仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

それがライブというものさⅤ

2009年07月29日 17時11分59秒 | Weblog
本番の三日まえに昭雄さんから電話があった。
「はい、解りました。よろしくお願いします。」
マーは、半分、威嚇するような口調で電話を切った。
「バンドが一つ、逃げたって。今頃言うなよ。サイズを伸ばせるかって。」
「それは、問題ないんじゃない。」
「そうだけど。ノルマのことも忘れていてさあ。四十って言うんだぜ。最初と話が違うといったら、いや、出演バンドが減ったから頼むって、あと付けの理由にきまってるじゃんか。」
「それで、出番は。」
「はあ、ノッケだってさ。」
「えっ。」
「ああ、一番最初だよ。」
「そうかあ。」
「どうも、アイツ、言ってることが調子イイんだよ。金のことばっか言うし・・・。」
「マー、いいじゃんか。マーは経験者だからいろいろあるだろうけど、僕らは初めてだから、ライブハウスでできるだけですごいと思うよ。」
「それはそうなんだけど・・・・。」
 マーの音は気持ちがイイ、マサルはそう思った。ハルがマサルの音に感じるようにマサルはマーの音がマーそのものであるかのように思えた。その日のリハもマーは何も言わずロールから入った。みなが一瞬、ドキッとしたが、マサルのフレーズがマーを包み込んだ。ナイフのようなマーのドラムが激しさはそのままで、怒りから魂の熱に変わっていった。同調が始まり、アンサンブルにふくらみ、ダンサーの肉体を動かした。マーは目覚まし時計をセットし忘れた。それでもその日は良かった。皆の魂が激しいエネルギーとなって、さらにはエクスタシーとなって、ルームを満たした。ぼろぼろになっているヒデオとアキコのボディストッキングははち切れ、マーのスティックは折れ、ヒカルの弦も切れた。ヴォイスが仁のテーマを歌いだし、演奏がピークを向かえ、マーのさらに激しいロールが空気を切り裂いて、エンディングを迎えた。打ち合わせなどなかった。皆が感じていた。マーのロールが最後の盛り上がりを向かえ、ピタっという感じで止まることを皆は感じていた。完全に同調した。
 時の流れを斬るように演奏は終わった。
 細かいことはもういいか。マーは思った。