読み初めに相応しい暖かくいい話。おまけに文房具店が舞台で素敵な店主がいる。できればお勧めの文具をいろいろ買って帰りたい。文具だけでなく勿論店主のお兄さん付きで(初夢) 5つの短編集。
☆万年筆
しのぎを削った新人研修で生き残りついに初任給を手にした。ふと耳にした「お世話になった方に何か送るべし」なるほど。優しい先輩が地図を書いてくれた銀座の文房具店にたどり着いた。店主は宝田硯という。夏子さん(祖母)に一筆添えて贈る。だがこの一筆が難物。書いたことも読んだこともない。そこで彼を救う有難い薀蓄をこめた店長のお話が、ここの読みどころ。
無事体裁の整った初だよりを出すことができた。
趣のあるレターセットや数寄好みの文具などいろいろが取り揃えてある。垂涎の文具譚の始まり。
☆システム手帳
ホステス教育というより人間教育をして暖かく見守ってくれた恩人のママがいる。そんな店をやめることにした。退職用の便せんと封筒を買いに銀座の「四宝堂」に行くと定休日だった。だが偶然帰宅した店主に会い事情を話すと裏口からイベントや展示会用の二階に案内される。ながい歴史を刻んだ老舗の二階の建築描写が味わい深い。退職届を出すつもりだった、が退職願との違いを聞いて、どちらにするのがいいのか、退職する経緯を聞いてもらう。恩人を裏切ることになりはしないかという迷いが大きい。店長の話を聞いているうちに人と人のつながり、良い出会いに恵まれた人の幸いな思いに気が付いてくる。
☆大学ノート
「四宝堂」のそばにある喫茶店「ほゝづえ」の話。近い距離にある老舗同士代々の付き合いは、子供たちの歴史にも重なっている。
「ほゝづえ」の娘良子は店を手伝っているが訪ねてきてくれた七海とは父母の代からの付き合いで、久しぶりに出会ったのだが悩みがあるようで分厚い何冊もの大学ノートを持ってきた。
七海は今高校生で弓道部に入っていて副将をしている。主将は男子で交代で練習記録ノートをつけているが、そのことで悩んでいて良子が相談に乗る。まじめな悩みが話すことで解決し主将との友情が深まっていく。
☆絵葉書
母の遺言は弔辞を別れた父に読んでほしいということ。離婚後私は母のもとで育った。
その間母と私は堅実に暮らして来た。母は化粧品の開発で成功していた。
葬儀は年の瀬だった。父はいつも頼んでいた年賀状の印刷を断りに「四宝堂」に行く。
文面に悩みながら二階を借りて弔辞を書き始める。
「四宝堂」とは名刺を印刷していた縁で今もつきあいがある。
父母が結婚することになったそもそもの始まりは、父が海外で仕事を始めたころ。母は売店で働いていて頻繁に絵葉書を買いに来る父と知り合った。当時海外からの絵葉書は取引先に喜ばれていた。そんな時代だった。
二人は付き合い始め、親しくなって結婚した。
会社の成長とともに仕事がらみで始まった父の生活はどんどん派手になり、浮気をし、家庭も破綻して離婚。二度目の結婚をしたがやはり家庭は壊れ離婚。一人になって病気に倒れる。そこでも看護婦を気に入り3度目の結婚。
話が混乱するので1度目はカミさん、二度目は奥さん、三度目の妻はワイフと呼んでいた。だが三度目も結局離婚。子供は母違いで、女の子ばかり恵まれた。
近くの喫茶店「ほゝづえ」の良子ちゃんが差し入れてくれた珈琲とエクレアがなくなるころ、紋切り型の(実に正しく味気ない)弔辞が出来上がった。波乱万丈、ありきたりでない男が読む弔辞はそれでいいのだ、解ってくれるのだ。
とはいえ悲しいことに最近のワイドニュースは賑やかでこの程度ではあまり驚かなくなった、のは、どうなんでしょう。これはどん底というにはそうでもない緊迫感に欠ける、あららとでもいうテーマかもしれないが、やはり結びはほのぼの話で締めてある。
☆メモパッド予算
寿司職人が独立して店を持った。ギリギリの予算でも現場監督のお陰で予想以上の店ができた。
「四宝堂」に頼んでいた開店の挨拶状を取りに行った。
この歴史のある評判の文房具店は非の打ち所のない出来で筆耕も美しく、納品の点検をするのも恥入るようだった。
ただ、案内を送付するだけでは済まない恩人がいた。会って言葉で報告したい感謝を伝えたい。言い尽くせない恩がある。道を踏みはずさないでここまで来られたお礼が言いたい。
あれこれ出来事が心をよぎる。あの人は懐かしい横浜の老舗洋食店主人。恩人だ。不良だった時生きる道を指し示してくれた人。
よくあるストーリーかもしれないが構えず読める。複雑な人生を生き抜いてきた支えは、苦しい時の恩人の言葉だった。
私などなんでもすぐに都合よく忘れるのを恥じてしまう。
読んでいていい気分になれる。こんな読書が心地いいということかもしれないが。全ての道はローマに通ず。十把一絡げの主婦でも読んだ後は素直にローマに向いてみようかと思う、こんな読書もいいと思った。
しのぎを削った新人研修で生き残りついに初任給を手にした。ふと耳にした「お世話になった方に何か送るべし」なるほど。優しい先輩が地図を書いてくれた銀座の文房具店にたどり着いた。店主は宝田硯という。夏子さん(祖母)に一筆添えて贈る。だがこの一筆が難物。書いたことも読んだこともない。そこで彼を救う有難い薀蓄をこめた店長のお話が、ここの読みどころ。
無事体裁の整った初だよりを出すことができた。
趣のあるレターセットや数寄好みの文具などいろいろが取り揃えてある。垂涎の文具譚の始まり。
☆システム手帳
ホステス教育というより人間教育をして暖かく見守ってくれた恩人のママがいる。そんな店をやめることにした。退職用の便せんと封筒を買いに銀座の「四宝堂」に行くと定休日だった。だが偶然帰宅した店主に会い事情を話すと裏口からイベントや展示会用の二階に案内される。ながい歴史を刻んだ老舗の二階の建築描写が味わい深い。退職届を出すつもりだった、が退職願との違いを聞いて、どちらにするのがいいのか、退職する経緯を聞いてもらう。恩人を裏切ることになりはしないかという迷いが大きい。店長の話を聞いているうちに人と人のつながり、良い出会いに恵まれた人の幸いな思いに気が付いてくる。
☆大学ノート
「四宝堂」のそばにある喫茶店「ほゝづえ」の話。近い距離にある老舗同士代々の付き合いは、子供たちの歴史にも重なっている。
「ほゝづえ」の娘良子は店を手伝っているが訪ねてきてくれた七海とは父母の代からの付き合いで、久しぶりに出会ったのだが悩みがあるようで分厚い何冊もの大学ノートを持ってきた。
七海は今高校生で弓道部に入っていて副将をしている。主将は男子で交代で練習記録ノートをつけているが、そのことで悩んでいて良子が相談に乗る。まじめな悩みが話すことで解決し主将との友情が深まっていく。
☆絵葉書
母の遺言は弔辞を別れた父に読んでほしいということ。離婚後私は母のもとで育った。
その間母と私は堅実に暮らして来た。母は化粧品の開発で成功していた。
葬儀は年の瀬だった。父はいつも頼んでいた年賀状の印刷を断りに「四宝堂」に行く。
文面に悩みながら二階を借りて弔辞を書き始める。
「四宝堂」とは名刺を印刷していた縁で今もつきあいがある。
父母が結婚することになったそもそもの始まりは、父が海外で仕事を始めたころ。母は売店で働いていて頻繁に絵葉書を買いに来る父と知り合った。当時海外からの絵葉書は取引先に喜ばれていた。そんな時代だった。
二人は付き合い始め、親しくなって結婚した。
会社の成長とともに仕事がらみで始まった父の生活はどんどん派手になり、浮気をし、家庭も破綻して離婚。二度目の結婚をしたがやはり家庭は壊れ離婚。一人になって病気に倒れる。そこでも看護婦を気に入り3度目の結婚。
話が混乱するので1度目はカミさん、二度目は奥さん、三度目の妻はワイフと呼んでいた。だが三度目も結局離婚。子供は母違いで、女の子ばかり恵まれた。
近くの喫茶店「ほゝづえ」の良子ちゃんが差し入れてくれた珈琲とエクレアがなくなるころ、紋切り型の(実に正しく味気ない)弔辞が出来上がった。波乱万丈、ありきたりでない男が読む弔辞はそれでいいのだ、解ってくれるのだ。
とはいえ悲しいことに最近のワイドニュースは賑やかでこの程度ではあまり驚かなくなった、のは、どうなんでしょう。これはどん底というにはそうでもない緊迫感に欠ける、あららとでもいうテーマかもしれないが、やはり結びはほのぼの話で締めてある。
☆メモパッド予算
寿司職人が独立して店を持った。ギリギリの予算でも現場監督のお陰で予想以上の店ができた。
「四宝堂」に頼んでいた開店の挨拶状を取りに行った。
この歴史のある評判の文房具店は非の打ち所のない出来で筆耕も美しく、納品の点検をするのも恥入るようだった。
ただ、案内を送付するだけでは済まない恩人がいた。会って言葉で報告したい感謝を伝えたい。言い尽くせない恩がある。道を踏みはずさないでここまで来られたお礼が言いたい。
あれこれ出来事が心をよぎる。あの人は懐かしい横浜の老舗洋食店主人。恩人だ。不良だった時生きる道を指し示してくれた人。
よくあるストーリーかもしれないが構えず読める。複雑な人生を生き抜いてきた支えは、苦しい時の恩人の言葉だった。
私などなんでもすぐに都合よく忘れるのを恥じてしまう。
読んでいていい気分になれる。こんな読書が心地いいということかもしれないが。全ての道はローマに通ず。十把一絡げの主婦でも読んだ後は素直にローマに向いてみようかと思う、こんな読書もいいと思った。
今年もどうぞよろしくお付き合いくださいませ。健やかでよいお年でありますよう。