NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#38 ジェフ・べック「トゥルース」(東芝EMI)

2021-12-19 05:00:00 | Weblog

2001年5月5日(土)



ジェフ・べック「トゥルース」(東芝EMI)

第一期ジェフ・べック・グループのデビュー・アルバム。1968年作品。

このアルバム発表の数か月後に、レッド・ツェッペリンのファーストLPもリリースされているのだが、この二枚、実はかなり密接な関係があるといってよい。

ジェフ・べックと、ZEPのジミー・ペイジが昔から親友であったのは有名なハナシ。

64年、エリック・クラプトンがヤードバーズを脱退したとき、リード・ギタリストの後釜として、ペイジが有力候補に上がっていたのだが、当時スタジオ・ミュージシャンとして超多忙であったペイジはその依頼を固辞し、かわりに親友のべックを推薦し、次のリード・ギタリストが決まったという。

このエピソードからわかるように、ふたりは(意外にも?)仲が良かった。

感覚先行で天才肌のべックと、現実的で策略家のペイジ。あまりに対照的なふたりだが、だからこそウマが合ったのかもしれない。

その後、ヤードバーズは66年ポール・サミュエル・スミスの脱退により、今度はペイジも招ばれ、ふたりの共演が実現するものの、べックがすぐに脱退して、67年にはソロ・デビュー、翌年にはジェフ・べック・グループを結成と、目まぐるしい動きを見せる。

残ったペイジはヤードバーズの主導権を握ることになるのだが、そういうゴタゴタがあってもふたりの交友が壊れることはなく、おたがいの音楽活動をインスパイアするような関係が続く。

そんな中で、ふたつのアルバムが生み出されてくるのである。

第一期ジェフ・べック・グループ、結成当初のメンバーは、べック(g)の他にロッド・スチュアート(vo)、ロン・ウッド(b)、そしてミック・ウォーラー(ds)の四人。のちにニッキー・ホプキンス(kb)も正式メンバーとなる。

いずれも、名手ベックの相手としては申し分のない実力派ぞろい。ある意味で、ZEP以上の強力な布陣ともいえるグループであった。

こういうグループを横目でにらみながら第五期ヤードバーズを続けていたペイジが、「ヤツらくらいのいいボーカル、上手いリズム・セクションが欲しい」と思ったのは間違いあるまい。

その後、ヤードバーズの他のメンバーが全員辞めていった(辞めるよう仕組んだ?)のを機に、ペイジは一気に自分の理想のバンドを再構築する。

それがレッド・ツェッペリンだったというわけである。

そういう経緯をふまえてこのアルバムを聴くと、いっそう興味深い。

たとえば「ユー・シュック・ミー」。

ウィリー・ディクスン作、マディ・ウォーターズの歌で知られるこの曲を、ご存知のようにZEPもファーストでカバーしているのだが、聴き比べてみると、そのエキセントリックなアレンジがかなり似ている。

実際、ベック自身の証言もあり、ペイジがベックらの演奏を聴いて、ヒントにしたのは間違いないようだ。

ちゃっかりパクって、アルバム用の曲に使ったということだろう。

で、レコード・セールスのほうは、ご存知のように、ZEPのほうが何倍もの大ヒットとなってしまった。

ベックは彼の真似をしたペイジに、美味しいところを全部持っていかれてしまったのである。

いってみれば、ソニーと松下"マネシタ"電器の関係みたいなものか。ペイジ恐るべし。

それでもふたりの友情関係はその後も続いていたわけだから、ベックはよほど「いい人」なのだろう。

その他にも、ヤードバーズ時代のヒット「シェイプス・オブ・シングス」を再演しているが、新イントロをペイジはサード・アルバムの「アウト・オン・ザ・タイルズ」で使っていたりして、もう、パクりまくり。

ZEPのアルバムがいまだにコンスタントに売れているのに、この「トゥルース」はロック史の中に埋もれてしまったわけで、なんともお気の毒なハナシではある。

せめて、われわれの手で、もう一度発掘してみよう。

ブルース・ロックの典型のような「迷信嫌い」(これもW・ディクスンの曲、ハウリン・ウルフでおなじみ)、同じくロッド・スチュアート作「ロック・マイ・プリムソウル」「ブルース・デラックス」、BB&Aでも再演している「モーニング・デュー」といったブルース路線の一方で、「グリーンスリーヴス」では端正なアコギ演奏も聴けたり、ジャズ・スタンダードの「オール・マン・リヴァー」を取り上げていたり、意外なおもしろさがある。

ハード・ロック一辺倒にならず、どこかポップで軽いノリもあり、音楽的なふところの広さを感じさせる。

「ベックズ・ボレロ」(デビュー・シングル「ハイ・ホー・シルヴァー・ライニング」とカップリングされていた)はペイジの作曲で、このバックにはペイジはもちろん、フーのキース・ムーン、ZEPのジョン・ポール・ジョーンズも参加している。ぜひチェックして欲しい1曲だ。

ベックのトレード・マーク、フィード・バック・プレイも、随所で聴くことができ、またロッドのボーカルも、若さにあふれ迫力十分。

30年以上も前の作品だが、まだまだイケてます!