2001年5月13日(日)
ポール・バターフィールズ・ベター・デイズ「ベター・デイズ+1」(ビクターエンタテインメント)
ベター・デイズ、このコーナー三回目の登場である。といっても、リリース順序は逆で、これがデビュー・アルバムである。1973年1月発表。
メンバーの紹介は以前の項を見ていただこう。ポール・バターフィールドが中心になって結成された、実力派ミュージシャン揃いのスーパー・バンドである。
ポールというひと、一般にはハーピストとして通っているが、ボーカルもなかなかのもの。それがよく判るのがこのアルバムだ。
全10曲(1曲はボーナス・トラックの「ルイーズ」)中、実に半数の曲でリード・ボーカルをとっていて、これが味わい深い。
もちろん、ロニー・バロン、ジェフ・マルダーも、それぞれ個性豊かな歌を聴かせてくれる。
色でたとえていうなら、ポールはブルー、ロニーはレッド、ジェフはブラウン、そんな感じかな。
で、歌・演奏もよければ、選曲がこれまた素晴らしい!
まずは「ニュー・ウォーキン・ブルース」でスタート。バターフィールド・BB時代にも録音しているから「ニュー」だそーな。もちろん、ロバジョンの作品だ。
続いて、レイ・チャールズと共に曲を作っていたことでも知られる(「旅立てジャック」など)パーシー・メイフィールドの「プリーズ・センド・ミー・サムワン・トゥ・ラヴ」。
フレディ・キングのカバーも傑作だったが、これも名演。ジェフの哀愁に満ちた歌声、そしてエイモス・ギャレットのセンチメンタルなテレキャスターの調べ。文句なしの出来ばえである。
ビッグ・ジョー・ウィリアムスの「ベイビー・プリーズ・ドント・ゴー」なんていうのもある。これは多くのアーティストがカバーしており、マディ・ウォーターズ、マイク・ブルームフィールドらの「ファザーズ&サンズ」でも聴くことが出来る。
ベターデイズ版の「ベイビー~」は、よりモダンでファンク色の強いアレンジだ。
他には、ニーナ・シモン版をカバーしたブルース「ノーバディズ・フォールト・バット・マイン」も。分厚いコーラスが印象的なナンバー。グループの音楽的な深さがうかがえる。
ポールと親交の厚い人たちの曲もある。ジャニスのアルバムで知られる「生きながらブルースに葬られ」は、ニック・グレイヴナイツの作品。
「ハイウェイ28」は、バターフィールド・ブルース・バンドのベーシスト、ロッド・ヒックスの作品。
「ダン・ア・ロット・オブ・シングス」は、グループの重要なレパートリー「スモール・タウン・トーク」同様、以前紹介したシンガー、ボビー・チャールズ作品。カントリー・フレーバーあふれるバラード・ナンバーだ。
ボビーはレコーディングにも、コーラスでゲスト参加している。
唯一のオリジナル、「ブローク・マイ・ベイビーズ・ハート」はロニー・バロンの作品。ニュー・オーリンズ直系、ロニーの粘っこい技巧的なボーカルは聴きごたえ十分だ。
ブルース、R&B、ファンク、カントリー、フォーク、ロック、ポップス。すべてのアメリカン・ミュージックがひとつに溶け込んでいるベター・デイズ・ワールド。
聴き流すにはあまりにもったいない。熟成したブレンデッド・ウイスキーをたしなむように、じっくりと味わっていただきたい。