マーとマサルはベンベーにのっていた。
「金子さんて何者なの。」
「ロ**でずっと店長やってて、独立したんだよ。」
「独立って。」
「吉祥寺と青山でライブハウスやってるんだ。」
「へー、凄いね。マーは何処で知り合ったの。」
「新宿でやってる時に、金子さんが来てて、声かけてくれたんだ。」
「今日はどっちに行けばいいんだっけ。」
「何だよ。さっき言ったじゃん。」
「そうかー。」
二人は京葉道路から靖国通りへと向かった。車の中でマーの編集した音を聴いた。一本のテープに何度も繰り返しで聴けるようにダビングしたものだった。マーは他のテープを探そうともしなかった。
その店は「ベース」に、かつての「ベース」に通じる道沿いに会った。厚い鉄扉を開けると、その日のライブのリハーサルが始まっていた。
「アッ。」
マーがステージのほうに走った。音が止まった。鉄扉の前でマサルは待った。マーが戻った。
「ゴメン、ゴメン、今やってるの知り合いだった。」
「顔広いんだな。」
「違うよ。たまたま、だよ。」
飲物や軽食を出すカウンターのほうにマーが行き、店員と話した。厨房の奥のドアが開き、金子さんが出てきた。
「金子さん、ご無沙汰してます。」
「マーちゃん久しぶりィ。」
「あの、今一緒にやってるマサルです。」
「アラ、君もマーちゃんなの。」
「はあ、マサルです。」
「そう、そう、デモ持ってきたんでしょ。聴かせて。」
マーがテープを手渡した。金子さんは受け取るとクルッと回れ右をして、出てきたドアのほうに歩き出した。マーとマサルはどうしていいか解らずにその場に立っていた。
「何やってるのよ。こっちいらっしゃい。そこじゃ何も聴けないわよ。」
厨房の奥に二坪ほどの事務所があった。机が向かい合わせで二台、周りの書棚には書類が雑然と詰まっていた。机の上にラジカセがあった。金子さんは音のテープを入れた。
エッ、こんなので聞くのか
マサルは声にはしなかったが、驚いた。ラジカセはステレオにはなっているがいかにも安物という感じだった。再生ボタンを押した。金子さんはラジカセのほうをじっと見ていた。七分ほどの演奏を全部聴いた。マーはほっとした顔をしていた。
「全部聴いてくれたんですね。」
「面白いんじゃない。でも、これ編集したでしょ。」
「はは、しました。」
「もうパンクはやらないの。」
「そういうわけじゃないんですけど。」
「編成は六人。」
「バンドが六人で、ダンサーが二人います。」
「ダンサーがいるの。」
「ええ、ダンサーというか、舞踏というか。」
「変わった感じなのね。歌って言うか、声を出している人は素人さん。」
「経験者ではありません。」
「ふうん。」
金子さんはテープを巻き戻し、もう一度再生した。マーはびっくりした。金子さんがデモテープを二度聴くことはなかった。最後まで聞いてもらえるほうが少なかった。
「いいんじゃない。」
「はい。」
「でも。うちの店じゃ無理ね。客層が違うから。」
「そうですか。」
「動員はどれくらいできるの。」
「動員ですか。まだリハーサルの段階なんで・・・・。」
「そう、動員は期待できないってことね。ノルマは大丈夫。」
「ノルマですか。」
「どこでリハーサルしてるの。」
「市川です。」
「うーん、じゃあ、本八幡に知り合いがいるのよ。そこ紹介しようか。」
「ほんとですか。」
「まだ始まったばかりだから、そんなにノルマ厳しいこと言わないと思うけど。たぶん、タイバンね。サイズはどれくらいできるの。」
「合わせられると思います。」
「そう、バンドは問題ないけど。声の人は頑張らないと・・・・。でもマーちゃんのドラムは相変わらずいいわね。」
「ありがとうございます。」
「うちの店に出してあげたいけど、今、事務所、入ってる子が多くてね。ノルマもね。あっちで頑張って、ここに出てよ。」
「はい、頑張ります。」
「ああ、木村に連絡先教えといて。昭雄の連絡先電話するから、木村が連絡してから、店にいってみてよ。」
「はい。」
「テープもらえるかしら。」
「もちろんです。ありがとうございました。」
マーがたった。マサルもたった。マサルは一言も話さなかった。事務所を出る時、金子さんがマーを呼び止めた。マサルは先に出た。マーが笑いながら、ドアを閉めた。店員だと思っていたのは店長の木村さんだった。マーは連絡先をバンドリストの紙に書いて頭を下げた。
バンド名の欄で一瞬、考えた。「ベース」と書いた。少し考えて横線を引き、アルハベットのビーとエスと数字の8に書き直した。なんて読むのかと聞かれ、「ビーエスエイト」と答えた。バンド名などなかったのでその場の思いつきで書いた。マサルが鉄扉の前で待っていた。マーは木村さんに頭を下げ、マサルのほうに走った。
ベンベーは店の反対側に無造作に置かれていた。
「よくもってかれないね。」
「駐禁はとられたことないよ。」
「外車だからかなあ。」
二人は車に乗り込んだ。
「金子さんって・・・・。」
「はは、ゲイだよ。」
「マーは・・・。」
「まだやられてないよ。さっきも、ケツ触られて、今度一人で来いって言われたけどさ。」
「プフ、ドハハハハ。」
「何がおかしいんだよ。」
「金子さんのあの体格とあの格好で、あのしゃべり方はないよ。」
「まあね。でもイイ人なんだよ。」
「ということは・・・。」
「なんだよ。まだやられてないってば・・・・。」
「あやしい・・・。」
「そうは言うけど、オレタだって・・・。」
「そうか・・・・・。」
沈黙した。二人は同じことを考えていた。
「でも、そういうのとは違うよな。」
「うん。違うと思う。」
「でも、凄いな。ライブできそうじゃん。」
「まだわからないよ。連絡待って、また、昭雄さんとこ、行ってみないと・・。」
「金子さんて何者なの。」
「ロ**でずっと店長やってて、独立したんだよ。」
「独立って。」
「吉祥寺と青山でライブハウスやってるんだ。」
「へー、凄いね。マーは何処で知り合ったの。」
「新宿でやってる時に、金子さんが来てて、声かけてくれたんだ。」
「今日はどっちに行けばいいんだっけ。」
「何だよ。さっき言ったじゃん。」
「そうかー。」
二人は京葉道路から靖国通りへと向かった。車の中でマーの編集した音を聴いた。一本のテープに何度も繰り返しで聴けるようにダビングしたものだった。マーは他のテープを探そうともしなかった。
その店は「ベース」に、かつての「ベース」に通じる道沿いに会った。厚い鉄扉を開けると、その日のライブのリハーサルが始まっていた。
「アッ。」
マーがステージのほうに走った。音が止まった。鉄扉の前でマサルは待った。マーが戻った。
「ゴメン、ゴメン、今やってるの知り合いだった。」
「顔広いんだな。」
「違うよ。たまたま、だよ。」
飲物や軽食を出すカウンターのほうにマーが行き、店員と話した。厨房の奥のドアが開き、金子さんが出てきた。
「金子さん、ご無沙汰してます。」
「マーちゃん久しぶりィ。」
「あの、今一緒にやってるマサルです。」
「アラ、君もマーちゃんなの。」
「はあ、マサルです。」
「そう、そう、デモ持ってきたんでしょ。聴かせて。」
マーがテープを手渡した。金子さんは受け取るとクルッと回れ右をして、出てきたドアのほうに歩き出した。マーとマサルはどうしていいか解らずにその場に立っていた。
「何やってるのよ。こっちいらっしゃい。そこじゃ何も聴けないわよ。」
厨房の奥に二坪ほどの事務所があった。机が向かい合わせで二台、周りの書棚には書類が雑然と詰まっていた。机の上にラジカセがあった。金子さんは音のテープを入れた。
エッ、こんなので聞くのか
マサルは声にはしなかったが、驚いた。ラジカセはステレオにはなっているがいかにも安物という感じだった。再生ボタンを押した。金子さんはラジカセのほうをじっと見ていた。七分ほどの演奏を全部聴いた。マーはほっとした顔をしていた。
「全部聴いてくれたんですね。」
「面白いんじゃない。でも、これ編集したでしょ。」
「はは、しました。」
「もうパンクはやらないの。」
「そういうわけじゃないんですけど。」
「編成は六人。」
「バンドが六人で、ダンサーが二人います。」
「ダンサーがいるの。」
「ええ、ダンサーというか、舞踏というか。」
「変わった感じなのね。歌って言うか、声を出している人は素人さん。」
「経験者ではありません。」
「ふうん。」
金子さんはテープを巻き戻し、もう一度再生した。マーはびっくりした。金子さんがデモテープを二度聴くことはなかった。最後まで聞いてもらえるほうが少なかった。
「いいんじゃない。」
「はい。」
「でも。うちの店じゃ無理ね。客層が違うから。」
「そうですか。」
「動員はどれくらいできるの。」
「動員ですか。まだリハーサルの段階なんで・・・・。」
「そう、動員は期待できないってことね。ノルマは大丈夫。」
「ノルマですか。」
「どこでリハーサルしてるの。」
「市川です。」
「うーん、じゃあ、本八幡に知り合いがいるのよ。そこ紹介しようか。」
「ほんとですか。」
「まだ始まったばかりだから、そんなにノルマ厳しいこと言わないと思うけど。たぶん、タイバンね。サイズはどれくらいできるの。」
「合わせられると思います。」
「そう、バンドは問題ないけど。声の人は頑張らないと・・・・。でもマーちゃんのドラムは相変わらずいいわね。」
「ありがとうございます。」
「うちの店に出してあげたいけど、今、事務所、入ってる子が多くてね。ノルマもね。あっちで頑張って、ここに出てよ。」
「はい、頑張ります。」
「ああ、木村に連絡先教えといて。昭雄の連絡先電話するから、木村が連絡してから、店にいってみてよ。」
「はい。」
「テープもらえるかしら。」
「もちろんです。ありがとうございました。」
マーがたった。マサルもたった。マサルは一言も話さなかった。事務所を出る時、金子さんがマーを呼び止めた。マサルは先に出た。マーが笑いながら、ドアを閉めた。店員だと思っていたのは店長の木村さんだった。マーは連絡先をバンドリストの紙に書いて頭を下げた。
バンド名の欄で一瞬、考えた。「ベース」と書いた。少し考えて横線を引き、アルハベットのビーとエスと数字の8に書き直した。なんて読むのかと聞かれ、「ビーエスエイト」と答えた。バンド名などなかったのでその場の思いつきで書いた。マサルが鉄扉の前で待っていた。マーは木村さんに頭を下げ、マサルのほうに走った。
ベンベーは店の反対側に無造作に置かれていた。
「よくもってかれないね。」
「駐禁はとられたことないよ。」
「外車だからかなあ。」
二人は車に乗り込んだ。
「金子さんって・・・・。」
「はは、ゲイだよ。」
「マーは・・・。」
「まだやられてないよ。さっきも、ケツ触られて、今度一人で来いって言われたけどさ。」
「プフ、ドハハハハ。」
「何がおかしいんだよ。」
「金子さんのあの体格とあの格好で、あのしゃべり方はないよ。」
「まあね。でもイイ人なんだよ。」
「ということは・・・。」
「なんだよ。まだやられてないってば・・・・。」
「あやしい・・・。」
「そうは言うけど、オレタだって・・・。」
「そうか・・・・・。」
沈黙した。二人は同じことを考えていた。
「でも、そういうのとは違うよな。」
「うん。違うと思う。」
「でも、凄いな。ライブできそうじゃん。」
「まだわからないよ。連絡待って、また、昭雄さんとこ、行ってみないと・・。」