NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#39 V.A.「A TRIBUTE TO HOWLIN' WOLF」(TELARC)

2021-12-20 05:00:00 | Weblog

2001年5月6日(日)



V.A.「A TRIBUTE TO HOWLIN' WOLF」(TELARC)

ハウリン・ウルフ(1910-76)を偲んで、97年7月、ウルフのバック・バンドの元メンバー達を中心に録音されたアルバム。

ヒューバート・サムリン(g)、ヘンリー・グレイ(p)、カルヴィン・ジョーンズ(b)、サム・レイ(ds)、エディ・ショウ(sax)といった、ウルフのレコードではおなじみのメンツに加えて、ゲストの顔ぶれがなかなか豪華である。

ウルフに強い影響を受けたタジ・マハールをはじめとして、親交のあったジェイムズ・コットン(hca)、ロニー・ホーキンスといったベテラン勢に加えて、今売り出し中のラッキー・ピータースンのほか、アルバート・コリンズ門下の女性ギタリスト、デビー・デイヴィーズ、オルタナ・カントリーの女性アーティスト、ルシンダ・ウィリアムスといった新世代の人々も参加して、華をそえている。

オープニングの「サドル・マイ・ポニー」では、ウルフそっくりのタジ・マハールの歌いぶりにビックリ。

ストーンズもカバーした「レッド・ルースター」は、若手ブルース・マン、ケニー・ニールがスライド・ギターもまじえて熱演。これにコットンの味わい深いハープが絡む。

かつてザ・バンドをバックに率いていたこともあるロニー・ホーキンスは、多くのロック・バンドにも演奏された「バック・ドア・マン」で年季の入ったノドを聴かせてくれる。

一方、ウルフ・バンドの面々も演奏だけでなく、それぞれリード・ボーカルをとっており、意外にシブくて上手い歌を聴かせてくれる。

エディ・ショウは「ハウリン・フォー・マイ・ダーリン」「ビルト・フォー・コムフォート」、サム・レイは「ベイビー・ハウ・ロング」、ヘンリー・グレイは「スモークスタック・ライトニン」といったぐあいに。

そして、極めつけはやっぱり、ヒューバート・サムリンの「キリング・フロアー」だろう。

おなじみのトリッキーなギター・プレイと共に、肩から力の抜けた感じの、軽妙な味のボーカルを聴かせてくれる。

彼の、いつになくリラックスして、伸び伸びとギターを弾いている様子が想像でき、こちらまで嬉しくなる。

最近、ライブでは満足なパフォーマンスを見せることが少ないというサムリンだが、このアルバムでは古なじみの仲間と一緒ということもあってか、ノッて演奏しており、七十間近ながらまだまだ健在という感じのプレイが聴ける。

ウルフと共に二十年以上の歳月を過ごしたサムリンならではの、抑え目ながらツボを押さえた演奏、ウルフ・ナンバーに実に ぴったりとハマっている。

もちろん、他のバンドの面々の演奏も。

ところで、彼らが敬愛するハウリン・ウルフというブルースマンは、ブルース界の全体の流れ(都会化、洗練の方向)にはお構いなしに、死ぬまであくまでも自分の流儀をつらぬいた「反骨の人」であった。

音楽の核にある「情動(Emotion)」というものを、えぐり出して我々につきつける、そういう人。

予定調和的な美しさではなく、「本能」の圧倒的な「力強さ」こそが彼の音楽の本質なのであった。メロディにせよ、歌詞にせよ、である。

このアルバムも、実際、音楽的完成度はさほど高いとはいえない。

演奏も、平均年齢60代の人々によるものだけに、アラも探せば色々と出てくる。

しかし、ウルフの歌の持つ、ふてぶてしいまでに強靭な反骨精神を、バンドもゲストもしっかりと表現していることは、間違いない。

全編中、最も異色の起用といえる、ルシンダ・ウィリアムスさえも、彼女流のアンニュイなトーンで的確に「ウルフ的なもの」を表現してみせている。

ヤワな「シカゴ観光土産品」的なブルースは、ここにはない。あるのは、ゴツゴツとした感触の「本能のブルース」だけ。

この「A TRIBUTE TO HOWLIN' WOLF」は、ウルフの精神を見事に引継ぎ、再現してみせたという点において、多くのトリビュート・アルバムとは一線を画したものになっていると思う。

ウルフ・ファンはもちろんだが、若いロック・ファンにもぜひ聴いてみて欲しい一枚である。