僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

ケータイ小説「パトスとエロス」②

2008年10月07日 | ケータイ小説「パトスと…」
そいつの名前は忘れた。あるいは最初から知らなかったのかも知れない。
そいつとは友達でも仲間でもないし、だいいち学年が違った。そいつは一個下、一年生だったのだ。

そもそもそいつと知り合ったのは喜多院という地元ではかなり大きな寺の境内で、愛犬の散歩中のことだった。
大きな寺といっても正月の三が日や桜の季節以外はうっそうとした森が静かに佇むだけの寂しい場所だ。特に本堂の裏や昔堀だったといわれる沼の周辺は、痴漢に注意の看板が妙に目立つだけの昼までも薄暗い場所になっている。

人気が無いだけ犬の散歩にはもってこいの場所で、同じような時間に時折見たことのある犬に出くわすこともある。
相手もきっといつものヤツだなと思っているに違いないのだが、だからといって挨拶をしたり愛犬の素性を尋ねたりといったことは無かった。当時はまだ今ほどペットブームにはなっておらず愛犬仲間というより犬同士のケンカでも始まったらどうしようという心配の気持ちの方が強かった。

境内のその場所に来るといつものように引き綱を解き、喜んでそこいら中を走り回る犬、コニーという名前だったのだが、そのコニーに駄菓子屋で買った英字ビスケットを放り投げてやったりして遊んでいた。

コニーは辰雄の兄が学校帰りに神社の鳥居の下でクンクン鳴いていたのを拾ってきた白黒斑の犬でスピッツやら柴やらが混じっているらしい雑種だった。拾ってきた当人より辰雄の方が世話焼きに熱心で、散歩に連れ出す機会も多く当然辰雄に一番なついていた。

小柄で運動神経が良く、辰雄を追って猛スピードで石垣をよじ登ったり、遠くに離れた隙に草むらに隠れてじっとしている辰雄を難なく見つけ出してはその顔を何回かでも多く舐めようと飛びついてくるような犬だった。

その日初めてあいつを見た。   つづく












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