日本推理作家協会賞受賞作
図書館に予約したのはいつか忘れるほど前で、今頃読むくらいの人気作だった。
返却時の延長は認められません、と言うピンクの紙がはさんであった。
このごろ短編集ばかり読んでいる気がする。題名どおり暗い話が5編収まっていた。
「蠅男」
亡くなった祖父の家に置きっぱなしの母親の骨壷を取ってきてほしいと依頼される。葉村晶はフリーで探偵業をしている。群馬の伊香保温泉の奥に建っている寂びた家に行くと、ライターの朝倉が腐乱死体で転がっていた。ということで心霊スポットや、土地開発やらが絡んだ話。
「暗い越流」
これが受賞作。
死刑囚にファンレターが届いた。5年前、犬が吠え掛かかったというだけで犬もろとも飼い主を轢き殺し、通りかかった4人を巻き込んではね、ロータリーデバスと衝突して、運転手と乗客が亡くなり重軽傷者も出たという残虐な事件だった。
手紙の差出人を調べると、犯人の近くに住んでいた山本優子という女性だった。だが彼女は5年前の台風の日に家を出て行方不明だった。私はその捜査をすることになる。
父親は老母の介護で家出した娘を探すどころではなかったと言う。
私のところにも老いた母がいる、口やかましい母のせいで妻と娘は家を出て行った。
優子はどこにいるのか。
手のかかる親がいる家庭の重苦しさが底辺になったところが、現代を反映しているが、短い話なのであまり工夫はない。
死のうとして失敗ばかりしている「死ねない男」の話が利いている。
「幸せの家」
小さな雑誌の編集長がいなくなった。彼女が一人で切り回してきた特集は次号まできちんと企画が出来上がっていた。
女号の企画と言うので、読者から選んだ若い主婦の自慢の鍋料理を取材に行く。老人のいるらしい家庭もある。
編集長失踪の手がかりを探しに借りていた部屋に行くと、通帳に不審な入金があり、どうも恐喝でもしていたらしい。
題名の「幸せの家」というのは「幸せの家?」と言うのがふさわしい話になっている。
「狂酔」
これが一番面白かった。
教会の集会でシスターたちに向かって酔った青年が話し出す。
家庭の話は父親が自殺したことから始まって子供のころ誘拐されたこと。アル中になった経緯。
なぜここで話をしているか、静かに聞いて欲しい。ここにいた中学生の少女が子供を産んで、追い出されただろう。彼女はこの教会のシスターを慕っていて、近くでカレー屋をやっている。貰われた子供を探し出して育てて、仕事を手伝わせている。事件があるとボランティアの食事のために教会の庭でカレーを作るのを楽しみにしている。話は続く。
教会が見えて見晴らしがいいと両親が喜んでいた我が家を買った、家族の息子が行方不明になったね。そのときもカレーの炊き出しをしただろう?
延々と続く話の糸は、教会や、妊娠した少女や、通報してやってきた警官やを巡り、哀切な最後に続いていく。
「道楽者の金庫」
遺品整理業者と一緒に値のつく本の選別を任された葉村晶は今も探偵でアルバイト。古くてもいい本もあるが、見るとこけしの数がハンパではない。その中に、貴重品を入れた金庫を開く手がかりのこけしがあるという。東北の別荘まで探しに行き、てんやわんやの話。
こけしが見つかったことは見つかった、その貴重品はと言うと???なものだった。
それぞれ面白い、短い話なので、楽しめた。