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「検事の信義」柚月裕子 

2022-06-21 | 読書

 

今回も佐方検事は相変わらず罪人をまっとうに裁くという信念を曲げない、ただ朴訥にまっすぐに職務を遂行する。彼の迷いのない生き方に胸がすく、4つの短編から成る #2022カドブン夏フェア
 
☆裁きを望む
裁判で最後に検事による論告求刑という記事を読むことがある、まっとうに裁くということはこの求刑が罪に対して相当であるかないかということだが、裁判はどういう流れかなどということにはまったく疎いけれど、佐方検事は罪に対する罰の重みを常に考え行動する。

柚月さんはここで、地検内部で刑事部が起訴した案件に疑問をとなえた公判部の佐方の生き方をくっきりと見せる。この事件がまずスタートには最適。

事業に成功した資産家が亡くなり高価な腕時計を持っていた男が窃盗と住居侵入で逮捕される。男は無実を訴え続けている。
佐方はこの男の裁判の論告の最後に「無罪と考えます」と締めた。
なぜか。男を起訴している刑事部との軋轢は眼に見えていたが。

☆恨みを刻む
問題ありだといわれている刑事が男を逮捕した。スナック経営の女から情報を得て男の自宅を捜査し覚醒剤を見つけた。
佐方はこの女の情報に不審を覚えた。その証言のちょっとした齟齬を調べ始める。言い訳は通らない。結果刑事の思惑も見えてくる。佐方検事の爽快な解決が読みどころ。

☆正義を質す
佐方検事は広島出身だった。年末年始休暇で帰省する予定だったが、広島地検にいる同期の木浦に若い頃の想い出の宮島で逢いたいと誘われた。木浦は婚約破棄など失意の時期で郷里には帰省し辛いという。逢ってみるのもいいだろうと約束をした。
木浦は広島でのやくざの抗争を止めたいという。その上検察の裏金問題を内部告発の形で暴露記事に書かれている。佐方も思い当たるところはあるが全国の地検ではこういうことは真相にふれることはない。
またやくざの抗争に無駄に市民を巻き込むことはないなどという。
広島、やくざというと、広島には刑事の日岡がいた。話題作「孤狼の血」はここにも繋がっていた。
抗争の話の元は日岡だったが、彼はやくざの抗争を止める策は、佐方の手を借りて幹部を保釈することにあるといった。
様々な思惑がこの宮島の出会いにある。これだけの情報がさらりと短編にまとめてあり面白かった。

☆信義を守る
これは佐方の人情味溢れる話。
母親殺しで逮捕された男は老いた母親が重荷になったなどと自分勝手な事情を話す。親の介護から逃れたいという息子の殺人罪は重い。
手に負えない認知症の親をおもてあましその上最近職場がいやになりやめたという。今は無職で親の年金だけの極貧生活。持ち家があるので生活保護も受けられないなどともいう。
佐方は雑木林で母を殺して放置し近くをうろついていた息子の行動に不信感を覚える。
彼は近隣や息子の職場を訪れてみると、その人柄は評判がよく、特別好感を持たれていた。母親を殺すなどは孝行息子にはふさわしくない意外な出来事だと揃っていう。

心を揺さぶられるような話で、現代の世相を見るような出来事に、不幸を背負った人生の救いの手はどこにあるのだろうと思う、検事の信義はどこまで照らしているのか、物語に中だけでは済まない気がするが。
 
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