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真の体を借りて修行する羽目になった、僕はもう死んだのに。輪廻から外れふわふわの魂になって呑気にやろうと思っていたのに。下界でもう一年間生きてみるという抽選に当たってしまった。
僕はずいぶん悪いことをして死んだらしい。輪廻を外れ生まれ変われない魂になってゆるゆる流されている。
そこに天使がきて「おめでとうございますっ!あなたは抽選に当たりました。見事当選されたラッキー・ソウルです!!さぁ、下界に降りて一年間、再挑戦です」と少しくたびれてはいるが美形の天使が言う。
どんな大きな罪を犯したのか前世のことなどすっかり忘れて、今に満足している僕は、辞退してみた。なんとなく前世では疲れたという記憶がある。ところがガイドの天使プラプラが「ボスには逆らえません」という。その上「修行場は楽園ではないのです」などという。ますます気持ちが萎える。
そんなこんなで極彩色の渦に飲み込まれて降下。
危篤状態が持ち直さず魂が抜けたばかりの体(要するに亡くなったばかりの小林真の体)にすんなりと入った。修行先の体にホームステイしたというらしい。
プラプラの事前情報では。母親は不倫中、父は悪徳商法の罪で上司がごっそり抜けた会社で、ところてん式に部長になって喜んでいる俗物で、兄とは心底気が合わないらしい。
ところが目を開けるとベッドわきの三人が歓喜の大泣きで迎えてくれた。十分前に死亡告知をした医師もびっくり、それでも退院の時「もう充分だろう、二度と死ぬなよ」といってほっぺをつねった。
久しぶりの学校はというと中学三年で花の受験生。欠席は風邪ということだし、もともとはみ出し者でつきあいも悪く、友達もいないらしいし。嬉し寂しの状態。真はこんな奴だったんだ。
ただ美術室だけは心が休まる避難場所にぴったりで落ち着く。真は絵が上手かったらしい、僕もいささか自信がある。その上好きな桑原ひろかがいる。
ところがもう一人の女子、佐野唱子が鋭い。どうも雰囲気が変わったという。まぁ真相なんて誰も信じないし適当にあしらっておく。
そうして絵の世界では、不運な境遇や背の低さや孤独な惨めさが忘れられていたが。
ただ担任の沢田から中間試験のあと言われた。こんな浮世離れした成績不振で、いろいろきつかったことを踏まえても将来どうするのか。ときた。あぁ真の脳はこの程度だったのか。
意外なことに、進学について家族は親身(?)に気遣ってくれる。美術に強い私立はどうか、
授業料については皮肉と嫌みの塊の兄まで、医学部受験を後回しにするから私立を受けろ、という。
でもホームステイは一年、進学しても残りは半年、そんな、ありがたいけれど好意を無駄にはできない。
成績にあった公立に決めて少しはがんばってみるかなと、受験勉強を始めたのはいいが、味気ない日常に生気が抜けてきた。そこに父が釣りに行こうという。しぶしぶ行ってみるとなんだか自然の空気は爽快で、父はぽつぽつと胸の内を漏らす。家族への責任感もあり胡散臭くて居づらい二年間を死んだように忍び、今回会社でもなんとかやる気の出る部署に着いた。波乱万丈も捨てたものじゃないという。
そのとき僕は孤独に堕ちた。それもいいが死んだ真は誤解したままじゃないか。生き返る望みは全くなく死は続く。
渋滞の中でまた父が言う、地獄のような会社で二年間耐えた重みが吹っ飛んだ、お前が生き返ったんだ。人間ってのは大したもんだ、あの一瞬の喜び。その上兄が医者になりたいと言い出した。お前は未来を変えたんだ。
あの底意地の悪い兄の満が。
「医学部受験を今年諦めたのは俺のため?」「まさか、サルでもよかったんだ」
僕のことをこの時とばかりにずだ襤褸にけなして兄は机に向いてしまった。とぼとぼ部屋に帰ったが、眠れなかった。無念だった。父や母や兄の声を聞かしてやりたかった。真なぜ死んだんだ。
小林家が少しずつ色を変えていく。一色ではないよく見るとカラフルで見方によって色が違う。そうなんだ。
そしてあっと驚く、一年後。
初めての森絵都さん、ナツイチのリストにある「みかづき」を読もうと思ったら書店になくてもう書評も上がっていたし、それはそのうち読もうとこの「カラフル」を買ってきた。ワクチン接種も始まったもうこれで終息に向かうのだろうかと、お墓参りと買出しでちょっと気分転換の後に、ほんのり暖かいこの本にであえた。