2001年6月9日(土)
VA「A SUN BLUES COLLECTION/BLUE FLAMES」(RHINO)
ここんとこ、ホワイトづいてしまったが、ひさびさにブラックな一枚である。
メンフィスのサン・レコードといえば、プレスリーやカール・パーキンスといった白人のロカビリーで一世を風靡したレーベルだが、黒人のブルースでもけっこう質の高いレコードを送り出している。
そんなサンのブルース・レコーディングから選りすぐりの18曲がおさめられたのが、このアルバム。
まずは、ジャッキー・ブレンストン&デルタ・キャッツの「ロケット88」でスタート。
実はこの曲、一番最初のロック・ロール・レコードといわれている。
ビル・ヘイリーの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」リリースの5年前、51年に発売されたこの曲、アイク・ターナー(もち、アイク&ティナのアイクである)の軽快なブギウギ・ピアノをバックに、ブレンストンのノリのいい歌とサックスが楽しめる。
ジャズとは一線を画した、ロックン・ロールという新しい音楽ジャンル誕生の瞬間である。
続いては、ご存知ハウリン・ウルフ。
でも、シカゴ進出前、52年の録音である。ギターはヒューバート・サムリンではなく、ウィリー・ジョンスンを擁していた頃の「マイ・ベイビー・ウォークト・オフ」を収録。
スタックスのソウル・シンガーとして知られているルーファス・ハウンドドッグ・トーマスは、「ハウンド・ドッグ」へのアンサー・ソング「ベア・キャット」(53年)。
もちろん、プレスリーじゃなくてビッグ・ママ・ソーントンのオリジナル盤(同年)へのアンサーだ。
ルーファスは猫の鳴きまねまでして、おどけてみせている。サービス満点のレコードだ。
こちらもスタックスの代表的アーティスト、元祖フライングV男、リトル・ミルトンはオリジナルの「ルッキン・フォー・マイ・ベイビー」。
ただし、54年の録音だから、中で聴かれるナチュラル・ファズ・ギターはフライングVではないが。
ジェイムズ・コットンは54年の「コットン・クロップ・ブルース」。
ビリー・ザ・キッド・エマースンは「レッド・ホット」(55年)。
ハーピスト、コーイ・ラヴを中心とするホット・ショット・ラヴは54年録音の「ハモニカ・ジャム」。
リトル・ジュニアズ・ブルー・フレイムズ(いうまでもなく、このアルバム・タイトルもそこからとっている)、つまりジュニア・パーカーのデビュー曲、「ミステリー・トレイン」(53年)、これはジュニアの歌、フロイド・マレイのギター・ソロ、ともに切なく、かつイカしている。
エルヴィス・プレスリーをはじめ、多くのアーティストにカヴァーされたのも、ナットクである。
ワン・マン・バンドの第一人者、ドクター・ロスは53年録音の「テラ・メイ」。「グッド・モーニング・リトル・スクール・ガール」タイプの曲。
とくにそのハープ・ソロがカッコいいのが、ジミー&ウォルター、すなわち、ジミー・ディバリーとビッグ・ウォルター・ホートンのコンビの「イージー」。スロー・ビートにのせた、縮緬のようなヴィブラートがじつに強烈。ハーピストなら、一度はコピーしてみたくなるようなイカした曲である。
御大B・B・キングも、実はサンで51年にレコーディングを残している。「B・B・ブルース」がそれだ。
まだ、黒人街でのみ知られたヤング・ヒーローだったころの、BB25才の歌声。声もそして容姿(ライナー裏表紙写真)も、実に若い!
ブルース、というよりはR&Bシンガーといったほうがピンとくるのはロスコ・ゴードン。彼もオリジナルの「アイ・ファウンド・ア・ニュー・ラヴ」を59年に録音。これは未発表なので、必聴だ。
この他にも、スリーピー・ジョン・エスティスの「ランニン・アラウンド」をはじめとして、フランク・フロスト、パット・ヘアら、ちょっと通好みのアーティストの未発表曲が収められている。
ワン・アーティストもののCDではめったにお目にかかれないような、ジョー・ヒル・ルイスのヘビーでエグいギター・ソロ(「ホエン・アイム・ゴーン」)が聴けたりして、実に興味深い。
スター・シンガーだけでなく、シブい脇役にもスポットを当てた好企画。
さながら、さまざまなスタイル、さまざまな個性のアーティストが一堂に会して繰り広げる「ブルース・ジャンボリー」といった趣きの一枚である。
史料的価値はいうまでもないが、演奏にも意外な掘り出しモノ多し。90年リリース、現在では稀少盤となっているが、探す価値はあると思うよ。