度目の一時間が過ぎるとさすがにミサキは限界がきたようだった。
「ミサキ、ありがとう。」
「ごめんなさい。寝ます。」
ミサキも二階に消えた。マーとマサルはミサキのチョイスを聞き返した。当然、何の打ち合わせもなく、バトルモードの演奏なので、何のキーなのか、リズムが何処なのか、まったくわからず、雑音の応酬のようなところもあった。
「正解かもね。」
「何が、ミサキのチョイスがさ。」
「うん。」
「ミサキ、クラシック、やってたんだよね。」
「そう。」
「そうって、この前、ピアノ弾いてたじゃん。」
「そうだ。メヌエット。」
「だからさ、リズムがあって、フレーズのしっかりしてるところをチョイスしてるよ。」
「確かに。」
「マサル、眠いのか。あとはいいよ。俺やっとくから。最後の五分を頭とケツに持ってきて、中をインプロで構成するよ。」
「そんなことできるの。」
「これだけの機材があれば、バッチリだよ。」
「フイー、悪い、限界だ。」
「いいよ。寝なよ。」
マサルも二階に消えた。マーはヘッドホーンを耳に当てた。
次の朝、一番初めに階下に下りてきたのはマサミだった。食堂の残骸を片付けだして、ふと二重ガラスの窓に目をやるとマーが揺れていた。ヘッドホーンをして、椅子に座り、大きく揺れて倒れそうになると持ち直し、再び、揺れだした。マサミはルームに飛び込んだ。
「マー、マー、大丈夫。」
「フヒョウ。」
「ねえ、ちゃんと寝たほうがいいわよ。何時までやっていたの。」
「ウヒョー、さっきまで。」
「できたの。」
「もちろん、あれ、でもマミちゃん昨日 、いつ消えたの。」
「三人でうまくやってるから、邪魔しないようにね。」
「そうか。」
「ねえ、聞かせてよ。」
「右のデッキ。」
マサミは右側のデッキの再生ボタンを押した。マーはパッと立ちあがると、ルームのドアを閉め、ボリュームを上げた。最初にマサルのギターの爆音が飛び出した。ハッとしている間に、フェイドアウトし、ハルとミサキのヴォイスがフェイドインしてきた。
タカチキ チキ イーアー イーアー
タカチキ チキ イーアー イーアー
ウイ アー リビング イン アザーサイド
ウーアー ウーアー
後ろのほうから激しい音のバトルが攻めてきた。と、再び、ヴォイスを中心のサウンドに。静けさを感じるミサキのピアノが重なり、嵐が再びやってきた。それは激しさと優しさが交差し、再生のためのステップを踏み出すような感じのところで終わっていた。
マサミは感動した。振り向くとマーが親指を上に突き出していた。マサミはマーに飛びついた。抱きしめてキッスした。
「マー、凄い、凄いよ。」
特にヒカルのベースの音が違った。ヒカルの音は常に皆の音を包み込むようなポジションにいた。が、その日のヒカルのフレーズは激しく、マサルを、マーを、マサミを挑発するかのようにも聞こえた。演奏は嵐が来て、静まり、また、嵐が来る、その大きな波が、増幅し弾け、再び、再生していく、そんな感じだった。
マサルとマーはミサキが何処をチョイスするのか、楽しみだった。
「ここがいいです。マサルさんのフレーズから全体が方向転換する雰囲気が凄いです。」
「ここも、マサミさんが一人になる感じが凄くいい。」
「待って、もう一度、もう一度、聞きたくなります。ユニゾンのような、アンサンブル。」
マサルのデッキのメモリーは今ほど、多彩ではなかった。マサルが鉛筆を取って、カウンターの数字をメモ、そこにあったノートの表紙に殴り書きしなければならなくなった。
「フー。」
三度目の一時間が過ぎるとさすがにミサキは限界がきたようだった。
「ミサキ、ありがとう。」
「ごめんなさい。寝ます。」
ミサキも二階に消えた。マーとマサルはミサキのチョイスを聞き返した。当然、何の打ち合わせもなく、バトルモードの演奏なので、何のキーなのか、リズムが何処なのか、まったくわからず、雑音の応酬のようなところもあった。
「正解かもね。」
「何が、ミサキのチョイスがさ。」
「うん。」
「ミサキ、クラシック、やってたんだよね。」
「そう。」
「そうって、この前、ピアノ弾いてたじゃん。」
「そうだ。メヌエット。」
「だからさ、リズムがあって、フレーズのしっかりしてるところをチョイスしてるよ。」
「確かに。」
「マサル、眠いのか。あとはいいよ。俺やっとくから。最後の五分を頭とケツに持ってきて、中をインプロで構成するよ。」
「そんなことできるの。」
「これだけの機材があれば、バッチリだよ。」
「フイー、悪い、限界だ。」
「いいよ。寝なよ。」
マサルも二階に消えた。マーはヘッドホーンを耳に当てた。
次の朝、一番初めに階下に下りてきたのはマサミだった。食堂の残骸を片付けだして、ふと二重ガラスの窓に目をやるとマーが揺れていた。ヘッドホーンをして、椅子に座り、大きく揺れて倒れそうになると持ち直し、再び、揺れだした。マサミはルームに飛び込んだ。
「マー、マー、大丈夫。」
「フヒョウ。」
「ねえ、ちゃんと寝たほうがいいわよ。何時までやっていたの。」
「ウヒョー、さっきまで。」
「できたの。」
「もちろん、あれ、でもマミちゃん昨日 、いつ消えたの。」
「三人でうまくやってるから、邪魔しないようにね。」
「そうか。」
「ねえ、聞かせてよ。」
「右のデッキ。」
マサミは右側のデッキの再生ボタンを押した。マーはパッと立ちあがると、ルームのドアを閉め、ボリュームを上げた。最初にマサルのギターの爆音が飛び出した。ハッとしている間に、フェイドアウトし、ハルとミサキのヴォイスがフェイドインしてきた。
タカチキ チキ イーアー イーアー
タカチキ チキ イーアー イーアー
ウイ アー リビング イン アザーサイド
ウーアー ウーアー
後ろのほうから激しい音のバトルが攻めてきた。と、再び、ヴォイスを中心のサウンドに。静けさを感じるミサキのピアノが重なり、嵐が再びやってきた。それは激しさと優しさが交差し、再生のためのステップを踏み出すような感じのところで終わっていた。
マサミは感動した。振り向くとマーが親指を上に突き出していた。マサミはマーに飛びついた。抱きしめてキッスした。
「マー、凄い、凄いよ。」