僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

「パトスとエロス」⑯

2008年11月04日 | ケータイ小説「パトスと…」
清水一美とは一言も話したことはない。
部活の最中転がったボールを拾いに女子のコートに入った時、盛んに声を上げて動き回る姿に胸がキュンとした。
昇降口で友達と楽しそうにおしゃべりをする彼女とすれ違う時、一瞬向けてくれた笑顔がまぶしくて辰雄はすぐに下を向いた。

好きというより憧れの存在だ。

好きというのはもう少し現実的なもので、同学年しかも同じクラス内と相場が決まっている。


辰雄は留美子が自分に好意を持っていることを知っていた。だからよけいにその名前を言えなかった。
長池と辰雄のどっちを取るか留美子に選ばせたら辰雄が選ばれるであろうことはほとんど確信に近かった。
俺は留美ちゃんが好きと周囲に触れ回る長池にそんなこと言える訳ないじゃないか。コレってひょっとして三角関係?いいや、自分が言わなければ三角にはならないんだ。


辰雄は間違いを犯したことに後から気付いた。
留美子に自分の本心は知られなかったが、代わりに辰雄が一美を好きらしいということが伝わったかも知れなかったのだ。
噂とはいえ当然留美子もそれを信じるだろう。その時どうなるのかと考えた時、長池と話したことを本当に後悔した。

でも一美さんも本当に好きなんだからそれでもいいか。

どっちの展開になってもそれが辰雄にとって災難なのかキューピッドが微笑むチャンスなのか分からないのだが、ひとつだけはっきりしていることは、つい言ってしまったあの一言で何かが変わってしまうらしいということなのである。


一週間後、実際それは思ってもみなかった展開でやってきた。






















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