暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

アブダビからの香木

2010年03月16日 | 茶道楽
森鴎外の小説「興津弥五衛門の遺書」に登場する
伽羅の名木
は安南国(べトナム)からの到来品でしたが、
我家へ珍しい香木がアブダビからやってきました。

布絵を作っている親友が静岡県にある別宅(本宅?)へ移ることになり、
家財道具の整理中だそうです(淋しくなるぅ・・)。
娘さん一家が滞在していたアブダビで買ったという香木を
「あなたのお茶のお役にたつのでは・・・」
と、三つ頂戴しました。

「アブダビってアラブ首長国連邦の首都だったかしら?
 砂漠が多く、石油の産出国で豊かな国」
という程度の知識しかなかったので、
香木の故郷について調べてみました。

アラブ首長国連邦(the United Arab Emirates:UAE)は、
アラビア半島のアラビア湾沿いに位置し、アブダビ、ドバイ、
シャルジュなどの7つの首長国で構成されている国です。

面積は83,600平方Km(日本は377,914平方Km)、
人口は477万人(2008年)、首都はアブダビ、民族はアラブ人、
言語はアラビア語、宗教はイスラム教。
一人当たりGDP53,110ドル(2008年、世界14位、日本は23位)。

昭和48年(1973)のオイルショックの際に、
UAEは日本を禁輸国リストから除き石油を提供してくれました。
現在、日本へはUAEの原油輸出量の約26%
(日本の原油輸入量の27%)が供給されていて、
最大の貿易相手国となっています。

             

アラブでは、香木を焚いて香りを楽しむ文化が根付いていて、
薫煙を浴びて体を香らせる化粧料、
飲食の香り付けや味付けとなる食材、
そして薬としても香木が用いられているそうです。

そんな香りの文化を持つアブダビからの到来品。
近々、七事式の仙遊之式で使いたいので、
どんな香りなのか、興味津々で一つ焚いてみました。

くせのない上品なバニラ系の香りで、伽羅かもしれません。
色はこげ茶です。
なんせ、聞き分けができるほど聞いておりませんので
あくまで推定です。
MARSHALLさま、Iさま、SOS・・・です。

今、香りが静かに深く家中に漂っています。

                      

    写真は「白木蓮の大木」と「アブダビからの香木}です。


伽羅の名木 (2)

2010年03月14日 | 茶道楽
    (つづき)

「主命なりとも香木は無用の玩物」
と、価値を認めない横田清兵衛。
「このたびの渡来品珍物の第一は伽羅の本木にこれあり」
と、主張する興津弥五衛門。

口論の末、ついに清兵衛は刀を抜き切りかかりますが、
清兵衛が切れたのは茶事の心得がないことを指摘されたからでした。

弥 「貴殿が香木に大金を出すこと不相応なりと思うのは
   その道の心得なきゆえ 一徹にそのように思わるるならん」
清 「いかにも某(それがし)は茶事の心得なし 一徹の武辺者なり
   諸芸に堪能なるお手前の表芸が見たし・・」

しかし、弥五衛門は清兵衛を一打に討ち果たしてしまいます・・。

伽羅の本木は細川三斎公へ、末木は仙台伊達家へ買い取られました。
持ち帰った伽羅の本木は稀代の名木で、
  「聞く度に珍しければ郭公(ほととぎす)
        いつも初音の心地こそすれ」
の古歌にもとづき、「初音」という銘がつけられました。

寛永三年(1626)、宮中より細川家へ名香の所望があり、
「初音」を献上したところ、主上より
  「たぐひありと誰かはいはむ末匂ふ
          萩より後のしら菊の花」
の古歌の心にて「白菊」と名付けさせよとの仰せがありました。

もう一つの、伊達家所持の末木は
  「世の中の憂きを身に積む柴舟や
        たかぬ先よりこがれ行くらん」
という歌の心にて、「柴舟」という銘で珍重されました。

三斎公へ香木を参らせた弥五衛門は
「お役を果たした上は切腹仰せ付けられたく・・」
と願い出ますが、三斎公は遺恨を残さぬよう横田家との仲裁をし、
弥五衛門は切腹を許されませんでした。

三斎公卒去より13年後の正保4年(1647)12月、
興津弥五衛門は命を助けられた三斎公に殉じて切腹し、
武士の本懐を遂げたのです。

         (前へ)
                           
   写真は「桃の花」
   「季節の花 300」 http://www.hana300.com 提供です


                       

伽羅の名木 (1)

2010年03月12日 | 茶道楽
五事式の会で、且坐に用いる香は伽羅にしたいと思いました。

ほんのりと優しく上品な伽羅を末席で聞きました。
香道を嗜んでいるIさんから頂戴した名木です。
いつまでも聞いていたい香りでした。

正客より香銘のお尋ねがあり、待合に掛けた
「春の苑紅にほう桃の花
     したでる道に出で立つ乙女  家持」
に因んで
「今日のお客さまにぴったりの「春の乙女」でございます・・」
席中が笑顔でいっぱいになりました。

天下に名高い伽羅の名木が登場する小説、
森鴎外の「興津弥五衛門の遺書」を最近読みました。

大正元年(明治45年、1912)10月に発表されたこの小説は、
明治天皇崩御と、それに続く乃木希典夫妻の殉死に
感銘を受けた森鴎外が一夜(実際には数日)にして書き上げた
・・・と言われています。

以下にあらすじを紹介します。

寛永元年(1624)に安南船が長崎に到着したというので
細川三斎(忠興)公は
「茶事へ用いる珍品を買い求めよ」
と、興津弥五衛門と横田清兵衛を長崎へ遣わしました。

折しも珍しい伽羅の大木が渡来していて、
元は一本の木ですが、本木(もとき)と末木(うらき)
の二つがありました。
弥五衛門は仙台伊達家の役人と本木を競り合い、
莫大な値段へ釣り上ってしまいます。

      (つづく)
                             
   写真は、「馬酔木(あせび)」です。                     

五事式の会と埋火 (2)

2010年03月08日 | 茶事
3月2日に五事式の会が無事終了しました。
三回目は新メンバーの方々が半東、正客、詰と大活躍でした。

最終回の亭主でしたので半東のIさんと相談して
「埋火から火を熾す」という課題に取り組んでみました。

何と言っても灰を暖めることが第一です。
熱は上昇気流となって上へ逃げてしまうので
如何に早く効率よく炉中を暖めるかを考えました。
11時の席入後、すぐに廻り炭なので時間との戦いです。

朝早くからIさんが下火を入れて灰を暖めてくれました。
雲竜釜(釣り釜)に半分ほど湯を入れ、沸かしました。
これも釜の輻射熱を少しでも灰へ廻すためです。
さらに下火の一つを半分以上埋めて炉底の灰を暖めました。

第二に、灰の中に空気(酸素)を入れることも重要です。
火入れと同じように炉中の灰を掻き回しておく(空気を入れる)
こともしてみました。

第三に、埋め方を考えてみました。
空気の流れを遮断しないように深く掘り、炭を縦に埋めてみました。
これはHさんのご提案です。

第四は、炭の形状と熾し方です。
炉壇が浅いため、丸ぎっちょを縦に埋めるのは無理なので
小さめの輪胴(できたら風炉用)を熾し下火に入れました。
この時の下火は、どのくらい経過したら丁度良い太さになるか、
時間を計って熾す必要があります。

・・・試行錯誤で考えられる事をやってみました。

掘り出した埋火は、鶯の茶事の時より心細い火だったので、
懐石中もずっーと心配していました。
やっと赤い炭火を見た時の嬉しさは何とも言えません・・・。
朝早く来て灰を暖めてくださった半東さんに心より感謝です!

             

一方で反省することも多く、花寄せの折、花が止まらずに
何度もやり直し、花を変えたりしました。
香盆を書院棚に飾るのを忘れ、家に帰ってから
そのことを思い出しました。
・・・切りがありませんね。

             

反省材料はたくさんあったけれど、
三回とも楽しく有意義な五事式の会でした。
素晴らしいお仲間とご一緒できて、感謝しています。

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瀬谷の吊るし雛 (2)

2010年03月04日 | ハイキング・ぶらり散歩
    (つづき)

竹村町・川口邸の吊るし雛を見てから、もう一軒、
横浜市瀬谷区中屋敷にある石井邸の吊るし雛へ廻りました。
町名は違いますが、歩いて3分ほどの所です。

こちらは縁側に面した表座敷の二部屋いっぱいに雛人形、
吊るし雛、手作りの人形が飾られていました。
よく見ると陶芸品も展示されています。
家が雛たちに占領されているのですが、
雛も家人たちもとても嬉しそうなのです。

            

庭先のしだれ桜の下に大きなテーブルが二つ。
沢山の人が吊るし雛を鑑賞しながら、甘酒を飲んだりして
「雛よりだんご・・」と、くつろいでいます。
搗きたての草餅や革の手工芸品を売っている出店もあり、
賑やかで活気に溢れていました。

風流な川口邸とは趣が全く違うオープンな雰囲気です。
「こういう吊るし雛も好いわねぇ~」とTさんと話しました。

            

お汁粉200円、甘酒100円也。
近所の人達が総出でお接待や売り子をしている様子です。
列に並んで焼きたてのお餅の入ったお汁粉を待ちました。
お茶と沢庵二切れ、フキノトウの煮物が付いています。

フキノトウの煮物が絶品でした。
作り方を尋ねると
「丸ごとサッと茹でてから切って油でいため、
 砂糖と醤油を入れて少し煮含めただけ・・」
と、気さくに教えてくださいました。

しだれ桜の大木が咲く頃にまた来てみたい・・と思いました。

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  写真の一番下は、大壷に生けられたサンシュユと桃の花です。