戦争を数学者の視点で見たら、どう映るのだろうか?戦争ほど数の論理が、数学の理論が色濃く反映するものもない。
数学は確実に世界を変える力がある。今や、政治や外交では、世界も戦争も変えるには限界がある。
昨日は、先月の「ゴジラ〜キング•オブ•モンスターズ」(要クリック)以来ほぼ1カ月ぶりに、劇場へ足を運びました。ゴジラとは異なり、評判通りの充実した秀作でした。
そこで今日は、映画「アルキメデスの大戦」に登場する主人公の天才数学者の物語です。ネタバレも多少含みますが、悪しからずです。
「アルキメデスの大戦」〜巨大戦艦か空母か
因みに、主人公の櫂直(かいただし)演じる菅田将暉(26)は、小さい頃から数学が好きで、”数学に関しては100点しか取りたくない”子供だったとか。
”数学はRPGの様なゲーム感覚です。難しい事柄を簡略化していく過程が、仲間や武器を増やすゲームの感覚に重なり、問題という敵を倒していく。虚数の様に元々存在しない数字を仮定する事で、色んなものが導き出せる。何だか哲学的な部分もありますね”と語る。
こんなイケメンで数学好きの若者が俳優だとは、正直驚きですな。この映画をキッカケに、数学が日の目を浴びるといいんですがね。
但し、この天才数学者の櫂直は全くのフィクションです。一見、史実と勘違いしそうな程の完成度の高い出来栄えで、騙されそうになりました。モデルとしては戦艦大和の設計者の平賀譲中将であるらしく、実際に彼は、東京帝国大工学部を主席で卒業してます。
実は、この時も大和の設計では海軍を二分する程に、大きく揉めたらしいです。
実は戦艦大和は、空母に変更する計画があったらしいと、昔聞いた事があるんですが。全くの都市伝説じゃなかったんですね。
事実、大和型3番艦の「信濃」は、戦艦として生まれながら、途中で空母に転身し(1944年11月)、1961年にアメリカ海軍の原子力空母エンタープライズが登場するまでは、史上最大の排水量を誇った空母でした。
しかし、大和や武蔵に比べ、作りが不完全過ぎて、米潜水艦のたった魚雷4発で、出港後僅か22時間足らずで、呆気なく沈没します(悲)。
故に、「アルキメデスの大戦」の原作者である三田紀房も、「信濃」ではなく完成度の高い大和や武蔵を空母に改造してたら、という思いが強かったんでしょうか。
それに、国立競技場の改修か新築かで揉めた事も、この原作に大きく影響を与えたみたいです。
空母「信濃」を建造し、失敗したこの事実は、来年の東京オリンピックの運命を物語ってる様で、少し心許ないですが。
一人の天才数学者が巨大戦艦大和に挑む
映画「アルキメデスの大戦」は、日本海軍の造船を初めとする当時の技術戦略をテーマにしたフィクション作品です。でも、上述した様にとてもフィクションには思えません。
一人の天才数学者が、巨大戦艦建造計画を阻止する為に、孤軍奮闘する物語。数学の力で戦争そのものを変える事は可能か?
早速、86年前にタイムスリップします。
1933(昭和8年)、欧米列強との対立を深め、軍拡路線を歩み始めた日本。海軍省は、世界最大の戦艦「大和」を建造する計画を秘密裏に進めていた。
”今後の海戦は航空機が主流”という自論を持つ山本五十六は、巨大戦艦の建造がいかに国家予算の無駄遣いかを、明白にしようと考えてた。
そこで山本が目を付けたのが、100年に1人の天才と言われる元帝国大学の数学者•櫂直だ。
”巨大戦艦を建造すれば、その力を過信した日本は必ず戦争を始める!”
この言葉に意を決した櫂は、帝国海軍という巨大な権力の中枢にたった一人で飛び込んでいく。天才数学者VS海軍、かつてない頭脳戦が始まる。同調圧力と妨害工作の中、巨大戦艦の秘密に迫る櫂。その艦の名は「大和」だ。
櫂直(かいただし)という男
この映画の主人公である櫂直は、元東京帝大数学科の学生。若干22歳の櫂は、英語やドイツ語を含む複数の語学にも堪能な上、数学的な発想に優れた天才として周囲の期待を集めていた。
尾崎家の令嬢の家庭教師をしてたが、令嬢とのスキャンダルを疑われ退学に追い込まれた。その矢先に、平山中将の巨大戦艦建造計画を阻止する為、山本五十六から海軍に誘われる。平山が低く見積もった、巨大戦艦の実際の建造費を計算させ、平山の不正を暴露する為だ。
山本は老朽化した金剛に代り、大型の空母を主張してたが、平山が計画する巨大戦艦の建造費の見積もりは、空母よりも低いのに疑惑を抱いてた。
”こんな安い費用で作れる筈がない”
こうして櫂は、山本からいきなり主計少佐に任命され、海軍省特別会計監査課の課長に就任。以後、日本の技術戦略に大きく関わる形で、国防体系に大きな影響を及ぼす存在となるが。様々な妨害が巨大戦艦推進派の連中から入り、上手く進まない。
勿論、数学が得意だが、実はその特性を生かせるあらゆる分野で、卓越した実力を発揮しうる英才でもあった。政治的な洞察にも長け、優れた人心掌握能力で陸海のみならずあらゆる分野の俊才達を惹き付ける人間的魅力を持つ。
戦艦に代わる距離攻撃手段としての航空機と、無資源国日本にとって脅威となる通商破壊用兵器としての潜水艦の存在に目を向けるなど、当時としては破格な戦略眼の持ち主でもあった。
”数字はウソをつかない”は、櫂の口癖でもあった。
鉄の総量で建造費を計算?
僅か10日間で、巨大戦艦の見積もりの正確な計算を任された櫂は、完全極秘となる巨大戦艦の設計図を入手できる筈もなく、仕方なく独力で設計図を描く。
しかし、当然それだけでは正確な建造費を割り出せる筈もない。全ては不可能に思えた。
ここで100年に1度の天才数学者は、鉄の総量に注目した。つまり、鉄の総量が判れば建造費が判るというのだ。
どういう事か?
つまり、鉄が少ない部分は構造が複雑でパーツも多く、建造費が高く付き、鉄が多い所は構造がシンプルで、建造費が安く付くという数学的理論だ。
ここら辺は観てて、少し時間を割いて詳しい説明が欲しかったか。
でも微積分を使ってた所を見ると、”計量テンソル”の概念を使ってた様な気もする。いや”建造費テンソル”と言った方が正確か。
テンソルの概念については、”アインシュタイン”(要クリック)を参照です。
因みに、映画の中で天才数学者の櫂直が計算した”鉄の総量と戦艦の建造費の関係式”が以下の”自作式”(要クリック)で紹介されてます。意外に単純というか、もう感動モノですな。
数字はウソをつかない!
時間のない櫂は、戦艦を幾つかのブロックに分け、ブロック毎に鉄の総量を計算する。これは、実際の史実に見事に基づいたものだ。まさにアッパレですな。
当時日本の”建造溶接”技術は世界一と言われてた。戦艦を作るには時間を急ぐ為、従来のリベット工法では効率が悪く、”ブロック建造法”が考案された。船体を各ブロックに区切り、溶接で繋ぐやり方だ。
しかし、この溶接工法も溶接箇所の強度は増すものの歪みが出易く、脆性破壊が起き易い。実際にアメリカの溶接船は、真っ二つに割れて沈没した。しかし、日本の溶接艦ではそういう事は一度も起こらなかった。
日本の造船技術は、戦時中も世界一であったのだ。
こうして、何とか巨大戦艦の正確な建造費を弾き出した櫂は、平山の軍閥の不正を数の力で暴いてみせた。”数字はやはりウソをつかない”。この映画の最大の見せ場でしたな。
この言葉を、今の安倍に突きつけたいものだな。でも、安倍は数学は全くだろうね(悲)。
しかし、この巨大戦艦プロジェクトは、平山中将のプラン通りに進められた。その上、皮肉な事か、櫂が我流で作った設計図を元に巨大戦艦大和が誕生する。
エンディングは完成された戦艦大和を眺めて、櫂が涙するシーンで幕を閉じるが。緊張感溢れる前中盤に比べ、終盤は予算の都合からか、アッサリ感は拭えなかった。
数学には世界を変える力がある
原作の漫画と映画では、終盤が大きく異なるが、予算の都合からして、これが精一杯だったろうか。
漫画では、櫂は空母用の艦上機の開発にも手を掛け、ナチスドイツとの駆け引きでジェットエンジン型の戦闘機を開発する。
巨大戦艦にては、次世代のミサイル艦型空母を想定し、平山中将と半妥協をする形で、新たな巨大艦大和の建造を進める。
そこで櫂は、敢えてこの異次元の巨大戦艦の製造をアメリカにリークし、山本が考えるアメリカとの講話を図ろうとするが・・・。漫画ではこの先も展開は続きます。
数学に世界を変える力が果たしてあるのか?答えは勿論イエスだ。
事実、原爆を生み出したのも数学の力だった。世界を支配するのもアメリカという力の論理だ。国力も経済も軍事力も数の論理だ。
数字はウソをつかないし、数字は全てを変える力がある。櫂が最後に語った様に、”数に支えられた正義はウソをつかない”
人は平気でウソを付く。故に人が唱える正義もウソを付く。それが国家の為であろうが国民の為であろうが、ウソはウソである。
故に正義の為の戦争は、大義があろうと無駄で莫大な犠牲が発生する。
しかし、数字に裏付けされた正義には、ウソや曖昧さがない。故に、犠牲を最小限に抑える事が可能だろう。
トランプがイランを攻撃しなかったのも、中東に駐屯する米軍の5000人に被害が出ると計算したからだ。つまり、”5000”という数字が、イラン攻撃を封じ込んだのだ。
ヤッパリ菅田将暉クンは格好良かったな
でも、数学者をネタにした映画は、悲惨で貧乏臭いものが多いのも事実。故に数学者は決まった様に、変質者として描かれ、私達見る側も変人として見下してしまう。
事実、どんなに偉い数学者でも、数学に疎い大衆からすれば、最後は”変りモン”という一言で片付けられる。彼らが遺した論文の1/1000でも理解できたら、口が避けてもそういう事は言えまい。
しかし、主人公の天才数学者の櫂直を演じた、菅田将暉は格好良かった。ガロアもアーベルも若くてハンサムだったが、数学好きな菅田将暉君も凛々しくてカッコよかった。
リーマンもカントールも、若い頃はモテモテのイケメンだったのだ。映画を観てて、そういう事ばかり考えてた。
ガウスだったら、ディリクレだったら、デデキントだったら、クンマーだったら、どんな巨大艦大和を計画しただろうか?どうやって講話に持ち込むのかなってね。そう考えただけでもゾクッとする。
最後に
私は映画を劇場で見る時は、決まった様にお酒を飲む。そして殆どの映画はすぐに眠りこける(笑)。
タイタニックは、途中でビール缶をスクリーンへ向け、投げ付けたくなったし、GODZILLA(2014)はオープニングで眠りこけた。そして、今年のゴジラは爆音しか耳に入らなかった。
無事最後まで観れたのは、アメリカンスナイパー(2014)だけだったか。それ以来の緊張感と充足感のある映画だった。
ド田舎の映画館の、それも小さめのシアターにも拘らず満杯に近かった。映画館に来た人の大半は、この映画がお目当てだったろうか。タイタニック以来の混み様だった。お陰でチケット購入に時間が掛り、冒頭の圧巻のCGのシーンは見れなかったが。
勿論、購入した座席に座れる筈もなく、一番前の席に座って、一人ワインを飲んで観た。目が結構痛かったが、不思議と疲れる事も集中が途切れる事もなかった。
ああ続編を作って欲しいな。この作品は数時間で説明できる映画ではない。ロッキーみたいにシリーズ物にすべきだ。この一作だけではとても語りきれるもんではない。そう思えた作品だった。
数学に一筋の光を刺してくれたという点では、歴史的快挙といえる映画ではある。
まあジャニーズ系ですが、数学好きという事で非常に凛々しく見えました。でも良い演技してましたよ。ディパプリオより100倍凄かったです(笑)。
舘ひろしの山本五十六は、どうも”ハズキルーペ”のイメージが強くて、少し笑っちゃいましたが、鶴瓶が存在感ありました。
でもオープニングのCGが見たかったな。まさに、”レイズ•ザ•YAMATO”でした。
世界一と言われた溶接の技術もこういったきめ細かい計算と方程式の賜物なんでしょうか。
私も注目してた映画ですが、予想以上に面白そうです。CMでも派手に紹介されてる大和が沈むシーンを見れなくて少し残念でしたね。
露骨にネタバレですが、ここは時間を掛けて欲しかったですね。
数学者もその苦悩を判りやすい言葉で伝える事も必要だとは思います。でもこれが難しんですが。
実際に映画を見て思ったのは、櫂直が数学の天才というよりは、計算の達人という味付けが強いように感じました。
計算の達人であれば、AIに置き換わることも可能ですが。数学の天才が簡単にAIに置き換わるとはとても思えません。
転んださんは数学者がAIに置き換わる時代が来ると思いますか?
確かに、櫂直は数学というより計算の天才ですね。だから、天才数学者がAIに取って換わるという単純なミスをしたかもです。
計算バカならAIに置き換えた方がずっと効率的ですし、複雑な数式や関数式を組み合わせたりするのもAIに任せた方がいいかなと。
結局、AIが数学者Iに置き換わる筈もないが、数学者の補助としては良い働きをしそうです。
戦後日本がどこか歪んだ国家になったのも大東亜戦争に敗けたからですし。
もちろん戦争に負けて良かったなどと言う輩はよほどの売国奴だけですが。
勝ったら勝ったでアメリカのように傲慢になるし、負けたら負けたで北朝鮮や韓国みたいに僻みっぽくなるし、近い将来アメリカが跡形もなく敗れ去る日が来るかもですが。日本人の心の底には、そういった気持があるのも事実でしょうし、考えるだけで鬱になりますね。