NHKスペシャル「飽食の悪夢~水・食料クライシス」は、やがて(確実に)起きるであろう地球レヴェルでの深刻な食糧危機についてのドキュメンタリーだ。
個人的には、地球温暖化よりも食糧危機の方がずっと深刻だと思う。
確かにスーパーに行けば、ありとあらゆる食材や食料品で溢れてはいる。ゾラの「パリの胃袋」じゃないが、見てるだけでも壮観である。
私達は普段、こうした食の飽和に関し、何ら注意を払わない。いや、払う必要もない。というのも、高度成長後の日本で食が”途絶えた”事は一度もないからだ。
新型コロナのパンデミック時に、マスクやアルコールが不足に陥った様に、食そのものが不足する事態に陥ったら、我々は冷静に対処できるだろうか?
マスクだけでも大騒動だったのに、もし牛肉だけでも不足に陥ったら、多分世界中は暴動を引き起こすだろう。一部の金持ちは牛肉を買い占め、殆どの大衆はパニックに陷る。
ヴィーガンらの菜食主義者は”そら見たことか”とニンマリだろうし、先進国も含め急成長を続けてきた途上国は、昔ながらの貧しい食生活に舞い戻るのだろうか?
しかし、”モノが食えない”という現実を受け入れる人間がどれだけ存在するのだろうか?甚だ疑問ではある。
そこで今日は、食糧危機のウソとホントについて述べたいと思う。
水が足りない
「飽食の悪夢」の大まかな内容だが、計算上では世界には全ての人に必要なカロリーを提供する穀物生産がある。しかし、飢餓人口は既に8億人に達し、その理由は先進国などに肉の消費が偏ってると。
牛肉1㎏を生産するに、6~20㎏の穀物が必要で、穀物の1/3は家畜のエサに使用される。その穀物を生産するに大量の水が必要となり、大量の穀物を使用する牛肉では1㎏の生産に風呂77杯分の水が必要だ。
日本が食料を輸入する事で間接的に輸入す水は年間の水使用量に匹敵。その為、生産国では地下水が枯渇している。
穀倉地帯のカンザス州の農地に地下水を供給するオガララ帯水層は10年間でなくなるかもしれない。干ばつが起きた南アフリカではワイン生産の為に水の囲い込みを行う。ワイン1本にスラム街の人が必要とする2週間分の水が使われ、先進国の我々はこうして輸出されたワインを消費する。つまり、この様な食料生産は持続可能ではない。
以下、「食糧危機は本当に起きるのか?」から一部抜粋です。
食料生産の偏りを生むきっかけになったのは、1960年代の”緑の革命”だ。緑の革命は、農薬や化学肥料を大量に使用して収量を飛躍的に増大させ、単一品種の大規模栽培が実現し、食料の生産国と消費国がはっきり分かれた。
現在では、食料輸出の80%以上を20か国が独占し、トウモロコシの場合はアメリカやブラジルなど5ヶ国が75%以上を輸出している。
水や食料に偏りがある。温暖化により、これらの国が同時不作になり輸出が制限されると、世界中で飢餓や暴動が起き、食料の生産は更に不安定化する。
事実レバノンでは、スーパーに食品が溢れてるのに、多くの人は高くて買えない。日本でも数%の確率で暴動が起きるとされる。途上国では、欧米資本によるカカオやコーヒーなどの商品化作物のプランテーションの為に、多くの小規模農民は土地を奪われ、森林を伐採し農地を切り開く。
食糧危機に対する取り組み
他方で、生産国では農産物の価格維持の為に生産物の1/3が廃棄され、更に先進国では食料の1/3は廃棄される。
しかし、こうした食品ロスに対する取り組みも開始されてはいる。
温暖化ガスの1/4は食料システムに由来するが、この解決策として大豆由来の人工肉などの取り組みも行われている。穀物による牛肉等の生産に比べ、人工肉は水の使用や温暖化ガスの排出を9割近く削減できる。
また食生活を見直す為、牛肉や豚肉の消費を先進国では8割、日本では7割削減する事が提唱されてる。アフリカでは、小規模農民による不耕起栽培によって肥料・農薬や水の利用を抑え、生産を増加させる取り組みも行われている。
更にまとめると、”先進国が肉を消費する為に、大量の穀物や大量の水が食肉生産に使用され、これが水資源の枯渇を生む。更に緑の革命の結果、世界の輸出国は少数の国に独占され、他方先進国では大量の食品ロスがある。飽食を改め、食生活や生産システムを見直すべきだ”と。
飽食に警鐘を鳴らし、食品ロスは減少すべきである。穀物による食肉生産は環境問題を引き起こし、草で飼養された肉に比べ健康にもよくない。その上、畜産は温暖化ガス(メタン)を大量に放出し、糞尿を通じ大量の窒素分を生み出す。
しかし、番組では意欲が前のめりになり、食料危機を煽りすぎている?との懸念を持った。WFP(国連世界食糧計画)の事務局長の発言と全体的な番組の流れに少しズレがあるように思われた。
そこでファクトチェックをしてみたい。
オガララ帯水層枯渇の嘘とホント
カンザス州のオガララ帯水層が紹介されてたが、アメリカで最も土地が肥沃な穀倉地帯は中西部の”コーンベルト”と呼ばれる地域だ。土地が最も肥沃なこの地域ではトウモロコシと大豆が生産される。
一方、小麦地域であるカンザス州はコーンベルトには少し外れている。小麦はトウモロコシや大豆に比べると収益が劣るので、コーンベルトでは生産されない。
因みにコーンベルトとは、ミシガン・オハイオ・イリノイ・インディアナ・ミネソタ・ウィスコンシン・アイオワ・ネブラスカなどの各州で、「フィールド・オブ・ドリームス」の舞台となったアイオワは全米で生産額2位を争う農業州だ。
しかし、そのアイオワでは灌漑は殆ど行われなく、降雨を使う。ネブラスカの一部地域を除き、他のコーンベルト地域の州も同じ。
ネブラスカやカンザスは灌漑を行ってるが、主として河川水(プラット川とアーカンソー川)の利用である。オガララ帯水層の地下水を利用するのは、ネブラスカ・カンザス・テキサス・コロラドの一部地域に限られる。
オガララ帯水層が枯渇する事は好ましくはないが、仮に枯渇したとしてもコーンベルトの農業生産に支障は生じない。また、ヨーロッパも一大穀物生産地域であるが、ここも降雨を使い、灌漑は殆ど行っていない。
つまり世界には、雨水を利用する農業と、ダムや河川・地下水を利用した灌漑農業がある。番組で紹介された灌漑農業は世界の水使用量の7割を使用してると言われるが、地下水の利用はその一部に過ぎない。
日本でも、水田などに灌漑は多く使用され、農業用水は全ての水使用量の7割を占めるが、地下水利用は農業用水の5%程度に過ぎない。
緑の革命の嘘とホント
農業研究者の多くは、”緑の革命により大規模・大量生産が行われ、特定の輸出国の独占が拡大した”という番組のナレーションに、相当な違和感を持ったのではないだろうか?
短気な人なら、ここでテレビを切ったかもだ。緑の革命とは、こんなものではない。
”緑の革命”とは、小麦と米の多収量品種の開発による途上国における穀物の増産の事で、1960年代後半までにアジアと南アメリカの熱帯地域で大幅な穀物増産をもたらした。
しかし限界もあった。これら品種は十分に肥料を投下しなければ、高い収量をあげる事は出来なかった。また、高い収量を挙げるには背丈の短い品種でなければならない。背が高いと倒れてしまうからだ。
東南アジアの洪水の多い地域では浮稲という背が高い品種が使われてたが、短稈・短性品種を栽培するには水の管理が不可欠だ。その為、多収量品種は水管理が難しく、無肥料栽培となる水田では効果をあげる事は出来ない。
故に米作では、その利用は灌漑水田に限られた。結局、”緑の革命”は米と小麦に限られ、アフリカの常食である雑穀・豆類・イモ類には及ばなかった。
緑の革命は、途上国における米と小麦の増産であり、アメリカやブラジル等における農業の規模拡大や生産増加とは全く別物である。アメリカ等では革命以前から穀物の生産性は向上している。
また、特定の国が輸出を独占したとても、輸出制限を行う事はない。つまり、アメリカ・カナダ・オーストラリア・ブラジルらの主要穀物輸出国が輸出制限を行う事はあり得ない。
過去に2度ほど輸出制限を行ったアメリカは大きな痛手を被った。これについては「”食料危機”論に惑わされない穀物貿易の基礎知識」を参照。
また、温暖化により世界同時不作が起こるのなら、これまでも穀物生産に影響が生じている筈。しかし、穀物生産は順調に拡大してきている。
番組では、環境経済学者が温暖化による不作や輸出制限による暴動等を主張してるが、この人は農業や食料貿易などについての基礎的な理解がなかったようだ。
以上、RONZA(論座)からでした。
最後に〜飽食の島国
私は極端な地球温暖化論には反対である。それに、地球の気温を正確に計る様になったのは、ごく最近になってからだ。
もし人類が存在しなければ、今の地球は全球凍結の時期にあると聞いた事がある。食糧危機に明確なエビデンスがない様に、それ以上に地球温暖化にも明確な科学的証拠はないようにも思える。
このコラムを書いた山下氏は、”緑の革命”と”水源の枯渇”の嘘を見事に暴いてはいる。
しかし、先進国の飽食の危機は、途上国の貧食や飢餓と同様の視点で見つめるべきだろう。つまり、途上国の危機は先進国の危機でもある。
元々炭水化物が苦手な私は、ここ3年ほどは1日2食で通している。肉体労働なら3食きちんと取るべきだが、営業や精神労働や知能職なら2食で十分である。量以上に、食はバランスと質が重要だろう。
私の場合、晩酌だけは常習化してるせいか好都合な事に、肉と野菜とミネラルは必須である。
今では腸活ブームに乗り、断食や植物繊維などのデドックス(解毒)効果が見直されている。医学的検証も見直され、これに関しては後にブログを立てるつもりです。
食事を減らす事で、病気が減り健康になれば、コストの掛らない地球に優しい最高の生存戦略だろう。
しかし悲しいかな、今の日本は飽食至上主義の真っ只中にある。
事実、SNSやブログも食に関するものが多い。インスタ映えするからインフルエンサーも多く、写真を載せるだけでアクセ数が簡単に稼げるから、定番のテーマになりつつある。
”緑の革命”や”水源の枯渇”がたとえ嘘だとしても、食の自給率が37%(2018年度)という日本では、飽食は大きな問題ではある。
それに、新型コロナ危機を受け、穀物輸出国が規制を始めたとの報道を目にすると甚だ心配ではある。
米や野菜は何とか自給できてはいるが、麦と大豆は一桁に近い。肉類は約50%だが、家畜の飼料は殆どが輸入である。
日本の食の自給率を上げるには、日本人の飽食を警戒する方が人類のデドックス(解毒)にも繋がり、近道だと思う。
食糧危機は来るかもしれないし、来ないかもしれない。しかし、飽食は確実に人類を潰す。
飽食の悪魔は食糧危機よりもずっと怖い。そんな飽食の時代に、食糧危機を煽ってもまんざら場違いではないと思うのだが。
でも、その利益を早急に求めるのは、これまたバカチンだとも思うんです。
難しいですよね。
あ、腸内環境にはトマトとタマネギとニンニクがいいみたいです。血液サラサラにもなりますよ。
トウモロコシを世界中に売りさばく為にジャンクフードが生まれ、人類の健康を害し、一方ではそのトウモロコシの粉が飢餓を救う。
穀物産業は人類の飽食と飢餓とともにこれからも大きくなるだろうし、人類の胃袋を満たし続けるんでしょうね。
コメント有り難うです。