2001年4月28日(土)
ボビー・チャールズ「ボビー・チャールズ」(ビクターエンタテインメント)
きょうの一枚、これもまた隠れた名盤である。とくに、tRICK bAGファンの皆さんにはぜひ聴いてほしい。
ボビー・チャールズについては、ベター・デイズのセカンド・アルバムの項で少しふれたが、改めて紹介しておくと、1938年ルイジアナ州生まれの現在63才。
高校生歌手のハシりみたいなひとで、17才のときにチェス・レコードのオーディションを受け、合格。
チェス社長のレナード・チェスは、チャールズの歌声を聴いて黒人だとばかり思い込んでいたのだが、契約のため来社した彼が白人だと知り、ビックリしたというエピソードが残っている。
というわけで、彼はチェスにおける、白人アーティスト第一号なんである。
さて、このボビー・チャールズ、デビューはしたものの、いまひとつ歌声に華がないこともあってか、しばらくは鳴かず飛ばず、5、6のレーベルを転々とすることになる。
ただ、非常にいい曲を書いていたことが幸いして、ファッツ・ドミノ、ビル・ヘイリーらが彼の曲を歌うようになり、ソング・ライターとして認められるようになる。
71年に、ウッドストックに本拠をおくベアズヴィル・レコードと契約、ウッドストック派(Woodstocker)の仲間入りをする。
ザ・バンドやポール・バターフィールドらとも知り合い、そのレコーディングに参加する一方で、72年にレコーディングしたのがこのソロ・アルバム、というわけだ。
当然、ウッドストック派のミュージシャンたちが全面的に協力、パーソネルに名を連ねている。
ロビー・ロバートスンを除くザ・バンドのメンバー4人をはじめ、ベター・デイズ組のエイモス・ギャレットとジェフ・マルダー、ドクター・ジョン、元バターフィールド・ブルース・バンドのデヴィッド・サンボーンら、実力派が勢揃い。
プロデュースはボビー・チャールズ、リック・ダンコ、そしてジョン・サイモン。収録曲は、すべてチャールズ自身のオリジナル・ナンバーである。
この中では、なんといってもリック・ダンコとの共作「スモール・タウン・トーク」がいい。もちろん、ベター・デイズ、tRICK bAGもカバーしている、あの佳曲である。チャールズ版「スモール~」の歌声は、素朴でほのぼのとした味わいだ。
ちなみに「スモール・タウン」とはウッドストックのことを意味しているんだそうな。
他のナンバーも、ザ・バンドに通じる、土臭くどこか鄙びた、でもリラックスしたムードでいい感じ。
R&B、カントリー、ニュー・オーリーンズ・サウンドなどが巧みにブレンドされ、耳にひたすら心地よい。
たとえば、ファッツ・ドミノと共作した「グロウ・トゥー・オールド」。あるいは「セイブ・ミー・ジーザス」、「テネシー・ブルース」。いずれも何気ない曲のようでいて、耳に残るいいメロディだ。多くのミュージシャンたちにカバーされたのも不思議ではない。
手練れのミュージシャンたちの伴奏に乗って繰り広げられる、イナタい、でもオツなボビー・チャールズ・ワールド。
この一枚をかけつつ、バーボンをオン・ザ・ロックスで飲る。これ以上の快楽はないと思うよ。