仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

それがライブというものさ

2009年07月22日 17時21分32秒 | Weblog
 ノルマに付いての話し合いがもたれた。マサルは自分がなんとかすると言った。対外的に素性が知れてしまうと問題が起きそうなアキコ、ヒデオ、ヒカルはチッケトを販売ができないだろう、ということになった。それでも、ヒデオは、大丈夫そうなのも、現場にいるからといって全部で八十枚あるチケットの中から十枚を受け取った。
 よくよくチケットを見ると出演バンドの欄に「ルシファーズアイ」「ガンクス」の二つのバンド名は載っていたが、後は他三バンドとだけしか印刷されていなかった。
「そんなもんか。」
マーが言った。
 マーは前のバンドの客に連絡を取ろうとしたが、情宣を担当していた星野君をはじめ、誰にも連絡が取れない事実があった。頼りになるのはハルのノートにある打ち上げ参加メンバーの住所だけだった。ミサキは自分も何とかしたいと思うのだが、あの団体以外に知り合いなどいなかった。マサルは名前だけ登録している大学の軽音の部室に、ご自由にどうぞ、と案内をかいて、チケットをぶら下げることにした。
 考えてみると「ベース」での偶発的な出会いによってしか、関係性を保持できなかった人々だった。このような販売という行為を得意とするはずがなかった。農作業の間にミサキとハルとマーが市川の駅前や本八幡の駅前に出向き、手渡しをやってみた。百人に差し出して一人、受け取ってくれればよかった。それでも、そんな行為自体が、ライブをやるという自覚につながった。

 リハーサルが始まった。
 土日のみのリハーサルでは間に合わない、とマーが言い出し、平日の夜もリハーサルに当てた。マサルは、軽音楽部の合宿あるので留守にすると森口さんに伝え、「ベース」に入った。
 とは言うものの、このライブの演奏を、どう始めるのか、どう終わるのか、それすら解らなかった。
 初日は、誰も音を出すことができずに終わった。楽器の前で、普通に始めればいいのに、おかしな緊張が走り、誰も楽器に触れることができなかった。楽器が鳴らなければ、ヴォイスもダンスも始まらなかった。汗がにじむだけだった。
 次の日、マーが提案した。マーが編集したテープの内容を再現してみようと言い出した。それも、難しかった。自分が何をやったか、どう反応したかは、そのときだけのもので再現することはできなかった。テープを回しても、やはり、聞くことはできても、音にすると陳腐に聞こえた。