空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

海の仙人 絲山秋子 新潮文庫

2021-06-15 | 読書

絲山さんは初めてなので調べてみた。いろいろヒットしたが、自分の言葉で書かれている天才宣言を読んだ。
率直な人だ。好きだなぁと思った。

精神が不安定で仕事もやめ今は大学で教えながら病気と仲良くして書いているそうだが、作品数は多い。「全部か…」
名前は忘れたが、女流作家で喉から手が出るほど欲しい川端文学賞がもらえないと書いていた。
絲山さんは受賞していた。取り敢えず、私もそれから読もう。
が、店には川端康成文学賞の「袋小路の男」がなかった。Kindleで読めるので数ページの試し読みをした。
メモをしておいて、芸術選奨文部科学大臣新人賞の「海の仙人」にした。

この賞は(演劇、映画、音楽、舞踊、文学、美術、放送、大衆芸能、芸術振興(2004年から)、評論等、メディア芸術(2008年から。メディアアート、漫画、アニメなど)に贈られるそうだ。知らなかった。
ちょっと勉強もしたりして文庫170ページの薄い本を開いた。

前置きが長いが、とても読みやすく角張った表現もなく静かに沁みるようだった。
非現実といえば主人公の暮らしがありそうもないようでいて、風景の中に溶け込んでいく。風景描写がまた好きになった。
小道具も、ちょっと奇抜な赤いポルシェも自転車も舟も、北陸の海岸線もなにもかも、物語の流れに自然に表れて通り過ぎていくような、何か淡い色彩で、主人公たちの日々の儚い営みが哀しい音楽のように底を流れていくようだった。


デパートの店員をしていた河野は(宝くじかな)突然通帳の残高が3億円になった。都会には合わない男で、仕事をやめて敦賀の海べりに小さい家を建てて住むことにした。
泳いだり釣りをしたり、静かな生活だった。
そこに突然「ファンタジー」と名乗る40がらみで白いローブの男が現れた。足跡がない。それでも何かどこかで出会ったことがあるような感じがして一緒に住み始める。
とりたててむずかしいことを言ったりしたりするわけではないが、彼の話は何か河野の心に響くような不思議な影のような人だった。
彼は見える人には見える、何も変わったことはできないけれど、少し人間ばなれをした自然体だった。

ふと少し年上らしい都会的な女性と知り合いになる。サバサバとした中村かりんという人が好ましかった。

また会う約束ができた。ファンタジーまで「ぜひ来てくれたまえ」などといった。

デパート時代の上司で全く女性を感じさせない片桐が訪ねてくる。大声で「カッツォ・コーノ」などと品のないあだ名で呼ばれるがあまり悪い気はしない。
彼女もファンタジーの気配を感じたことがあり、出会っても驚かない。
夜になるとファンタジーは庭に簡易テントをパッと広げ中に入る。片桐が覗くと大きな卵がポッとだいだい色に光っていた。

片桐の赤いポルシェで新潟まで自動車道の下道を走る、時々下りて泳ぎ、食事をし手ごろなラブホテルに泊まる、ファンタジーなど大喜び。

河野は新潟にいる姉を訪ねる。河野はかたくなに抱いてきた苦しみの源が溶けるかもしれないと期待して来た、本人は心を決めたがやはり姉との汚れた関係は清算することができなかった。
姉も本能的に自分を守り続け、会うことを拒んだ。

片桐が東京に帰ろうとすると
「ところで、俺様はここから北海道に行くことになっておる」
車を降りながらファンタジーが言った。
「えっ、 ほんまに」
「シマフクロウが俺様のことを待っているらしい」
「そうなん」河野にとってそれは初めて聞く話だった。
「うまくやれよ」
ファンタジーは河野に言った。それから「お前さんもな」と片桐に言った。
「またな」河野が言った。
「あたしは忘れないよ」」片桐が言った。ファンタジーはにやりとした。


河野はかりんを愛しかりんも河野を愛して、転勤先から会いに来るようになる。河野は深い心の傷のためにかりんを抱くことができない。
東北へ転勤したかりんに会いに行きかりんも仕事の合間には必ずやってきた。

冷静な彼女が突然すがって泣き抱いてほしいそぶりをしたが、河野は抱きしめただけで先に進めなかった。
一緒には住めないと河野は告げた。それでもかりんは来た。
三年後かりんは部長になり名古屋支店に来た。少しやせてきたが、激務のせいだと思っていた。

かりんがなくなり、片桐は片思いに気づき、河野は又チェロを弾き始めた。

ファンタジーがふわりと表れてまた軽い口調で話した。河野は失明していたが気配が判った。

始まりから終わりまで時間がずいぶん経っている。それだけにちょっとないほどの悲しい出来事がこの薄い本には詰まっている。あらすじには書けないこぼれるほどの寂しさや、背後にある輝きなどが詰まっていた。

お勧め好きな友人を持ったことやおおいに共感できた自分が少しうれしかった。
 
 
 

 

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「よだかの星」 宮沢賢治 青空文庫

2021-06-14 | 読書

 

 

絲山秋子さんの「海の仙人」を読んでいたら。
こんな台詞があった。
「僕は宮沢賢治が好きやった。『セロ弾きのゴーシュ』とか」
「『よだかの星』の、おまえはこれから『市蔵』と名乗れと言われたところとか、哀しかったよね」
「『よだかの星』は泣いたな、あんな悲しい話をこどもに読ませてええんかいな」


蛇足だけれど、いま、男は「安部公房」,
女は「司馬遼」を読むという話をする。
このあたりは導入部で特に意味はないが。

私は「よだかの星」で泣いた記憶がなかったので、あれは泣く話だったのか、と青空文庫で読んでみた。

どちらかといえば「セロ弾きのゴーシュ」の方をよく覚えている。シミジミとしみいる話だった。

「よだかの星」は分かりやすい。国語の教科書に載せる意味もありそうだ。私は習った記憶はないが。

醜いよだかは,たかとつく名前のために、鷹が遠慮会釈なく非難し、ののしり、名前を変えてあいさつ回りをしろという。よだかは悲嘆にくれる。

よたかは善良な気持ちの優しい鳥で、自分が醜いと言われ続けると、兄弟のカワセミやハチドリに比べて、兄弟なのにと醜い自分を恥ずかしく思ってしまう。

醜くてナンダよ悪いかなどとは思わない、開き直るほど強くない。

考えると飛びながら口に入る虫を餌にすることだって、生きるために命を奪ってしまっているのだと罪の意識にさいなまれる。

もう思いもここまでくると、生きていることができない。

太陽に向かって飛び上がると太陽に言います「あなたのところへ連れて行ってください、死んでも構いません」「夜の鳥だから星に頼んでごらん」

星は言います「おまえのはねでここまで来るには、億年兆年億兆年だ」
星も答えてくれなかったのですが、それでも上へ上へ飛び続けると、羽は疲れ力尽きたのです。
そこで「自分のからだが燐の火のような青い美しい光になって、しずかに燃えているのを見ました。」

飛び続けカシオペア座のそばで星になったのです。

悲しい話です。あざけり誹謗され仲間外れになったのです。それでも優しい心を失わず天に上ったのです。

この物語が子供の心に響いたのは宮沢賢治が、美しい心が得られるものを信じる生き方を、糧にしていたからでしょう。

この話をさりげなくあざとくなく会話にいれ込む絲山秋子さんの筆は物語の始まりを優しく美しくしています。まだ読み始めたばかりなので展開は判りません。

それが違和感なく話が進み読めればまだ宮沢賢治が描いたよだかの星が心を温かくしてくれると思えます。でも現代に書かれた絲山さんの話はやすやすと現代の善意と孤独を書き表しているでしょうか。先が楽しみです。

そうした宮沢賢治の世界を読み返すことも今の時代にあってはありなのでしょうが。いいきっかけになりました。
 
 
 
 
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青いバラの仲間

2021-06-14 | 山野草

あまり青くなかったですがそれでも美しい。青いバラ。

 

ブルーバーグ

 

清流

 

藤娘1

藤娘2

藤娘3

 

あおい

 

 


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「迷宮」 中村文則 新潮文庫

2021-06-13 | 日日是好日

 

 題名のように迷宮入りの事件の真相を知った後でも、生き残った紗奈江と暮らし始めた僕は、二人でお互いの光と闇を守っていくことにした。

僕は子供の頃、頭の中にRがいた。Rとだけ話をしていた。小学生になってRは消えたようだけれど。
僕は弁護士事務所に勤めているが今は資格を取る気持ちもなくなっていて、勉強もしてない。

バーで知り合った女は同じ中学だったという。それだけのことで彼女・紗奈江のアパートに泊まり、朝になって部屋の壁に下がっていた他人のスーツを着て出勤する。紗奈江が以前付き合っていたらしい持ち主は行方不明でもう帰ってこないという。

探偵事務所に勤めるているという男が意味ありげに近づいてきて、行方不明の男を探しているという。このスーツを着ていた男だ。
不正な経理にかかわって行方をくらましたらしいが、紗奈江のアパートのベランダにある大きなプランターに死体がないか調べてほしいという。
紗奈江に黙っていられず、二人で土を出して調べたが何も入っていなかった。

だが探偵だという男は、昔は「日置事件」、今は「折り鶴事件と呼ばれている」事件の生き残りが紗奈江だという。警察でも調べ尽くし、逮捕した犯人は誤認逮捕で一旦釈放した、だが疑わしい点が出て再逮捕再拘留され、最後には釈放された稀なケースで、今では迷宮入りになっていた。これが警察捜査の汚点になっている。

僕は事件の詳細を調べてみた。確かに紗奈江は家族で唯一の生き残りだった。
 


部屋の鍵は全部中側から掛けられた密室状態で、小さなトイレの窓以外の入り口には、狂気を思わせるほどの防犯カメラが取り付けられていたが怪しいものは写ってなかった。玄関はチェーンで施錠されていた。
長女の紗奈江は当時話題になっている睡眠薬男から、薬を受け取って飲んだらしく事件のあった時は眠っていて助かった。
母親は全裸で死に、周りに色鮮やかな折り鶴が撒かれていた。
一家心中として捜査するが、確かに夫と妻は刃物で刺殺、長男は殴られ薬を飲んでいた。夫婦長男の殴打は左利きの拳によるものとされたが。犯人は見つからず、解決ができず猟奇事件として迷宮入りになる。

僕は事務所をやめたが、又就職活動をして生きていく、またRがいるような気がしてくる。

僕は今の職場をあのように放棄したとしても、明日から、また就職活動をするだろう。やりたくもない仕事をするために、これからも頭を下げ続けるだろう、人生を台無しにする勇気もなく、愛してもいない自分の人生に固執し続けるだろう。後生大事に、この小さい人生に固執し続けるだろう。
「……僕は犯罪者にすらなれない」
それなのに、内部にはRがい続けるという矛盾。開放もできないのに、恐らくこれからもずっとRが生涯い続けるという矛盾

意味をくみ取ることが難しいこの個所は、不安定な自分の生き方に苛立ちつつ、今生きている、生き続けている僕もいると言うことだろう。

沙奈江を殺そうとすると、意外におとなしい、僕が子供の頃愛されなかった、その空白を埋めるためなら殺されてもいいという。一人残った僕は死にたければ薬を飲めばいいともいう。
僕は殺せないで彼女の失望を見る。女にも人生にも溺れることができない、僕は自分にも純粋ではない。と思う。

それでも二人で暮らすようになり、彼女はついに事の真相を打ち明ける。

美しすぎる母、不釣り合いな父。母を縛り付けようとする執念。母は心を病み、兄は早熟な性の衝動を妹に向けた。


ここにきて(11作目で)中村文則さんは男女の性を生々しく書いている。それも家族という超えられない禁忌の枷に縛られた苦しみ。その心理描写はより深く謎めいて、闇の底をかき回すような文学的な表現がより深まってきている。

200ページそこそこの文庫だったが、単純なストーリながら登場人物の語りこそが迷宮につながっているように感じた。
 

 
 
 

 

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薔薇の名前(1)

2021-06-13 | 山野草

名前が付いた薔薇が少し。遅かったので花盛りが過ぎていました。


プリンセスマサコ 1

プリンセスマサコ 2

プリンセスサヤコ

プリンセスチチブ

プリンスofモナコ

アンネ・フランク

ヘップバーン

マリア・カラス

天津乙女

クリスチャン・ディオ-ル

 


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バラがいっぱいの写真を見ながら、今日は誕生日

2021-06-12 | 山野草

「どこかに行こう行こう」って休日なのに珍しいと思ったら、私の誕生日でした。

どこ行く?本屋さん?コロナ除けして行ってみよう。

そうなんです近所の本屋さんに活気がなくて、寂しかったのですが、少し遠くに大きな本屋さんがあって。

行ってきました。

単行本はあまり買わないのですが、文庫待つより買ってくれるなら好きな新作が読みたいなぁ

というので混ぜて10冊買ってもらいました。お誕生日はいいのですが、おめでとうって言ってもらって、なんかうれしくないような嬉しいような。

でも更新が遅くなったのは、写した薔薇が250枚ほどあって、整理しようと思いながら、見るだけでもと、名前を確かめて「きれいだなぁ」と下手な写真でもうっとりしていました。

名前は判りませんがフレグランスコーナーにあって、ホントいい香りでした。

 

季節の花を庭で育てている方のブログで毎日楽しみに読ませていただいているのですが、こんなばらが家で咲いたら、楽しいだろうな、名もない(知らないだけで)赤い薔薇が一本だけでも育っているのが嬉しいのに。

 

そのうち整理してカタログのように並べてみます。

 

ミステリ尽くしの新しく出来た本の山に取り掛かります。

さぁヨマネバ。

 


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曇りのち晴れ ばら日和

2021-06-11 | 山野草

少し曇ってきたし撮影日和のようで、出かける気満々でカメラのバッテリーを確認、珍しく準備する時間にフル充電して、よ~~し行くぞ。

近くの公園まで (;^_^A

花しょうぶとアジサイが満開とか。七分咲きだけれど今が見ごろとか。

近づいて、あれおかしい!と思う間もなく、車は入れません。と進入禁止の綱が張ってあった。横からでなく正面から行くのか、なるほど、検温とかいろいろコロナ対策があるもんね。

ではなかったくるくる回ってみたら駐車場のシャッターはどこも閉まっていた。そうかウォーキング利用者だけしか入れないのか、、歩いている人はチラホラいました。

でも諦めない、行くと決めたら行く・・・どこかに行こう。

前に何度も行ったのに道を忘れた、ナビ任せでもいいなら「ローズガーデン・枚方パーク」があるではないか。

カーナビって、「目的地周辺です」で案内が終わる。ここでも二回も回ってしまった。

「自宅に着きました、お疲れさまでした」っていうのに。自宅は私でも分かる(#^ω^)

ここも閉まっているのかと落ち込んだけれど、路肩に止めててくてく歩いて正面入り口(付近)まで来ると遠目に「検温をして下さい」と矢印があった。「はいっ、検温でも手洗いでもうがいでもしますします」というので、やっと出会えたバラを見てきました。

やっぱり少し遅くて早咲きは散ってしまってました。

長く見なかった間に、人気の薔薇の顔ぶれが代わっていました。クィーンエリザベスも見当たらなくて、王室も大変だし、なんて思いつつ。

かがんだり座り込んだり、やっぱりコンデジにすればよかったようで腕と腰が痛い。暑くても散歩のようなウォーキングは頑張ろう、、しみじみ・・・。

 

遊園地は動いてました。

「ラピスラズリ」が見たいと思っていたのですが、

想像の青ではなくて、、、個体差はあるようです。

ベルサイユのばら という薔薇(^▽^)/

「コハル」可愛い名は体を表す(*^^*) かな?

 


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うつぎ(空木)の仲間を集めてみたら。

2021-06-10 | 山野草

梅雨入りの声を聞きながら、コロナ禍の元急いで植物園の閉館前に見ておきたい花にあってきた。

まず「空木」。

まだホトトギスの声を聞かないが、卯の花は匂っているか?ひとっ走り確かめに。

長い歴史と共にうっそうと茂った樹木林の中に入ってみると、木漏れ日を受けて咲いていました。

ヤッタネ!!  常套句「空木色々」です。

 

コゴメウツギ

 

サラサウツギ

ショウキウツギ(鐘馗空木)

 

タニウツギ1

 

タニウツギ2

 

ハコネウツギ

 

ベニウツギ

 

マルバウツギ

我が家でも「サラサウツギ」と「バイカウツギ」が咲いていたのですが。もう見えません。よくみないうちに終わってました( ノД`)

 


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「あなたが愛した記憶」 誉田哲也 集英社文庫

2021-06-10 | 読書

 

良くも悪くも誉田哲也 #ナツイチ(集英社)
 
ああやっと気がついた、思い出した。読んで楽しかった面白い本ベストに入れている誉田哲也の「武士道シックスティーン」は彼の作風の一部だった。(続いて神去りなあなあがなど来るw)

若いし、まだこれから充実した代表作が出るだろうけれど、今のところ「ジウ」「ストローベリーナイト」に始まる姫川警部補のシリーズを書いている人という印象で。
過去にどちらも一話だけは読んでみたが、作品にはホラー作家だなと思えるグロテスクでショッキングなシーンが多くあった。
人気は元気な女主人公にあるのかもしれないし、警察小説としても読みどころがある。私などのようなミステリっこは誉田さんは定番。
ただ読者の好みはわかれるところだと思う。

この「あなたが愛した記憶」は題名のソフトな雰囲気とは全く違う内容で、読み始めから少し引き気味だった。

残酷な殺人事件が、同じ形で二件連続で起きる。ここからは警察の分野かと思ったが、そうではなく、まず背景の事件に絡まる人たちが動き出す。

大人びた高校生の民代が興信所に来て唐突に調査員の栄治に向かって父親だという。そして二人の人間を探してほしいという。

これが発端で、関係者のつながりがずるずると引き出される。栄治が知らなかった出来事が次第に明らかになる、つながりというと、ここでは魂(人格)の継承で、宿主になる肉親の体に、消滅前に入り込む。ホラー的な雰囲気に入っていく。
肉体は魂の物という考え方で、それぞれ性別年齢は違っても血の繋がりがあり、記憶が残っていく。

調べるにつれて残酷な事実が暴きだされていく。自分と血の繋がった命を絶やしてはいけない。という世界があり、
そういった犯人の目的のまわりで、そのことに気がついた関係者の、悲運や懊悩なども絡めてなかなか酷な運命が展開する。

この魂の継承(輪廻の一端というか)が 新しく目標になった肉体を持つ人間の意識と現実を結んでいく発想はさすがだと思うが。

ただ小説を読む楽しみの一環は主人公の魅力だったりストーリーの面白さだったりする。

ここではあまり魅力的な人物はいない。事件も稀なケース(魂がホラーかSF風味で継承されていくこと)が突然の血縁者になって繋がっていく人々の忘れていた過去が蘇るところもなにか予想通りで新味がない。

面白かったかと言えば、どこにでもあるホラー小説の一つのようで、親子や異性愛の話もそこそこで、気味悪い思いだけが残った。
 
 

 

 

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「石の来歴」 奥泉光 文春文庫

2021-06-08 | 読書

 

第110回芥川賞受賞作。これは外せない奥泉作品。
昭和19年師走半ば、日本兵は、フィリピンレイテ島でアメリカ軍に追い詰められジャングルに逃げ込んだ。そこに穿たれた洞窟で、瀕死の男は傍らの石を掴んで長い話をした。すでに生きながら死の中に埋もれ始めていた男は真名瀬に語り続けていた。
河原の石にも宇宙の全過程が刻印されている。何気なく手に取る一個の石は、およそ50億年前、のちの太陽系と呼ばれるようになった場所で、虚空に浮遊するガスが凝固してこの惑星が生まれた時から始まったドラマの一断面であり、物質の運動を刹那の形態に閉じ込めた、いわば宇宙の歴史の凝縮物なのだ。

夢なのか現なのか男の言葉はすでに正気をなくしていたはずの真名瀬の耳に不思議に残っていた。

捕虜収容所から復員し、父の本屋を再建し、秩父の市街地に出店した。店が軌道に乗り生活も安定してきた。結婚して二人の男の子もでき、あの男の言葉を思い出したのは随分時が過ぎたころだった。酸鼻を極めた洞窟の中で男が差し出した石は緑チャートだと言った。言葉は真名瀬に根付いていた。次第に岩石収集にのめり込んでいった。
化石発見もあり真名瀬の名前が少しは知られるようになった。

長男は石に興味を持ち真名瀬について崖から石を集めて標本を作り始めた。秩父の深い谷や崖には古代の石が埋まっていた。真名瀬は嬉しかった。
だが偶然見つけた洞窟に入って行方不明になった息子が無惨に殺されて発見された。

それ以後無関心な世界に引きこもった真名瀬に、狂った妻の怒声や暴力まで加わってきた、実家に帰して離婚し一時は何も手につかなかった。あの戦争の幻が夢うつつに蘇り、抜身の軍刀を磨く大尉の焚火に浮かび上がる赤い姿までが重なっていた。独り言を言うようになりそれも気にならず懐かしいような気さえした。

時がたちまた石に向かう気力がわいてきたころ。
次男はサッカーで将来を嘱望され名門校に入った。しかし試合中に骨折、審判を殴り出場停止処分を受けた。未来の夢は坂道を転がり落ち始め、彼の憎悪の深さにさじを投げた監督には背を向けた。
試合を見た真名瀬は次男はいないがごとく目をかけなかった罰に気がついた。

それでも息子は大学に入り、サッカー部を避けて同好会を作ったがチームを纏めきれず、余力を当時膨れ上がった学生運動に向け、闘争現場で彼は荒れ狂った。
ふらっと立ち寄った真名瀬の仕事場で 長男が死んだ日の話をした。洞窟で人の声がしたと言って兄は奥に入っていって殺されたんだ。
挨拶もなく去った息子は札幌で警官を襲い拳銃を盗ろうとして射殺された。

洞窟に入っていった真名瀬はそこで赤く燃える焚火を見た。死に瀕した上等兵が石について話し続けていた。大尉がうるさい、この刀でお前が殺れという。真名瀬は上等兵を担いで逃げた。
上等兵は朝靄の中で、手の中の石を真名瀬に見せ二人の子供がくれたのだと言って死んでいった。

戦争の恐怖と悲哀とが幻想のように男の心をつかんで離れず、石に憑りつかれ悲運に見舞われ、それにのみ込まれた運命が恐ろしくて苦しい話だった。
一方石についての薀蓄は面白く、幼い頃の石遊びを思いだした。
重厚な文体で言葉の氾濫をしっかりと組み込んだ奥泉流の作品の、ホラーとミステリと学術的な語りの混淆をワクワクしながら楽しんだ。一気読み。


二編目の「三つ目の鯰」も奥泉色があふれルーツがしのばれる名編だった。どちらが好きとも言えないが、感想は表題に譲った。
 

 

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エゴの木の実

2021-06-08 | 山野草

「エゴノキ」の花って綺麗ですが,今年も出遅れてもう若い実になっていました。

この花は見たことはあったのですが、転勤先の東北の山ではモチツツジがチラホラ咲いている上に、覆いかぶさるように真っ白な花をつけていました。ああなんて可愛らしい綺麗な花だろうとしばらく動けなかったほど感動しました。

休日には、犬を連れて家族でよく山に行きました。人気のない山を犬が走り回るのも微笑ましいし、子供たちも犬に負けずに走っていました。

カエルの卵を掬ってきて育てたりするので、あまりうれしくないこともありましたが、エゴノキの下でおにぎりと卵焼きとウインナだけのお弁当を食べるのも初夏の行事の一つでした。

私はあまり上を見ない野草好きなので、ここのエゴノキに気がつかなかったのです。下を向くと赤いカンゾウが咲いていました。

山も川も子供たちにはいい遊び場でした。自然の豊かなところで、最近ではあまり見なくなったオキナグサやイカリソウも何気なく群生してあちこちで咲いていました。

こちらに帰ると少し植生は違いますが、子供の頃田舎で見た花がみつかることもあります、最近は里山保全のボランティアさんたちが見回らなくてはいけないほど心無い人も増えて、野生の花たちは種類も数も減って次第に消えて行っています。

私は花の頃に合わせて、そわそわとカメラを準備しますが、花の美しく咲く時期が少し違ってきて、記憶に頼って出かけるとすれ違ってしまってます。

 

最近公園の遊歩道で白い花をつけたエゴノキを見つけました。花が真っ盛りでしたので、写真に残しました。

その後いつも春の声を聞くとさてそろそろかな、と行ってみると若い実になっている頃ばかり、今年こそと思ったのですが、出遅れました。

もう少しマメに細かいリサーチがいるのですが、何しろ行き当たりばったり。一年待てばまた咲くでしょう。

ナンテ(;^_^A

エゴノキさん君は偉い!忘れずに咲くのだよ。

モトイ、お願い三月の風が吹いたら咲いてくださいね(*- -)(*_ _)ペコリ

 

  今年はこんな実になってました

 

はなはさかりにつきはくまなきを 

ホントかわいいね。


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シナアブラギリの思い出

2021-06-06 | 山野草

昨年はコロナを避けてキルティングにうつつを抜かしていました。植物園の花の時期だと気づいた時は遅かった。

今年は植物園が閉まっていました。

毎年、花時には見上げてきた「シナアブラギリ」に会えなかったのです。

いつもそこにあるものだと信じて安心していたら、こういうことも起きるのです。

シナアブラギリ(支那油桐)というあまり可愛くない(油がとれるとかで実用本位の)名前ですが、花は無邪気で可愛い形をしています。

ただ、見上げるほどの大木で、花が終わると丸い栗くらいの実がなって、秋には足の踏み場もないくらい落ちています。

 

 

 

↓これと同じ「トウダイグサ科」ということでびっくり(@_@)

進化の過程のどこでこうなったのでしょう。

 

 


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近所の公園を散歩しました。ルドベキアいろいろ、アガパンサスも

2021-06-04 | 山野草

いつも車で横を通る公園が、もうずいぶん長く拡張工事中です。

公園案内のマップを見たら、クイーンズガーデンというワクワクするような名前がありました。

ここも歩いてみなければ!! 

昔は桜や紅葉が多い「木の公園」のようでした、小川を挟んだ用地も長い間散歩道だけでした、でもここで懐かしいアカバナユウゲショウや、宇宙ステーションのようなヘラオオバコなどが群生していました。

徐々に花壇になっていろいろ珍しい花が育ってきました。

歩くには少し遠いし、バスも面倒で、おまけに駐車料金はたかい。

足を鍛えて「あそこまでくらいは歩こうよ、がんばって」というのは空耳かな。

 

♬砂利路を駆け足で
マラソン人が行き過ぎる
まるで忘却のぞむように
止まる私を 誘っている♬ 

真弓さんの歌は散歩用ではないかも (^▽^)/  (‥;) 

五輪真弓「恋人よ」/Mayumi Itsuwa「MY ONLY LOVE」

 

 

 


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「神さまのビオトープ」 凪良ゆう 講談社タイガ

2021-06-04 | 読書

 

これも人気らしく、次の人が待っています(延滞延長はできません)というので慌てて読みかけの本を後回しにした。

 

短編集だが、どれも亡くなった画家の鹿野くんと美術教師のうる波さん夫婦の日常に関わった人たちの話で。

鹿野くんは結婚二年目に亡くなっている。家を出てすぐ交通事故にあったのだが、うる波さんにだけ見える姿で戻ってきた。

作者がよく考えた珍しい設定が大成功で、死んでしまえば人は消滅して残されたものは深い別離の悲しみに迷い込むように想像するが、こんなことが起きると、こんな世界の奇妙さを超えたところで癒されてしまう。
状況を超える難しい問題まで、サラッと解決している。

要は「霊」になって戻ってきた夫をどう受け入れて暮らすか、あまりこ難しいことにしないで、心から歓迎して、自分にだけ見える実態のない鹿野くんと平凡に暮らしていく。読んでいてもまぁいいかと大いに共感する。生死を超えたところにある人の心の温かさが、こなれて読みやすいストーリーになっていて人気のほどがしのばれた。

伯母さんがうるさいくらい再婚話を持ってくる。ありがたいけれど困る。
自分にだけ見える鹿野くんとはつい外でも話してしまう。現実にはいないことになっているとはいえ、「霊」の鹿野くんはお腹を空かせるし、それとなく嫉妬もする。日常の風景も納得の展開で面白かった。
 それでもいろいろな出来事は起きる。

 

☆「秘密」という章では恋愛中の二人に関ってしまう。結婚を前にして男は気になる女性に少し揺らぐ、そして突然死をするのだが、ちょっとミステリアスな味付けで女心を描く。

☆ロボット工学の研究者の父から年頃に合わせたロボットの試作品をもらう。膨大なデータが蓄積されているために生活も会話も全く支障はなかったが「秋」との付き合いで「春」は飛躍的に進化していく。ロボットの「春」と息子の「秋」の友情がますます深まっていく。「秋」の将来が心配になった両親は家庭教師をうる波さんに頼む。
これはロボットの心がより人間的に進化しようとする話だ、「アイロボット」の「サニー」のように。優秀な「春」が「ロボット工学三原則」をはみ出そうとしていることになる。危険を感じた父親は「春」を破壊する。「秋」は「春」を蘇らすために母親とアメリカに留学する。この章はよくできた今のSf風で、面白かった。


☆うる波さんは学校で、初恋がすれ違っていて傷つけあっている若い二人に巻き込まれる。うる波さんは少し痛々しく懐かしい。鹿野くんと微笑ましく見守りながらも、二人の未来を冷静に大人の眼で見ているところなど、なかなか深いものがある。
☆お隣の中のご夫婦はもう還暦も過ぎたらしいが自然体で寄り添っている姿はいつも暖かく、うる波さんたちの秘密にも薄々気がついているのかもしれないが何も言わない。
偶然二人のわけありの過去を知ったけれど。

伯母さんの心配の種は、両親のないうる波さんのこと。でも彼女は一人で(実は鹿野くんと)生きていくことをきっぱり宣言する。
お隣のご夫婦のように「共に生きていく」ことを阻む法律は何もない。
心は自由で、それを阻むものはない。
あってはならない。
なにひとつ。とうる波さんは思っていて、
作者も最後にこういう風にストーリーを閉める。

一人は寂しい。それでも生き方は一人ひとり違う。

死んだ時はどうなの?どうなるのと鹿野くんにきいてみる。
「経験者でしょう」
「死んでいたからわからなかった」
そうなんだ。浮世の出来事などそれでいいのだ。ここでより納得。いろいろとおもしろい。

 

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薔薇園の薔薇 薔薇好きの薔薇

2021-06-03 | 山野草

今年出会ったバラを集めました。まだまだこれから、、、です。

 

 

 

 


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