とてもいい意味で、予想を裏切ってくれた見事なファイトだった。昭和の、不器用だが激しくも生々しさが残る贅沢な”薫り”がした。
それに、ボクシングを見終わって胃が痛くなったのは初めてである。
しかし、ボクシングファンという人種はファイトと同じく過酷でもある。”よく頑張った”という声が殆どだと思うが、中には”やっぱり・・・”とかの酷評もないではない。
今まで3度のブログで、村田選手の事を(少なくともだが)好意的には書かなかった。いや、結構厳しい事を書いたと思う。
今更、それを謝ろうとは思わない。
しかし、昨晩のファイトは私が(村田選手に)欲してきた”リアル”そのものであった。
まるで、私が書いてきた記事を読んだかの様な、初回の激しい攻防、いや村田からすれば”徹底抗戦”でもあった。
試合は、最初は見る気がしなかった。
というのも、40歳のゴロフキンにも36歳の村田にも、”黄金のミドル”に見合う激しさと渇きを期待するのは、酷な様に思えたからだ。
特に、村田選手はロンドン五輪で金を獲得後、プロに転向し、嫌味なまでに饒舌になった。ここ2年間は王者なのか?解説者なのか?これからの生き方にどう折り合いをつけるのか?
彼の金メダルもファイトも、そして世界タイトルをも含め、全てが曖昧に思えてたからだ。
故に、村田選手には(ワルの喧嘩ではなく)”等身大”のリアルを期待した。しかし、(全盛期は過ぎたものの)百戦錬磨のゴロフキンを前にすると、(村田選手が軽く見え)どうも見る気が失せていく。
試合の前日にYouTubeで、ゴロフキンと石田選手の試合を見た。
ゴロフキンは30歳と全盛期で、一方で石田は37歳だが(世界戦の戦歴と勢いでは)村田以上だった。
しかし、その石田選手も長身と長いリーチを活かせず、僅か3Rで”撃沈”する。
”リング中央だったら、死んでたかもしれない”
”最後の晩餐”
(何度見ても恐怖しか覚えない)この動画を見る限り、40歳のゴロフキンとは言え(36歳の)村田に勝ち目はない。
しかし、村田諒太の”最後の晩餐”を見届けたいとも思った。それも、生で見たかった。
試合直前にまで悩み、(実を言うと1ヶ月の無料視聴は2度目で)ダメ元でAmazonプライム登録を試したら、あっさりとライブ映像に変わる。
”今日は憑いている。何かが起こりそうだ”
両選手の入場が終わり、日本の国歌が流れてる所で、何だかいい予感がした。私の予感は大方は外れるもんだが、今回は何だか違う空気が漂っていた。
スマホを横置きにし、音声を卓上スピーカに切り替えると、(スマホ観戦でも)世界戦の雰囲気が出る。
スマホで生の世界戦を見るなんて、”何と貧相で贅沢な事だろう”
我ながら、少しだけ嬉しい余韻に浸った。
1R、「激しく崩れよ」で”初回が全てだ”と書いだが、(その思いが通じたのか)全くその通りの展開になる。
村田の右がゴロフキンのボディに(まるで絵に描いた如く)”着弾”し、岩みたいな肢体が”くの字”に折れ曲がる。更に、自慢の右ストレートがゴロフキンの額を撃ち抜いた。
”これならイケる”
出来過ぎの展開に、少し嫌な予感がした。
事実、終盤になるとゴロフキンの左右のコンビが村田の顔面とボディを一気に襲う。
両者の激しくもリアルなファイトに、私の胃袋はハチ切れそうになっていた。
ほぼ互角のまま、衝撃のラウンドを終えた。
村田は薄笑いを浮かべている。
”想定内だ。この調子で行けばゴロフキンは倒せる”と囁いてる様でもあった。
一方でゴロフキンの顔は真っ赤に染まり、セコンドの罵声が聞こえそうだ。
”このままでは殺られるぞ、これは戦争だ”
2Rも3Rも村田のラウンドだった。
被弾も多かったが、村田は激しくゴロフキンの懐に攻め入った。
”肉を切らせて骨を切る”というを諺が現実にあるのなら、この村田の為にある。
しかし、ゴロフキンの岩の様に固く重い左の拳は、村田選手に確実にダメージを与え、体力を削ぎ落としていく。
3R終了のインターバルでは、笑顔が消え、流石に苦悶の表情が目立ち始める。
村田の思い切った賭けと激しい戦いは、肉だけでなく骨も削り落ちていたのだ。
4R以降は、終始ゴロフキンのペースで展開した。村田も時折、(まるで何かに憑かれたかの様に)右ストレートを浴びせるが、ゴロフキンに巧みにブロックされ、有効な筈の右ボディもローブロー気味で、思った程の損耗を与える事は出来ない。
村田の破壊力抜群の右に、ゴロフキンが軽く左を合わせ、(目立ちはしないが)確実に相手を破滅の隅に追い込んでいく。
一方で、序盤のボディが効いてたせいか、ゴロフキンも無理はしなかった。力任せに追い込むではなく、サイド&バックステップを器用に踏みながら、相手との距離を潰していく。
ボクシングは”闘拳”と呼ばれるが、単なる殴り合いではない。相手の拳と距離を1つ1つ潰し、BOXの隅に追い詰め、拳で仕留める。
つまり、これこそがBOXINGとなる。
リングに敗者はいない
確かに、4R以降の村田はロープを背負い、コーナーに追い込まれるシーンが多くなった。それでも必死に激しく抵抗した。
序盤の3Rをフルスロットルで戦い、スタミナを消耗しただけでなく、ゴロフキンの(破滅を匂わせる)拳を、村田は運命を受け入れるかの如く浴び続けた。
一方で、40歳のゴロフキンもそれ相当のダメージを受けていた筈だ。全盛期だったら、序盤での打ち合いに真正面から応じ、余裕でKOしてたであろう。
しかし、昨晩のゴロフキンは違った。
村田の右を浴びる度に表情は歪み、村田の執拗な右ボディを明らかに嫌がっていた。
真後ろに下がるシーンも目立ち、(初の黒星を喫した)カネロとの試合以上に疲弊し、そして苦戦していた。
これをゴロフキンの”不透明な凋落”と村田の”危うい躍動”と纏めればそれまでだが、両者とって危険な綱渡りであった事は確かでもある。
しかし、9R全てのラウンドに、リアルと激しさがあり、同時に互いの危うさもあった。
”1つ間違えば、全てが終わる”
そう思わせ続けたファイトでもあった。
確かに、ゴロフキンにとっては何が何でも”負けられない戦い”であったが、村田にとっては”全てを賭けた戦い”でもあった。
結果はTKO負けだったが、ファイトを制したのは村田涼太の方だった。
つまり、リングには敗者はいない。
”スタイルはファイトを制す”と言われるが、村田の激しいリアルなスタイルが、ゴロフキンを追い詰め、ゴロフキンの勝利を引き出した。
ただ、それだけである。
勝負には負けたが、激しいファイトを披露してくれた村田選手は、とても贅沢で貴重な体験を我々と共有できた筈だ。いや、そう思わないとやってられない。
進化とは、変異と淘汰の産物である。
今日の負けは単なる”淘汰”であり、激しい戦いのスタイルは(今までの村田にはなかった)”変異”である。
ボクサーもボクシングも、そしてリングを見守る我々も、そうやって進化していくのであろう。
一方でゴロフキンの勝利は、彼の危うげな凋落を示唆してた様に思うのは、この私だけだろうか。
ゴロフキンの78と村田の75でした。
村田は3Rまでが精一杯で、4Rは息が上がってましたから
ゴロフキンの全盛期だったら、2Rまでに終わってましたか。
でも、9月のカネロ戦は苦戦するでしょうね。
ひょっとしてKO負けもあるのかな。
前回「激しく戦え崩れろ」では、
“時に起こり得るリングの奇跡を期待”
とコメントしましたが、
熱戦実現という奇跡は起こりました。
勝敗はさておき、
熱い戦いを見せてくれた両選手へ、
素直に拍手を贈りたいと思います。
そして観戦を促してくれた貴ブログへも
御礼申し上げます。
「ありがとうございました」
では、また。
ゴロフキンの全盛期だったら、3R持つか持たないか?でしょうが、今回の様にとても激しいファイトにはなったと思います。
カネロはゴロフキンのボディを徹底的に攻めるでしょうね。今回の様な激しいファイトを望みたいです。
りくすけサンのコメントがなかったら、この試合は見てなかったと思います。
昭和のボクシングファンにも村田選手の鼓動が届いたんですかね。
負けはしましたが、村田選手にとっては勝利以上の価値があると思います。
私も村田選手に対する記事を幾つか書きましたが、書いて正解だったかなと思ってます。
りくすけサンの奇跡の予想が見事に当たりました。こちらこそおめでとうで、有り難うですね。
9Rも途中から村田が押し返して、結構へばってた。そんな中でのカウンター気味の右フック。
狙ってたというより偶然に近い。
村田も8Rが限界だったかな。
聖地ラスベガスやゴロフキンの地元カザフスタンでやってたら、もっと早い回でKOされてたかもしれないけど、明らかにゴロフキンの限界が見えた。
思うほど強くはなかったし、テクニックもファイトも単調だったし、こんなもんかなって
このレヴェルのファイトじゃ、9月はカネロにKO負けするのかな。
それとも反省して、フットワークを巧みに使うスタイルに切り替えるのか。
でも、もうゴロフキンの復活はないだろうね。
私ももう一度見たんですが、二人の限界を感じました。
カネロも無理に階級を上げてるだけで、強いとも思いませんが、今のゴロフキンなら確実に勝てるでしょうね。
村田選手の引退試合はSミドルでカネロに挑戦と行きたいんですが、無謀でしょうかね。
日本でなら不可能でしょうね
今回も結構揉めたらしく、ゴロフキンのファイトマネーの15億は契約のDAZNが、ゴロフキンのVIP滞在費と村田の5億はAmazonプライムが負担したんじゃないの
日本以外でどれだけの人がDAZNを見たか知んないけど、時差とかも入れたら興行的には芳しくなかったんじゃないのかな〜
でもないか・・・
そもそもカネロが受けるかどうか?
惜しい判定負けだったなら、多少は候補にはなったんでしょうが、完全KOなので(其の後遺症も考えると)少し難しい気もしますが。
実質の引退試合だったんでしょうか。
でも有終の美には変わりないので、村田本人も満足してると思います。