横浜美術館の正面からパチリ (設計 丹下健三)
2月某日、念願の横浜美術館「トライアローグ」展へ出かけました。
もっと早く見たかったのですが、緊急事態宣言の解除がさらに延期になってしまったので重い腰を上げました。公共交通機関は使わず車、少人数の入場制限のため予約制です。11時少し前に入館しました。
「トライアローグ」の意味ですが、「3館の語らいが紡ぎだす、アートの革新の世紀」とあり、3館とは、横浜美術館、愛知県美術館、富山県美術館で、それぞれの地方を代表する大型公立美術館です。
それぞれの美術館ご自慢の西洋美術コレクションの中から20世紀に活躍したピカソ、ミロ、ダリ、マティス、クレーなどの作品を厳選して展示しています。
最初にピカソの作品が4つ展示されていました。青の時代のピカソから始まり、解説から作風の変化とピカソの女性関係の変遷が微妙に絡まり合っていることを知り、人間ピカソを感じ、思いを馳せながら鑑賞することができました。
同じ作者かしら?思うほど作風が変わっていき、まさに芸術家の破壊と創造の苦しみと喜びを感じさせられます。
比較的空いていたので1から4まで何度も見直しましたが、「座る女」が一番のお気に入りです。デフォルメされ、いくつにも切り取られた女の表情が悲しみ、苦悩、怒り、冷静沈着など、見る部分や見る者によってイマージネーションが変化する様にも魅せられ、のめり込んで鑑賞しました。
1.「青い肩かけの女」 パブロ・ピカソ 1902年制作 愛知県美術館
2.「肘かけ椅子の女」 パブロ・ピカソ 1023年制作 富山県美術館
3.「肘かけ椅子で眠る女」 パブロ・ピカソ 1927年 横浜美術館
4.「座る女」 パブロ・ピカソ 1960年 富山県美術館
・・・心を揺さぶる作品に出会えることが出来て、これだけでももう満足でした。
「肘かけ椅子で眠る女」 パブロ・ピカソ 横浜美術館
好きなのは上記4作の他に「受難」(ルオー)、「待つ」(マチス)、「山羊を抱く男}(シャガール)・・・
3館所蔵のパウル・クレーの作品が5点並んで展示されていたのも見ごたえがありました。近くに寄って見ると、何重にも塗られた油絵の具の色合いが浮かび上がり、微妙なタッチや美しい調和が感じられる繊細な絵でした。ゆっくり近づけるのもラッキーです。
女性の裸体と遠近法(透視図法)が不思議な雰囲気を醸し出している、ポール・デルヴォーの「こだま(街路の神秘)」(愛知県美術館)、「夜の汽車」(富山県美術館)、「階段」(横浜美術館)の3点が並んで展示されていました。
女性の裸体は陰毛が強調され、違和感を感じながらも目が離せず、強烈な印象と、この世とは違う静寂を感じる中、幻想的な空間が広がっています。不思議な絵でした・・・機会があったら、他の作品も見てみたいです。
他にもご紹介したい作品があるのですが、撮影禁止なので記憶に残っているものが正確かどうか、今一つ自信がありません。
「王様の美術館」 ルネ・マグリット 横浜美術館
それから強烈な個性を放つ、ルネ・マグリットの「王様の美術館」は横浜美術館の人気の看板作品で、面白い企画があったことを知りました。
「トライアローグ」展開催に向けて、「王様の美術館」の絵に因む物語(400字程度)を募集したそうです。1000を超える応募作品から入選作3点が選ばれ、映像化され上映されていました。
福士 音羽作の「誰も知ることのない物語」という作品を見ました。・・・透明感や透明人間のような神秘的な美しい映像が頭の中で次々と連想される、素敵な物語です。俳優でありダンサーでもある森山未来の朗読とパントマイム(踊り?)も良かったです。短いので、その物語を紹介しましょう。
誰も知ることのない話 福士 音羽
王様は今日もひとり、バルコニーへと向かいました。
そこには、黒衣に身を包んだ男が静かに佇んでいます。鬱蒼とした森の中にあるこの城を訪れる者はこの男だけ。最初こそ驚いた王様ですが、今は慣れたものです。
王様が「今日も頼む」と声を掛けました。すると周囲の暗色に同化していた男の姿が透けて、代わりに夜が明けてきた空と、森の中にある美しいお城が浮かんだのです。王様はそれをうっとりと見つめると、満足気にほう、と息をつきます。
「やはり何よりも美しかった、我が城は」
そう言うと今度は悲しそうに溜息をついて、あたりを見回しました。
かつて国一番の美しさを誇った城はもう何百年も人は住んでおらず、今は廃墟となり、灯りの消えた城は常に真っ暗です。王様ももう王様ではなくなっていました。
一人この城にいつまでも残り続ける王様はこうして、男の姿を通して二度と訪れることはない城の夜明けを毎日臨みます。
美しい情景を映すその男を、王様だった幽霊は「王様の美術館」と名付けました。
誰も知ることのない話です。
横浜美術館内のエントランスの広場
併設の横浜美術館コレクション展「ヨコハマ・ポリフォニー」もとても楽しみでした。これについては写真がありますので次回にします。(つづく)