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「痺れる」 沼田まほかる 光文社文庫

2015-06-19 | 読書



沼田まほかるさんは三作目。傑作「ユリゴコロ」の作風がぴったり来ていた。

次に勢い込んで読んだ「9月が永遠に続けば」はその暗さに圧倒された、楽には生きられないにしても、自分で招いた不幸までも何か運命のように襲ってきて、その上不意の事故、おぞましい性癖、忌みごと、怖くやり切れなない思いでもう読むのは止めようかと思った。

ところがそんな毒に染まったのか、この本をふと手に取り、チラッと読んで、また取り込まれた。「悪は伝染する」とか「毒はじわじわ伝わる」とかあり来たりの言葉を、言い訳めいて思い出だしながら読んだのだが、面白いシーンは短く終わってしまった。私は迂闊にも短編集だと気がつかなかった。

これならいけると思った。そして読み進んで驚き、心から詫びた。沼田さんの作品は奇をてらうのではなく、ことさら暗さを呼び寄せるのではなく、常ならざる影がある。それが人生の底辺を流れている、それが生きること、そういう意志がみえてきた。それを作品にする力を持つ人なのだ。

三作目にして少し解った、と、このくらい書きたくなるほど、良く出来た短編集だった。ホラー、ミステリ、サスペンス、形は違ってもこれから読む沼田本はどんな毒でも素直に染まってみよう、それほどインパクトのある、様々なスタイルを持つ作品集だった。

こういう特異な作家は読者を選ぶかもしれない。でもそれぞれの短い話は絶品で、多少猟奇的でハードさが、いつか気持ちよくなる、そんな気持ちを共有してみたいと思うことでもあれば、強くお勧めする。

《林檎曼荼羅》
これがいい。認知症で独り暮らしの老女が、探し物をするので棚のものを出していく。それにつれて様々な思いが去来する。ユリゴコロに通じるような日常にある違和感、それが認知症の頭で歪んで見える、過去と現実がだぶる、探し物に紛れて秘めた過去が出てくる、じわっと恐ろしい。

《レイピスト》
不倫女性がレイプに会う、その結果は、という並でない話。

《ヤモリ》
これも面白い、最後であっという、もしかしてと言う感じがじわじわと。

《沼毛虫》
これも日常が普通に進んでいく家庭なのだが。曽祖母の話を聞く曾孫刃考える。あらわになる出来事が、それまで日常に生まれて過ぎてきた、不思議さが巧い。これが沼田さんの持ち味かな。

《テンガロンハット》
女の独り暮らしの話。古い家を修理してくれる庭師が器用で、おそろしい。ちょっと悲しいかも。

《TAKO》
いやぁ、参った。映画館の暗い観客席に少し秘密がある。最後の一行で名作になる。

《普通じゃない》
そう、コロンボって変なおじさんで、”どう見ても性格異常者だ”と思い私なら、彼の上を行く完全犯罪が出来る。どじなどしない。そして綿密に計画を練る。じこうしたが、最後のシーンが眩しい(笑)

《クモキリソウ》
この目立たない花がマニアックでいいのです。毎年、門の脇においてくれる人がいる、ミステリかな、ちょっと違う、優しい出来事。

《エトワール》
吉澤と不倫関係にある、吉澤は年上の妻も愛しているらしい。葛藤と嫉妬がわく。異常な感情に傾いていく。あぁ巧いな、きっとやられます。しまった。



300ページちょっと、すぐに読める、面白くて読み始めると勢いがついて止まらない、そんな短編集だ。
池上冬樹さんの解説にまで激しく同意。
 
 
 


 
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