暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

西行庵の朝茶-1  蝋燭の元で

2013年11月18日 | 献茶式&茶会  京都編
                     朝の円山公園


     心なき身にもあはれは知られけり
          鴫しぎたつ沢の秋の夕暮   西行法師

雨の朝、西行庵の朝茶へ伺いました。

西行庵(京都市東山区円山公園南)は、
平安時代に西行法師が「祭華園院」を営み、
また、一説には終焉の地とも伝えられる真葛ヶ原の旧蹟で、
西行堂、母屋、離れ「皆如庵」などが現存しています。

西行庵の朝茶では西行法師へ香が手向けられ、茶が献じられます。
毎日行われる西行庵のお勤めに客が同席し、
献香と献茶を相伴させて頂くというものです。

           
                       西行庵

茶友YさんとSさんに同行して、夜が明けぬ6時前に席入しました。
母屋の茶室は四畳半、畳縁が二方にあって、八畳の広さがあります。
炉には釜が掛けられ、点前座には豪華な(?)棚が設えてありました。
床には掛物と花、
白玉椿とハシバミが竹一重切に生けられていました。

三つの燭台の灯りが荘厳な空間を生み出し、印象的でした。
一つは床柱に、桜の透し文様の燭台が二つ、畳に置かれていました。
それらが一つずつ消えていく様子は趣き深く、短い命の輝きのよう・・・。

西行庵の若宗匠と挨拶を交わし、床の掛物の話を伺いました。
お軸は能「江口」に因む画で、
上方に天女のような女人、下方に西行法師が描かれています。
女人は遊女・江口の君、普賢菩薩となって空へ上って行くところです。

           
                      西行堂

香から始まりました。
灰を調え、灰筋をつけていく香の点前に見惚れていると、
6時を告げる鐘聲がBGMのように聞こえてきました。
二つの鐘が交互に、高台寺と知恩院でしょうか?

香が焚かれ、香炉が西行法師をお祀りしている床の間に置かれました。
その後、一人ずつ床前に進んで聞香し、身心を浄め、
清雅な香りを楽しませていただきました。

次は献茶です。
万代屋釜から湯が汲まれ、天目台に乗った天目茶碗で
茶が点てられ、献じられました。
点前は円位流、西行庵・若宗匠が武家茶(藪内流など)の点前を参考に
考案されたとのこと、袱紗捌き、柄杓の扱いなど見ごたえ十分でした。
献茶の後で、菓子が運ばれ、薄茶を二服ずつ相伴しました。

           

だいぶ時間も経ち、明るくなってきたのですが、
三つの燭台のうち、最後の一つだけが灯っていて、まさに残燈の茶会です。
・・・やがて、それも消える頃、母屋を退出して露地を通り、
茶室「皆如庵(かいにょあん)」の見学へ向かいました。

                                 

        西行庵の朝茶-2 茶室・皆如庵 へ



錦繍の茶事に招かれて-2

2013年11月15日 | 思い出の茶事  京都編
(つづき)
初炭に続いて、楽しみな懐石になりました。
ご亭主は某家庭茶事の会の会員、懐石はすべてご自分でされるので
一人亭主を修業中の暁庵にはとても勉強になります。
シンプルな献立、自分の味を追及する姿勢が好ましく刺激を受けました。

目利きのご亭主だけあって、随所にちりばめられた懐石道具が垂涎でした。
ご亭主が楽しみに求めていった様子が目に浮かぶようです。
一つだけ紹介しますと、燗鍋。
銀の急須の下に台がくっついていて、可愛らしく笑えます。
お酒(地酒、福の光)が下の台まで入る優れもので、浄益造でした。

             
                    錦秋の京都         

銅鑼の音を聴き、後入りすると、
床には白い椿(初嵐)。
凛と辺りを祓い清めて、一輪ありました。

雨音が聴こえる中で濃茶点前が始まりました。
青竹の蓋置に「喝!」と置かれた大きめの柄杓、
中蓋や中仕舞の所作を新鮮な気持ちで拝見しながら
風炉の端整な点前とは一味違う炉の温かな雰囲気を愉しみました。

茶の香りが満ち溢れ、濃茶「初昔」(上林詰)を三人で
美味しく頂戴しました。
主茶碗は金海、州浜のような形で胴に猫掻があります。
薄い白磁の茶碗の内に薄紅色のしみがかかりだしていて、
これからどんどん佳くなるだろう・・・と楽しみな茶碗です。
水指は瀬戸、小振りですがこちらも魅力たっぷりでした。

            
                    清水寺の秋景

火相も湯相もよろしいので、そのまま薄茶になりました。

薄茶になっていろいろなお話をしたのですが、
一番印象に残っているのは、仕事と介護をしながら数々の茶事をし、
準備を工夫しながら楽しんでいらっしゃることでした。
細やかな心遣いが行き届き、豊かで刺激に満ちた時間が過ぎて行きます。
「今日、伺って本当に良かった!」と思いました。     

最後に次客Hさまのお点前でご亭主に一服差し上げ、
労をねぎらうことができ、これも好かった・・・と思います。
茶杓銘「直心」(紫野喝堂作)の如く、
ご亭主さま、相客Hさま、Kさまとの直心の交わりが嬉しゅうございました。
早や、次回の御目文字を今から楽しみにしています。

            
                藤の種・・・山科・毘沙門堂にて

もう一つおまけがあって、帰りにご亭主行きつけの骨董屋へ
Hさまが車で連れて行ってくださって、
足りない稽古道具を数点買い込んでしまいました。
これもヨカッタ・・・です。

聴雨茶味清・・・素晴らしい錦繍の一日に感謝です。

                                  

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錦繍の茶事に招かれて-1

2013年11月14日 | 思い出の茶事  京都編

    おりたちてけさの寒さにおどろきぬ
      つゆしとしとと かきの落ち葉深く    伊藤左千夫

11月10日、西をめざす高速バスに乗りました。
秋は足早に深まり、窓の外は紅葉の盛りです。
柿の葉は既に落ち、枝に残る柿の実も残り僅かでした。
景色に見惚れていると、一転にわかに黒雲があらわれ、
嵐のような横殴りの雨に襲われました。
前回のKさんの茶会もそうだったし、到着の頃には雨は上るだろう・・・と。
幸い、上手に雨が避けてくれたみたいです。

相客Kさんがピックアップしてくださって席入は12時です。
もう一人の相客Hさんも早や車でいらしています。
二度目の訪問なので、落ち着いて周囲を眺めると、
土間にアンティークの箪笥が三棹あり、その一つ、車箪笥の上に
落ち葉がいっぱい飾られていました。
正倉院展へ行った折に拾ってきたそうで、秋色のエントランスです。

            

二階の寄付には大正浪漫の振袖が衣こうに掛けられ、
本箱にもカーテンのように着物が掛けられています。
八畳の待合で白湯を頂き、腰掛待合へ移動しました。
待合と腰掛の火入と灰形がステキでした。
吉向松月窯のあさぎ釉火入も気品がありましたが、
腰掛で前回一目ぼれの赤楽火入(池川みどり造)に嬉しい再会です。

躙口を入ると、二畳上げ台目(?)の茶室です。
台目の下座床に「関」の一字のお軸、紫野喝堂和尚筆です。
心新たに炉の時季を迎えるのにふさわしい禅語で、
「関」(さとりの境地)へ到達すると、そこは終着点ではなく、さらに
東西南北に自由に己を活かす道が拓けている・・・という意味でしょうか。
・・・わかったようなわからないような、大好きな禅語です。

和やかに挨拶が交わされました。
ご亭主の笑顔も素敵ですが、御召し物がとてもお似合いでした。
錦秋ではなく「錦繍」と呼びたい枯葉色の訪問着のご亭主が
いろいろな魔法をかけて、茶室というシンプルな空間を
秋の彩りに染め上げていきました。
それで、「錦繍」の茶事と名づけました。

           
                昨秋の清水寺の紅葉

炉の初炭手前が始まり、半年ぶりで新鮮です。
新鮮と言えば、煙草盆の灰吹き、青竹の蓋置、そしてふくべの炭斗、
青竹をご自分で切り、干瓢の中身を処理した自作とか、びっくりです。
炉を皆で囲んで、炉中の景色、湿し灰の風情、炭手前を拝見できるのも
ワクワクし、温かな雰囲気が好いですね。

釜は姥口刷毛目、寒雉造です。
香合は独特の緑がかった灰釉が見られる葛屋、
これも揖保川焼の池川みどりさんの作品でした。

                              & 

        錦繍の茶事に招かれて-2 へつづく   


北村美術館と四君子苑-1

2013年11月08日 | 美術館・博物館

灑雪庵・秋の茶会があり、書けなかった出来事を振り返っています。

10月27日、四君子苑公開の最終日にやっと出かけました。
四君子苑は、毎年、春と秋に公開されているのですが、
忙しい時期なのでいつも見そびれていたのです。

最初に北村美術館の展示「夕ざりの茶」を見ました。
前回は9月28日、大徳寺月釜でお会いした藤沢市のKさんと訪れ、
感想を話し合ったり、お好みを選んだり、楽しいひと時でした・・・。
今回は珍しく主人と一緒です。
特別展示の水墨画を見せたい・・・と連れてきたのでした。

それは、与謝蕪村筆、墨画淡彩鳶烏図 双幅(重要文化財)です。

             

「烏」
しんしんと降る雪の中、
雪に覆われた古木に留まる二羽の烏、
寒さをじっと耐えて身を寄せ合っています。
降る雪の音だけが聞こえる静寂の中・・・
動かぬ一処だけ幽かなぬくもりを感じます。

「鳶」
びゅう~びゅうう~ん
細い枯枝にとまる一羽の鳶。
横殴りの風と雪が容赦なく鳶に襲い掛かります。
厳しい寒さに耐えているというよりむしろ
襲い掛かる風雪に頭をもたげ、昂然と対峙している孤高の姿です。
枝のたわみ、ふくらませた羽根の幽かな揺れまで感じさせてくれます。

「静と動」「縦と横」「右と左」などの対比も興味をそそります。
いつまでも何度でも鑑賞したい水墨画に出合えて、楽しみが増えました。
京都で水墨画を習いだした主人も熱心に鑑賞しています。
(気に入ったみたい・・・です!)

              

今回の茶道具の展示テーマは「夕ざりの茶」。
暮れの忙しい最中に仕事を早々に切り上げ、いそいそと茶を楽しむ
・・・そんな数寄者たちを彷彿させる展示内容でした。

夕ざりの茶事は、季節も内容も決まりごとがないこと、
昼間(陽)と夕方から夜(陰)の異なる風情が楽しめること、
支度もゆっくり出来るので、大好きな茶事です。
特に蝋燭の元で行われる濃茶は主客共に精神統一しやすく、
たぐいまれなる時間を生み出してくれます。

展示は茶事の順番になっているので、
「夕ざりの茶」に招かれた、贅沢な気分を味わうことができました。

寄付の「時代栗木地殴」の汲出盆、
荒々しい殴が時代を経て、やさしく栗盆を引きたてています。
この頃、古い木地や盆(木、金属)がとても気になっています・・・。

濃茶席(小間)の茶入は「利休好 中棗 盛阿弥作」、
このような中棗を使い包帛紗の点前で濃茶を点ててみたいと憧れます。
仕覆は利休漢東、青の色合い、細かな漢東が印象的です。
金森宗和作の茶杓も一本深い樋が通り、色艶もよく、華奢で
仄かな色気を感じます。

続き薄茶の替茶碗、「真葛長造作 仁清写 ゆずり葉」
歳暮の時期にふさわしくゆずり葉の登場です。
すっきりとしたゆずり葉が外と内に伸びやかに描かれていて、
飽きのこない茶碗です。二人ともお気に入りに認定しました。

いよいよ「四君子苑」ですが、ゆっくり書きたいので次回にします。

北村美術館 「夕ざりの茶」 
展示期間:平成25年9月6日~12月8日

        北村美術館と四君子苑-2へ              

灑雪庵・秋の茶会-2

2013年11月06日 | 茶事  京都編
(つづき)
第二席目は五名様、都合で正客なしとさせて頂きました。
席入順で、枚方市のKさま、神戸市の同じ社中のHさま、
西宮市のTさま、札幌市のHTさま、詰は狭山市のNさま、
初めての御目文字は胸が高鳴り、再会も嬉しさで胸いっぱいでした。

申し合わせで香はKさま、花はHさまにお願いしました。

                
                 名残りの花
                 オミナエシ、桔梗、ホトトギス

濃茶を重茶碗で二服お点てしました。
紅の帛紗を捌いて茶入を清め、捌き直して茶杓を清めていきます。
茶筅通しで三度打ち、心の中で「ラン パン ウン」
浄めの呪文(?)を唱え、茶筅と茶碗を清めます。

薄暗く静寂の中、濃茶を点てる所作に主客ともに集中していく、
まさに茶の醍醐味ここにあり・・・。
茶の香りが拡がる中、濃茶を一心に練り上げました。
茶銘は雲門の昔、一保堂詰です。

一碗目は黒楽茶碗、愛用の長次郎「喝食(かつじき)」写、
二椀目は赤楽茶碗、銘「玉三郎」です。

一席目の黒色の歪んだ形状の茶入は揖保川焼・池川みどり造です。
茶会前に茶友Kさんから偶然送られてきたものです。
「濃茶はしないので暁庵さんに永久貸与(?)します。
 使ってくださると茶入も喜ぶと思いますので・・・」
Kさんのお気持ちが嬉しく、後述の茶会テーマにぴったりで、
早速使わせていただきました。

二席目の茶入は朝鮮唐津の茶入、唐津・鏡山窯の井上東也造です。
私にとって思い出深い茶入ですが、今回はモノトーンということで・・・。

             

薄茶になると、お客さまも緊張が解けたようで和やかになりました。
煙草盆と干菓子(鶴屋吉信製)をお出しし、
薄茶を二服点ててから、半東Yさんにお願いしました。

薄茶席で「秋の茶会」のテーマ「道具の存在を消す」
についてお話したかったのです。
利休さまがこのテーマを追及され、黒楽と赤楽の茶碗が生み出された
・・・と伺ったことがきっかけです。
名残りの時季でこのテーマがやり易かったこともありますが、
「道具の存在を消す」道具組で実際に試みてみました。
奥深いテーマなので、機会を見つけて、また取り組んでみたいです。

薄茶席に登場した侘びた茶碗ですが、
志戸呂焼茶碗と虫明焼二椀で、虫明焼は骨董市で購入したものと、
「虫明焼の栞」10周年記念で頂戴した茶碗でした。
これらもテーマにぴったり、不思議なご縁を感じて使いました。
細水指は紅葉がひそやかに散る丹波焼、
茶杓は銘「秋しぐれ」です。

             
                   Hさま手づくりのランプ

「秋の茶会」の主役はお客さまと亭主で盛会(正解?)でした。
香の効能もあってか、楽しく一座建立できましたこと、深謝いたします。
お茶を通じてお人との交流が素晴らしい体験で、特に退出の時の
お客様の顔がきらきらと輝いていらしたのが印象に残っています。
またの御目文字を楽しみにしております。

お客さま、半東Yさま、たくさんの友人、主人に支えられた茶会でした・・・。
ありがとうございます!

                                
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