某大学の医学生が”ローラン展開とかイマイチよく分からん”と嘆いてたのを思い出す。
複素関数でよく登場するテイラー展開とローラン展開だが、どちらも複素関数のべき級数展開である。そして、極とか特異点とかの専門用語もしばし登場する。
これらは複素関数を積分したり、複素解析において非常に便利なツールと言える。
私も一応は数学科の出なので、必要最低限の理解はあったつもりだが、時間が経つと呆気なく忘れている。
「リーマンの謎”3の9”」でも大まかには述べましたが、先ず「テイラー展開」とは”正則なある点の周りの複素関数の級数展開”の事で、「ローラン展開」は”(正則でない)特異点の周りで展開”する。但し、あくまで”点の周り”であり、領域内は正則な必要がある。
そこで今日は、テイラー展開について述べたいと思います。以下、「受験の味方」を一部参考に纏めます。
一般に閉区間[a,x]にて、fをC∞級関数(無限回(階)微分可能な関数)とする時、複素関数f(z)の点aの周りのテイラー展開は、f(z)=f(a)+f’(a)(z−a)+f’’(a)(z−a)²/2!+f’’’(a)(z−a)³/3!+⋯=Σ[0,∞]f⁽ⁿ⁾(a)(z−a)ⁿ/n!、(z∈C)ー①と、複素関数を無限階での多項式展開で表せる。
この証明ですが、仮に①をf(z)=k₀+k₁(z−a)+k₂(z−a)²+k₃(z−a)³+⋯とおき、まずf(z)にz=aを代入すれば、k₀=f(a)を得る。次にf(z)をzで微分しz=aとすれば、k₁=f’(a)=0を得て、更に微分すれば、k₂=f’’(a)/2を得る。これをn回繰り返せば、kₙ=f⁽ⁿ⁾(a)/n!となり、①式のテイラー展開を得る(証明終)。
但し、厳密には以下で述べる「テイラーの定理」を使って証明すべきですが、こっちの方が簡単です。
また、原点(a=0)周りのテイラー展開をマクロリン展開とも呼び、f(z)=f(0)+f’(0)z+f’’(0)z²/2!+f’’’(a)(0)³/3!+⋯ー②で表し、テイラー展開式①にa=0を代入する事で簡単に計算できて、実に多くのケースで使われます。
テイラー展開と収束半径
そこでテイラー展開の簡単な例を挙げ、おさらいをします。但し、ここでは複素関数ではなく実関数を考えるので、zをxとする。
指数関数や三角関数を0の周りで級数展開すると、sinx=x−x³/3!+x⁵/5!+⋯
cosx=1−x²/2!+x⁴/4!+⋯
tanx=x−x³/3+2x⁵/13+17x⁷/315+⋯
eˣ=1+x+x²/2!+x³/3!+⋯などのマクロリン展開公式が知られています。
まずsinxだが、f(x)=sinxとおくと、sinxを順に微分すれば、f⁽¹⁾(x)=(sinx)’=cosx、f⁽²⁾(x)=(cosx)’=−sinx、f⁽³⁾(x)=(−sinx)’=(−cosx)’、=f⁽⁴⁾(x)=(−cosx)’=sinx、…の周期性を得る。これにx=0を代入し、f⁽⁴ᵏ⁺¹⁾(0)=1、
f⁽⁴ᵏ⁺²⁾(x)=0、f⁽⁴ᵏ⁺³⁾(0)=−1、f⁽⁴ᵏ⁺⁴⁾(x)=0を得て、f⁽²ᵏ⁺¹⁾(0)=(−1)ᵏ、f⁽²ᵏ⁾(0)=0となり、②式に代入すれば、sinx=x−x³/3!+x⁵/5!+⋯=Σ[0,∞](−1)ᵏx⁽²ᵏ⁺¹⁾/(2k+1)!を得る。
cosxも同様にして、f⁽²ᵏ⁺¹⁾(0)=0、f⁽²ᵏ⁾(0)=(−1)ᵏを得て、cosx=1−x²/2!+x⁴/4!+⋯=Σ[0,∞](−1)ᵏx⁽²ᵏ⁾/(2k)!を得る。
tanxは少し複雑ですが、f’(x)=(tanx)’=1/cos²x=1+tan²x、f’’(x)=(1+tan²x)’=2tanx/cos²x=2tanx(1+tan²x)=2tanx+2tan³x、f⁽³⁾(x)=2(tanx)’+2(tan³x)’=2(1+tan²x)+6tan²x(1+tan²x)=2+8tan²x+6tan⁴x、以下同様に、f⁽⁴⁾(x)=16tanx+40tan³x+24tan⁵x、f⁽⁵⁾(x)=16+136tan²x+240tan⁴x+120tan⁶xを得る。但し、各導関数にて隣合う係数を交互に足し引きすると0になる事が分かる。
ここで、tanxの偶数階導関数は奇数次の項のみからなり、f(0)=f⁽²⁾(0)=f⁽⁴⁾(0)=⋯=0、またf’(0)=1,f⁽³⁾(0)=2,f⁽⁵⁾(0)=16,…を得て、②式より、tanx=x+x³/3+2x⁵/15+⋯を得る。
tanxの展開は結構ややこしいですが、ベルヌイ数Bₙで表せる事が知られてます。
eˣは簡単で、(eˣ)’=eˣ=f⁽ᵏ⁾(x)となり、f⁽ᵏ⁾(0)=1を得る。故に、eˣ=Σ[0,∞]x⁽ᵏ⁺¹⁾/k!=1+x+x²/2!+x³/3!+⋯を得る。
そこで、簡単な例題として√2とeを求めてみます。まずは√2ですが、f(x)=√(x+1)=1+x/2−x²/8+x³/16−5x⁴/128+⋯に、x=1を代入すれば、f(1)=√2=1+1/2−1/8+1/16−5/128+⋯≒1.42969⋯と小数点第1位まで近似できる。eもf(x)=eˣ=1+x+x²/2!+x³/3!+⋯より、f(1)=e=1+1+1/2!+1/3!+⋯≒2.416666…と小数点第2位まで近似できる。
因みに、これらの超越関数は単純な和で展開でき、収束半径は∞で、xの値に拘らず常に成り立つ。
一方で対数関数の展開は、log(x+1)=x−x²/2+x³/3−x⁴/4+x⁵/5−⋯で表されますが、但し|x|<1との条件が付く。勿論、logxは特異点0の周りではテイラー展開出来ないが、xを1ズラせば何て事はない。
f(x)=log(x+1)として、両辺をxで微分すると、f’(x)=1/(1+x)=1−x+x²−x³+⋯となり、これは初項1、公比−x(|x|<1)の無限級数の和となる。故に、両辺をxで積分すると、f(x)=log(x+1)=x−x²/2+x³/3−x⁴/4+⋯の展開式を得る。但し、y=log(x+1),x+1=uとおくと、dy/dx=dy/du・du/dx=(logu)’・(x+1)’=1/u・1=1/uより、f’(x)=1/(1+x)は明白ですね。
tanxの逆関数であるtan⁻¹xのテイラー展開も、少しトリックが必要です。
(tan⁻¹x)’=1/(1+x²)ですが、この微分を繰り返すと当然手に負えなくなる。そこで、等比級数の公式を使い、1/(1+x²)=1−x²+x⁴−x⁶+⋯、但し|x|<1。故に、両辺をxで積分すれば、tan⁻¹x=∫[0,x]dt/(1+t²)=∫[0,x](1−t²+t⁴−t⁶+⋯)dt=x−x³/3+x⁵/5−x⁷/7+⋯と、テイラー展開できる。
一方で、log(x+1)=x−x²/2+x³/3−x⁴/4+⋯=Σ[0,∞]ₙ(−1)ⁿx⁽ⁿ⁺¹⁾/(n+1)の収束半径rですが、べき級数Σaₙxⁿに対し、”項比判定法”とも呼ばれる「ダランベールの公式」を使えば、r=lim[n,∞]|aₙ/aₙ₊₁|=(n+1)/n→1を得る。
これは、|x|<1で収束し|x|>1で発散するとなるが、x=±1については述べていない。
そこで、展開式にまずx=−1を代入すると、すると 1+1/2+1/3+⋯=∞となり、x=−1では収束しない。また、x=1では(アーベルの連続性定理より)log2となるので収束する。以上より、log(x+1)の展開式は、−1<x≤1の範囲で成り立つ事がわかる。事実、境界上の点r,−rにては、個々の級数により収束の状況が異なるので、判定法の定義には含めない。
以上より、収束半径rを境に、|x|<rを満たす区間の内側なら収束し、外側の|x|>rなら発散する。但し、”半径”と呼ぶのは複素数zのべき級数では複素平面の半径rの円内なら収束、円外ならば発散となるからである。
テイラーの定理と剰余項
ただテイラー展開にも制約があり、まず1つはf(x)はaで”正則(微分可能)”という条件。つまり、微分を繰り返すうちに正則でなくなる場合は展開できない。
2つ目は、zとaが離れすぎてはいけない事。
aから僅かに離れたzにて成り立つのが一般的ですが、zがaを離れる程に展開項の数を増やせば、ズレが補正されて正確な値に近付く訳だが、勿論限界がある。
つまり、この限界を”収束半径”といい。収束半径の値は、どんな関数をどこの周りに展開するかにより異なる。関数によっては収束半径が無限大になるものも存在する。
3つ目は、テイラー展開の右辺(無限和)が必ずしも収束する訳でもない事。故に、剰余項Rₙ=f⁽ⁿ⁾(c)(x−a)ⁿ/n!を展開式の最後に加え、収束するかどうかの確認が必要となる。
従って、テイラー展開はf(x)=f(a)+f’(a)(x−a)+f’’(a)(x−a)²/2!+⋯+f⁽ⁿ⁾(c)(x−a)ⁿ/n!と書け、この等式を満たす”cがxとaの間に必ずある”事を示し、これを「テイラーの定理」と呼ぶ。但し、剰余項Rₙとは、テイラー展開の左辺の”関数f(x)の値”と右辺の”n−1次の項までの和”との”誤差”となる。
つまり、テイラー展開を厳密な形で表現すると、閉区間[a,x]にてfがaの周りでn回微分可能な時、f(x)=Σ[0,n-1]ₖf⁽ᵏ⁾(c)(x−a)ᵏ/k!+Rₙ、Rₙ=f⁽ⁿ⁾(c)(x−a)ⁿ/n!、a<c<xと”n階の多項式展開”で書ける。更にn→∞の時、剰余項Rₙが0に収束すれば、冒頭の①式の様に、f(x)=f(a)+f’(a)(x−a)+f’’(a)(x−a)²/2!+f’’’(a)(x−a)³/3!+⋯と、n→∞の時のテイラーの定理は”fの点a周りの無限階のテイラー展開”とも言える。
但し、逆も真なりで、[x,a]でもc(x<c<a)が存在する。
以下、「高校数学の美しい物語」を一部参考に纏めます。
そこで、「テイラーの定理」を”関数f(x)をx=aの周りで多項式に近似する”との意味で、簡単な例(f(x)=eˣ,n=3,a=0)を挙げて説明する。
この例では、f(x)=f(0)+f′(0)x+2f′′(0)x²+6f′′′(c)x³=1+x+2x²+6eᶜx³となり、cが0とxとの間に存在する。故にx=0の近くで剰余項R₃=6eᶜx³は非常に0に収束し、”eˣはx=0の近くで1+x+2x²に近似できる”と言える。
一方で、n=1の時のテイラーの定理は、”f(x)=f(a)+f′(c)(x−a)を満たすc(a<c<x) が存在する”となり、(f(x)−f(a))/(x−a)=f′(c)と変形すれば、「平均値の定理」そのものです。
そこで剰余項Rₙ=f⁽ⁿ⁾(c)(x−a)ⁿ/n!の評価ですが、例えばn階微分がnのべき乗で抑えられる時、つまり”ある定数A,Bが存在し、全てのnとx₀に対しf⁽ⁿ⁾(x₀)≤ABⁿが成立する”時、Rₙ=0(n→∞)となる。従って、テイラーの定理により、f(x)=Σ[0,∞]f⁽ⁿ⁾(a)(x−a)ⁿ/n!と無限階に展開できる。
これこそがテイラー展開の原理で、テイラー展開の背後には(「平均値の定理」の一般化である)テイラーの定理があると言えます。
そこで「テイラーの定理」の主張である、剰余項Rₙ=f⁽ⁿ⁾(c)(x−a)ⁿ/n!が存在する事の証明ですが、f(b)=∑[0,n-1]ₖf⁽ᵏ⁾(a)(b−a)ᵏ/k!+A(b−a)/n!となる様な定数Aを取ると、f⁽ⁿ⁾(c)=Aとなるcの存在を示せばいい。
ここで、新たに関数g(x)=f(b)−f(x)−k=∑[1,n-1]ₖf⁽ᵏ⁾(x)(b−x)ᵏ/k!−A(b−x)ⁿ/n!と定義するとg(a)=0はAの定め方から、g(b)=0は簡単に分かるので、「ロルの定理」が使える。つまり、f(a)=f(b)より、あるc(a<c<b)が存在し、g′(c)=0となる。
次に、a<x<bにて実際にg′(x)を計算すると、g′(x)=−∑[1,n-1]ₖf⁽ᵏ⁺¹⁾(x)(b−x)ᵏ/k!+∑[1,n-1]ₖf⁽ᵏ⁾(x)(b−x)ᵏ⁻¹/(k−1)!+A(b−x)ⁿ⁻¹/(n−1)!となり、1つ目のΣと2つ目のΣが殆ど打ち消し合い、g′(x)=(b−x)ⁿ⁻¹(A−f⁽ⁿ⁾(x))/(n−1)!を得る。よって、g′(c)=0からf⁽ⁿ⁾(c)=Aが示せた(証明終)。
最後に〜テイラー展開のその裏側
テイラー展開の背後には、「テイラーの定理」が存在し、そのテイラーの定理の中核を成す”剰余項の評価”の背後には「平均値の定理」が構えていました。故に、「ロルの定理」が使え、テイラーの定理を証明する事が可能になり、テイラー展開が使える様になる。
但し、テイラー展開が収束するか否かは、収束の限界(収束半径)をダランベールの判定法で求める必要があり、更に、テイラー展開が使えるか否かは、テイラーの定理の主張である剰余項の収束を確認する必要がある。
私達が安心して(当り前の様に)テイラー展開を不自由なく使えるのは、こうした影武者的なツールのお陰であり、こうしたべき級数の仕組みを知り得ただけでも、テイラー展開の見方も印象も変わってくるであろう。
三角関数や指数・対数関数をべき級数で表現するという魔法の様な展開公式だが、その裏側には様々な工夫と発見が成されていたのである。
そういう事を知り得ただけでも良しとしようじゃないか・・・そう思わないと数学なんてやってられない。
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