NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#40 ヤードバーズ「リトル・ゲームス」(東芝EMI)

2021-12-21 05:22:00 | Weblog

2001年5月12日(土)



ヤードバーズ「リトル・ゲームス」(東芝EMI)

先週、ジェフ・ベック・グループが出てきたところで今週は、彼らとつながりの深い、第五期ヤードバーズのラスト・オリジナル・アルバムだ。

1967年8月発表。でも米国のみの発売で、英国・日本ではずっと未発売のままであった。

ゆえに、いわゆるコレクターズ・アイテム、幻の名盤として高値がついていたのだが、日本でも91年4月にようやくCDでお目見えとなった。

オリジナルLPのトラックは10曲だが、これにシングル曲、未発表曲を含めて18曲の構成。

ここでざっと、このアルバムが出来るまでの経緯を記しておこう。

66年暮れ、ジェフ・ベックが病気を理由にアメリカ・ツアーをリタイア、なしくずし的に脱退してしまった後のヤードバーズは、一番後から加入したジミー・ペイジがバンドの主導権をとっていくことになる。

4人となった新生ヤードバーズは、プロデューサーもミッキー・モストに変わり、よりポップでコマーシャル色の強い売り方をされるようになる。

たとえば、タイトル・チューンの「リトル・ゲームス」(67年3月発表)。これは日本でも「リトル・ゲーム」の邦題で同年7月にシングル・リリースされているのだが、ブルース・バンドのイメージの強い彼らにしては、ペイジのフィードバック・ソロのバックにチェロを加えたりして(アレンジはのちのZEPのジョン・ポール・ジョーンズ)、当時流行のポップス風に仕上がっている。

ジョーンジーは当時既にアレンジャーとして、ピア二ストとして、「五番目のヤードバード」だったのだ。

この曲を軸にして、スタジオ・レコーディングされたのが同題のアルバム「リトル・ゲームス」というわけである。

さて、その中身はといえば、名門バンドの彼らにしては、ちょっと肩すかしな感じは否めない。

ことに、ペイジが事実上プロデューサーということで「プレ・ツェッペリン」的な音を期待して聴くと、完全にハズレである。

バンド・サウンド的には前作「ロジャー・ジ・エンジニア」(「ロックアルバムで聴くブルース」参照)をさらに推し進めたサイケデリック路線なのだが、どうもガツンと来るような手ごたえがない。

やはりこれは、ボーカルのせいだろうな。

グループの本来のリーダー格にあたる、キース・レルフのボーカルは、ヘタウマ系といえば聞こえはいいが、芯の感じられないフニャフニャな歌で、どー聴いてもハード・ロックには向いてないんである。

あとは、リズム・セクションがいまいちタイトでないことも災いしているんだろう。

しかし、もちろん、悪いところばかりでもない。

音楽的な試みとしては、なかなか面白い曲がいくつかある。

たとえば、「ホワイト・サマー」。

ZEPの初期には、ファースト所収の「ブラック・マウンテン・サイド」とメドレーで演奏されることの多かったインスト・ナンバーだが、変則チューニング・ギターを使ったインド風の変わった和声感覚、これはペイジならではのものである。

「スマイル・オン・ミー」のようなブルース進行の曲でも、よりハード・ロック的なアレンジになっており、「ティンカー・テイラー・ソルジャー・セイラー」では、ZEPでおなじみのバイオリン・ボウによるプレイが既に見られるのも興味深い。

実際、この頃から「幻惑されて」(ジェイク・ホルムズ作)もレパートリーに取り入れられていたらしい。

また、「パズルズ」(アルバム外、シングル「リトル・ゲームス」のB面)での派手なファズ・プレイも聴きものだ。

後の、ZEP的トリック・プレイの数々は、67年において既にその萌芽を見せていたのである。

あと、シングル「テン・リトル・インディアンズ」(ニルソン作)のB面であった「シンク・アバウト・イット」、政治・社会問題がらみの歌詞もなかなか異色だが、レルフのボーカルを抜きにすればそのサウンドはもう、ほぼレッド・ツェッペリンといってよい。

アルバム「BBCセッションズ」でも演奏しているが、そのテンションの高いビートといい、ペイジのエキセントリックな早弾きといい、後のZEPをほうふつとさせるものがある。

もちろん、ペイジ以外のメンバーにはそのハード・ロック指向は歓迎されず、グループは必然的に崩壊の道をたどることになるわけだ。

彼らのルーツミュージック、ブルースもこのアルバムでは単なるトリビュートの対象ではなく、ある意味でパロディ的に料理されている。

それが、マディ・ウォーターズの「ローリン・アンド・タンブリン」を歌詞のみ代えてパクった、その名も「ドリンキング・マディ・ウォーター」だ。

黒人のブルースのコピーから始まったこの英国のバンドは、翌年ひとりを残してメンバーを総入れ替え、ついに「ハード・ロック」という新しい音楽世界へむけて脱皮・変身することになる。

生まれ変わりを間近に控えたヤードバーズの、混沌とした状況がそのままぶちまけられたような、アルバム。

ロック史のモニュメント的作品として、一度はチェックしてみて欲しい。


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