映画の原作者で有名だが、この短編集でも、残酷で、常に自分の思いに縛られ、次第に深い心の底の暗黒に向かっていく。最後にはその中に落ちて命まで落とす。昔みた映画の雰囲気も感じられる、そんな話が集めてある。
映画「太陽がいっぱい」はアラン・ドロンのキャラクターで、悲劇性が増した。だが後で公開された「リプリー」同じ原作でもこちらはトム・リプリーという主人公の心理が心に残った。ジャケットを借りて、富豪の息子に間違えられてから運命が狂いだす、マット・デイモンの細かな表情も所々覚えている。その時は未だパトリシア・ハイスミスは存命していて、この本を買って読もうとしたのを覚えている。
でもそのままになっていた。
かたつむり観察者
かたつむりの観察が趣味だったが、最初は数匹飼っていて観察していたかたつむりが増える、周りが止めさせようとしたが嬉々として楽しんでいる。仕事が忙しくて書斎を覗かなかった一週間の間に増えたかたつむりが。
恋盗人
恋人からの手紙を待ちかねたドンは色々な理由をつけて自分を慰めていた。隣りのボックスに入った手紙が三通残ったままになっていた。気になって盗み見たら、返事を待ち焦がれる文面だたった。彼はこっそり何度も返事を書いて、ついに会うことになった。
すっぽん
母がすっぽん料理を作るという。すっぽんに興味を引かれ、友達に見せる約束をした。だが母は来客用の料理にするといって包丁でばっさりと解体して煮立った鍋に放り込んだ。
モビールに艦隊が入港したとき
売春婦だったが昔はよかった、モビールで見初められて結婚したが夫は暴力的で、殺して逃げ出したはずが。
クレイヴァリング教授の新発見
生物学者の教授は、新発見をした生物に自分の名前をつけたかった。おおかたつむりがいるという島に一人で上陸した、探した末に見上げるようなかたつむりを見つけた。でも来たときの船が流されて。
愛の叫び
二人で部屋を借りて暮らしていた老女はお互いに嫌気がさしていた。相手の嫌がることをして部屋を別に借りたが、二人とも眠れなくなった。
アフトン夫人の優雅な生活
精神科医に定期的にやって来るアフトン夫人は、夫のことについて様々な相談をする。医師は直接本人と話したいと思って訪問するが。
ヒロイン
メイドの仕事がとても気に入った、家も子供たちも、優しい母親も。どうしたらもっともっと気に入られれるのだろう。給料も貰いすぎぐらいだ。恩返しをしないといけない。もし災害が起きて献身的の助けたということになればもっと認められるだろう。
もうひとつの橋
妻と子を事故で失い、会社経営も興味がなくなって、旅に出た。泊まったホテルのそばで少年と知り合った。裕福そうな人たちばかりの中でハンドバッグがなくなって。
野蛮人たち
4階から見下ろすと、大声で少年たちが野球をしていた。声は近所迷惑で住民は困っていた。彼は窓から石を落とした、誰か怪我したのか、死んだりはしてないか。不安だったが、しばらくしてまた大声が聞こえだした、そしてあちらこちらの窓に石が投げられ始めた。
からっぽの巣箱
平穏な日々を過ごしていたが、空っぽだった巣箱でチラリと黒い目と影を見た。夫に言って調べたが巣箱は空っぽだった。ところが黒いすばしっこい影が家の中を走るようになった。夫もそれを見た。
どの作品も、日常の何気ない中から現れた恐怖、悲しみ、やむない衝動が不幸につながっていく。平凡な日常が壊されるかも知れないという恐れや、愛情を求める余りに犯した罪や、生活の中から芽を吹いてくる恐ろしい兆しを書いた、暗い短編集だった。
始まりと結末だけでは語れない、しだい次第に緊張感が張り詰めていく、導かれていく細部がとても読み応えが有る
「かたつむり」は虫好きの息子が飼ったことがある。書いてあるように小さい丸い卵をどんどん産んでそれが孵化する、小さなかたつむりの群れに恐れをなして山に捨てた。
肌があわ立つような作品だった。
「ヒロイン」も面白い。両親に恵まれなかった少女が雇い主に気に入られようとして気持ちがエスカレートしていく、若い時の作品でデビュー作だそうだ。
忘れることを許されぬ11篇
その通りだった。
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