僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

「パトスとエロス」⑲

2008年11月16日 | ケータイ小説「パトスと…」
手紙を書くんだ。ラブレターだ。そう決めて机に向かった。

便せんは普段父親が使っている和風のものが戸棚にあったが、何だか似つかわしくないような気がしてやめた。
花のイラストがうっすらと透かしのように入った上品なものもあったが、いろいろ迷った末結局無地を選び広めの罫線を下敷きにすることにした。

ペン立てに差してあったボールペンを握り深呼吸をひとつしてみた。
BICの黄色い軸がとても安っぽく見えて書くのをやめた。
引き出しを探り、モンブランのケースを出した。

それは兄から譲り受けた万年筆で、文字を書くことはほとんどなかったが時折出して握ってみたりスクリュー式のキャップをはずしたり、眺めているだけで嬉しくなるような高級品だった。

兄は大喜びする辰雄に
「日本人はモンブランモンブランと言って喜んでるけど本当に良いものはペリカンなんだよ」
などとよく分からないことを言って大切な万年筆を辰雄にくれてやる理由を説明していたのだが、そんなことは辰雄の耳には当然入ってこなかった。

今それは手紙を、それも大切なラブレターを書くという計画を劇的に演出してくれる最良の小道具になった。


辰雄はまずヤカンを火にかけた。そうしておいてから机にちり紙を何枚も重ねて置き、モンブランを慎重に分解していった。




















コメント
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