僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

「パトスとエロス」⑱

2008年11月09日 | ケータイ小説「パトスと…」
留美子が出て行った扉をしばらくの間見つめていた。
手元では一美さんがピースで微笑んでいる。

この状況をどう整理したらよいのだろう。写真を欲しいと思ったことはなかったが、手に入ればそれはそれで嬉しいことに違いないのだが、留美子がそれを持ってきたことを考えると素直に喜べない辰雄だった。


その日以来留美子の辰雄に対する態度が変わった。


冗談を言っては「うっそー!」と背中を叩いたり「ねぇねぇ辰雄君」と言いながら腕をからめたり「みてみて」とノートの隅に描いた先生の似顔絵を見せてくれたり、手のひらをにぎにぎしながら「さよならさよなら」って淀川長治の真似をしたり、そんなことをしなくなった。

留美子が変わってしまったのではなかった。
相変わらず「うっそー!」と大きな声をあげて驚いてみせたし「ねぇねぇ辰雄君」と話しかけてきたし、帰りにはバイバイもした。
でも、背中を叩かなくなった。
腕をからめなくなった。
淀川長治のにぎにぎはしなくなった。

意識したことは一度もなかったのだが、気がつくと留美子は少し遠くに行ってしまったような気がした。
留美子の何気ない仕草が嬉しかったのに。いつもの仕草が好きだったのに。そう気付いた時、

好きだと伝えたいと思った。
















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