僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

ケータイ小説「エロスとパトス」③

2008年10月08日 | ケータイ小説「パトスと…」
茶色の日本犬を連れていた。秋田犬だろう、コニーより二回りほど大きく太い足だった。
近づくとまず犬同士が接触した。それは挨拶と言うにはほど遠い乱暴なものであっという間にコニーは仰向けに押し倒された。辰雄はコニーが食い殺されてしまうのではないかとはらはらしながら、しかし何もできずにいた。

コニーはキャンキャンとしっぽを巻いて飼い主の下へ逃げ帰ってくる事はせず、圧倒的な体力差に押しつぶされながらも下からうなり続けていた。
隙あらば攻撃しようと前足を突っ張り後足で蹴り上げたりもするのだが組み敷かれた体勢から逆転することはできなかった。

もういい加減に止めた欲しいと飼い主の方を見ると、ニヤニヤと笑って楽しんでいる風だ。
辰雄はやめろと叫ぶこともできず、それこそ歯茎までむき出してよだれを垂らしながらうなり続けている秋田犬をコニーから引き離すほどの勇気もなかった。もうその場の殺気だった空気にただ圧倒されていた。

そいつはそんな辰雄を見て完全に優位に立ったのだろう。あごをしゃくり上げ目を細め、肩を怒らせた威圧的な歩き方で辰雄の前に立つと、犬なんかどうでもいいという様子で辰雄の胸ぐらをいきなりつかんだ。
辰雄の恐怖心は尋常ではなかった。心臓は破裂しそうになり顔面は多分蒼白になっていたのだろう。小便をチビってしまわなかったのが不思議なくらいだ。

そいつのこぶしが辰雄の頬に当てられた。イヤに冷たいこぶしだった。こんなところで不良の餌食にされるなんてなんて不運なんだろ。
そう思ったのだが、殴られたのではなかった。殴った真似をされたのだ。

それでも辰雄の恐怖心がぬぐわれるわけではなかった、そいつの顔が目の前にあり、次のパンチが繰り出されるのが見えたからだ。











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