2001年5月12日(土)
ヤードバーズ「リトル・ゲームス」(東芝EMI)
先週、ジェフ・ベック・グループが出てきたところで今週は、彼らとつながりの深い、第五期ヤードバーズのラスト・オリジナル・アルバムだ。
1967年8月発表。でも米国のみの発売で、英国・日本ではずっと未発売のままであった。
ゆえに、いわゆるコレクターズ・アイテム、幻の名盤として高値がついていたのだが、日本でも91年4月にようやくCDでお目見えとなった。
オリジナルLPのトラックは10曲だが、これにシングル曲、未発表曲を含めて18曲の構成。
ここでざっと、このアルバムが出来るまでの経緯を記しておこう。
66年暮れ、ジェフ・ベックが病気を理由にアメリカ・ツアーをリタイア、なしくずし的に脱退してしまった後のヤードバーズは、一番後から加入したジミー・ペイジがバンドの主導権をとっていくことになる。
4人となった新生ヤードバーズは、プロデューサーもミッキー・モストに変わり、よりポップでコマーシャル色の強い売り方をされるようになる。
たとえば、タイトル・チューンの「リトル・ゲームス」(67年3月発表)。これは日本でも「リトル・ゲーム」の邦題で同年7月にシングル・リリースされているのだが、ブルース・バンドのイメージの強い彼らにしては、ペイジのフィードバック・ソロのバックにチェロを加えたりして(アレンジはのちのZEPのジョン・ポール・ジョーンズ)、当時流行のポップス風に仕上がっている。
ジョーンジーは当時既にアレンジャーとして、ピア二ストとして、「五番目のヤードバード」だったのだ。
この曲を軸にして、スタジオ・レコーディングされたのが同題のアルバム「リトル・ゲームス」というわけである。
さて、その中身はといえば、名門バンドの彼らにしては、ちょっと肩すかしな感じは否めない。
ことに、ペイジが事実上プロデューサーということで「プレ・ツェッペリン」的な音を期待して聴くと、完全にハズレである。
バンド・サウンド的には前作「ロジャー・ジ・エンジニア」(「ロックアルバムで聴くブルース」参照)をさらに推し進めたサイケデリック路線なのだが、どうもガツンと来るような手ごたえがない。
やはりこれは、ボーカルのせいだろうな。
グループの本来のリーダー格にあたる、キース・レルフのボーカルは、ヘタウマ系といえば聞こえはいいが、芯の感じられないフニャフニャな歌で、どー聴いてもハード・ロックには向いてないんである。
あとは、リズム・セクションがいまいちタイトでないことも災いしているんだろう。
しかし、もちろん、悪いところばかりでもない。
音楽的な試みとしては、なかなか面白い曲がいくつかある。
たとえば、「ホワイト・サマー」。
ZEPの初期には、ファースト所収の「ブラック・マウンテン・サイド」とメドレーで演奏されることの多かったインスト・ナンバーだが、変則チューニング・ギターを使ったインド風の変わった和声感覚、これはペイジならではのものである。
「スマイル・オン・ミー」のようなブルース進行の曲でも、よりハード・ロック的なアレンジになっており、「ティンカー・テイラー・ソルジャー・セイラー」では、ZEPでおなじみのバイオリン・ボウによるプレイが既に見られるのも興味深い。
実際、この頃から「幻惑されて」(ジェイク・ホルムズ作)もレパートリーに取り入れられていたらしい。
また、「パズルズ」(アルバム外、シングル「リトル・ゲームス」のB面)での派手なファズ・プレイも聴きものだ。
後の、ZEP的トリック・プレイの数々は、67年において既にその萌芽を見せていたのである。
あと、シングル「テン・リトル・インディアンズ」(ニルソン作)のB面であった「シンク・アバウト・イット」、政治・社会問題がらみの歌詞もなかなか異色だが、レルフのボーカルを抜きにすればそのサウンドはもう、ほぼレッド・ツェッペリンといってよい。
アルバム「BBCセッションズ」でも演奏しているが、そのテンションの高いビートといい、ペイジのエキセントリックな早弾きといい、後のZEPをほうふつとさせるものがある。
もちろん、ペイジ以外のメンバーにはそのハード・ロック指向は歓迎されず、グループは必然的に崩壊の道をたどることになるわけだ。
彼らのルーツミュージック、ブルースもこのアルバムでは単なるトリビュートの対象ではなく、ある意味でパロディ的に料理されている。
それが、マディ・ウォーターズの「ローリン・アンド・タンブリン」を歌詞のみ代えてパクった、その名も「ドリンキング・マディ・ウォーター」だ。
黒人のブルースのコピーから始まったこの英国のバンドは、翌年ひとりを残してメンバーを総入れ替え、ついに「ハード・ロック」という新しい音楽世界へむけて脱皮・変身することになる。
生まれ変わりを間近に控えたヤードバーズの、混沌とした状況がそのままぶちまけられたような、アルバム。
ロック史のモニュメント的作品として、一度はチェックしてみて欲しい。